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水の空の物語 第2章 第31話

 霊泉の南にある山の中、ひとつの影が闇に紛れていた。

 影は樫の木の枝に身を乗せている。幹に体を預けて、星を数えながら時間を潰していた。

 月はかなり高い位置まで移動している。

 あれから、ずいぶん時が過ぎた。

 水の精霊たちはもう眠っただろうか? 結界の中で、なにかが動く気配は、ずっとしていない。

 影はゆっくりと立ちあがった。枝を蹴って、霊泉のとなりの林めがけて跳躍する。

 唸る風を楽しむように耳を済ませながら、消していた自分の気配を露わにした。露わにした気配を、また試しに一瞬で消してみる。木の上に降り立った。

 今度は、精霊たちが出てくることはなかった。

 水の精霊は、自分の気配を読めないでいる。眠っていれば、先刻以上に御しやすいようだ。

 ……気配を消さなくても、近づくことができる。水の精霊の霊力は弱くなっている。

 それだけ確かめると、影は山の中に消えていった。


 


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