見出し画像

水の空の物語 第2章 第20話

 夏澄にいわれ、風花は結界の中で、息を潜めるようにしていた。

「スーフィアさんたち、だいじょうぶかな?」

「う、ん……。俺たちは逃げる訓練だけは欠かさないから。なにか感じたら、俺がすぐ結界内に引きもどすよ。ごめん、風花。帰りが遅くなっちゃうよね」

「まだ六時だし、だいじょうぶ。精霊がいたのが、よくないことなの?」

「林の向こうは山だし、精霊がいてもおかしくないんだけど、気配が消えたから。俺が気配を追えない精霊なら、俺より霊力が強いってことなんだ」

 どきっとした。
 風花は手を握りしめる。

「心配しないでいいよ。この辺に、そんなに霊力の強い精霊はいないはずなんだ」

 そういいつつも、夏澄は時々、風花を庇うような仕草をする。

 風花は身を縮こませた。

 夏澄も体を固くする。ぼんやりと、霊泉のゆらめきを眺めながら、並んでじっとしていた。

 だんだんと、風花は鼓動が速くなっていくのに気がついた。
 頬が熱くなる。

 隣にいる夏澄の気配が近すぎて、なぜだか逃げたい気持ちになった。

 風花が体を左にずらそうとしたとき、夏澄が身じろぎした。

 風花でなく、夏澄のほうが距離を取る。彼は右寄りにすわり直し、風花との間の距離が開いた。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?