水の空の物語 第4章 第22話
よく考えたらと、風花は思った。
もし、飛雨くんに追いついけたって、春ヶ原に行けるはずはなかった。
春ヶ原がある蓮峯山まで、バスで行っても一時間だ。 飛雨ならともかく、風花の足では何時間かかるか分からない。
というより、あんな険しい山道を歩く体力はない。
絶対に途中で歩けなくなるだろう。
また米俵のように担がれて、迷惑をかけてしまう。
それに、バス停からは道もないところを進むんだった。
本当に、なにやっているんだろう。わたし……。
鬱々と気持ちが沈んでいく。風花は机に突っ伏した。
藤原の御泉公園……。
思いたった風花は、ぱっと立ち上がった。勢いでイスが倒れる。
静かな図書館内に、不快音が響き渡る。周りの人が風花を見、職員が駆け寄ってきた。
職員は倒れたイスをもどしてくれる。
「…… ごめんなさい」
風花は何度も頭を下げた。
藤原の御泉公園には、夏澄たちが住処にしている霊泉がある。
体を癒やしてくれる霊泉で、夏澄たちは夜、そこで休んでいる。
あそこで待っていれば、夏澄くんはもどってくるっ。
萎れていた心が、膨らんできた。
風花は早足で歩き出した。
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