水の空の物語 第2章 第12話
「霊力って、どうして? なにかあったの? 風花」
夏澄が心配そうな顔をする。
いつもの優しい瞳で、風花を見つめる。いい合いを始めたスーフィアたちから、距離をとって、すわり直した。
風花のことも、すわり直させてくれる。
「そうじゃないけど、……夏澄くんの手伝いをするっていっても、わたしないもできないし」
「そんなこと、気にしないでいいんだよ」
「……それに、癒しの霊力っていいなって。私も、みんなの怪我を治したいの」
夏澄はなにかを考え込むように、黙り込む。飛雨のほうに視線を送った。
「飛雨、どう思う? 風花は霊力持てるかな? 」「……それはちょっと、あれだよ。霊力は普通、生まれつき持ってるものだし」
まあ、前例はあるけどと、スーフィアが続ける。
「そんなことは稀有で、……ごめんね、風花。不可能に近いと思う。それでも、がんばってみる?」
「はい、お願いします」
風花は声に力を込めた。
「ありがとう、風花。でも、時間をかけましょうね。もし、風花に才能があったとしても、すぐに身につくものじゃないし」
「でも……」
「風花、無理しないでいいんだよ。人としての風花のまま、できることをしてくれたらいいんだ。それとね……」
夏澄は一度、言葉を切る。
「風花には、別にお願いがあるんだ。……風花は、蓮峯山って知ってる?」
「え、と……。海の方にある山?」
「俺たちね、今度、蓮峯山に洪水伝説のことを調べに行こうと思ってるんだ。風花もつき合ってくれる?」
蓮峯山とは、県境に連なる山々の総称だ。ここから、東南の方向にある。車で一時間くらいの距離だ。
「蓮峯山にね、泉の噂があるんだよ。洪水伝説に出てくる、空の上に湧く泉の」
「空の、上に湧く泉……?」
想いを込めて呼ぶんだなと、風花は感じた。
問う風花に、夏澄は瞳を細めて答える。
「そう、空の上に湧く泉」
唄うような声音でつぶやいた。夏澄の透きとおるような青い瞳に、泉への愛おしさがこもっていた。
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