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水の空の物語 第4章 第17話

 じっと空を見上げていた夏澄が、ふいにぴくりと身じろぎした。

 かすかに眉根を寄せ、東南を見る。

「どうしたの?」

「今、スーフィアの気配が……」

「夏澄……」

 どこからか、高い声で夏澄の名が呼ばれた。 
 スーフィアの声だ。

 続いて、夏澄の隣の空間に、スーフィアが姿を現した。
 衣をふわりと揺らして、降り立つ。彼女は伏せ目がちに夏澄を見た。

「スーフィア?」

「あのね。夏澄、春ヶ原……」
「え?」

 スーフィアは戸惑った瞳で、風花と夏澄を交互に見る。

「こんなときにわるいけど、一緒に春ヶ原にもどってくれない? 優月の体調が少しおかしくて……」

 夏澄は頬に緊張を走らせた。

「私の霊力じゃ、癒せないの」
「すぐ行く」

 さっと立ちあがった。

「急にごめん、風花。また……」
「風花。本当にごめんなさい。今度埋め合わせするわね」

「あ……」

 風花は身を乗り出した。わたしも行く。そう、いおうとする。

 だがすぐに、夏澄の姿は、風花の目の前でかき消えた。結界を解いたからだろう。
 スーフィアも見えなくなる。

 辺りは嘘のように静まり返った。
 冷たい風が流れていった。

 風花はぼんやりと巻層雲を見つめる。目に涙が浮かんできた。

 やがて、辺りは青い闇に染まり始めた。きらきら輝く水面が目に沁みた。

 


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