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水の空の物語 第4章 第25話

 いくつも風が流れて行き、月や星も動く。

 寒いと、風花は腕をさすった。

 体が小刻みに震え出すが、冷えのせいなのか、恐怖のせいなのか、よく分からない。

 ……そうだ、家に連絡。

 風花は動きにくい指で、『もう少ししたら帰るね』と、メールを送った。

 ディスプレイには、家からの着信が三件、表示されていた。留守電にしてあるのだ。

「……」

 風花は目を瞬き、辺りを見まわした。
 ふいに、風花の名が呼ばれたからだ。

「夏澄くん……!」

 夏澄の声だった。
 心に灯りがともったように、暖かくなる。

 風花はいそいそと立ちあがる。だが、どこを見ても夏澄の姿はなかった。

「夏澄くんだよね、どこ?」
 相手は応えない。

 少しして、『風花』ともう一度声がした。

 風花は身構えた。

 ……普通の声じゃない。 風花は血の気が引いていくのを感じた。

 耳から聞こえる声というより、頭の中に響くような声なのだ。

 幻聴? もしかして、お化けか妖怪……?!

 風花は悲鳴をあげて、東屋の隅に走った。柱に擦りよる。

 ……風花。
 また名が呼ばれた。声はだんだん近くなっている気がした。

 混乱して、近づいてくるなにかを避けようと、鞄を振り回す。

 ……ごめん、すぐ結界張るから。
 声が続く。

「結界……?」

 目の前の空間が水色に光る。

 やがて、夏澄が姿を現した。

 風花は呆ける。
 振り回した鞄の端が、夏澄の腕に当たった。

「ごめん、夏澄くんっ。だいじょうぶ?」
 いった時、後頭部に殴られたような痛みが走った。

 ……今度はなに?

「お前ー」

 振り返るのと、押し殺した低い声が響くのは同時だった。

「夏澄の御尊腕に、なんてことすんだ?!」

 いつの間にか、飛雨が背後に立っていた。拳を握っている。

 彼が風花の頭を殴ったらしい。




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