見出し画像

運動経験ない奴が本気になった

3年のインカレロング前。いつものようにペース走をしていた。相変わらずのペース。ふと、以前友人から言われたこんな言葉が脳内再生された。
「・・・本気で走ったことないでしょ?」

 はあ?私だって遅いのは嫌だわ!ふざけるな、私の本気見せたるわあ!!!

 ふん、って思って走り出した。

 これまで6分30秒/kmも切れなかった私が、初めて6分10秒/kmに足を踏み入れた日のことである。


0.前書き

 今年の7月24日、東大OLKの水トレで行われた3000TTで、半年で2分20秒、9カ月で3分もタイムを縮めることができた。TTの3日前に行われた関東学連のスプセレでは11位で通過。スプセレはいわゆる「走力ゲー」テレインであった(と感じた)ため、ただ地図読みがうまい、技術力が高いだけでは通れない。
 どうやら私はそれなりに走力がある選手らしい。

 しかし、ここに来るまでは、
・高校時代の運動経験はほぼなし※通信制高校で時間割に体育の授業がなかったため
・3年6月時点で「ペース走はキロ6分30秒」というレベル
・3年夏時点で「キロ6で4kmとか無理、体が壊れる」というレベル
という、割と最近まで残念な走力しかなかった。

 高校生でオリエンテーリングの世界に足を踏み入れたときは、最高でもW18クラスしか出たことなかったからかもしれないけれど走力重視なんて全く感じなかったし、地図読みがうまくできれば勝てる競技だと思っていた。
 しかし、大学生になると、自分より後から競技を始めた人たちが次々と結果を出していき、陸上部出身の人などはそれだけで将来を嘱望されていた。
 「体力に自信がなくても、頭を使って勝てます!」みたいな謳い文句は新歓でよく見かけるけれど、「こんなん詐欺だろ・・・」と思うようになっていた。

 また、体力がないことに加え発達障害傾向故の鬱もあって、ラントレ中にぼけーっとしてしまったり足が上がらなくなることもあった。

 こんなおしまいの状況で、それでも速くなりたくて、必死に足掻き続けた数カ月(短い)のお話を始めます。

※注
筆者は陸上経験もなく、ただ時間をかけて速くしていったタイプなので効率など存在しません。賢く、最低限の努力で速くなりたい人は有識者を頼りましょう。

1.1自己流でしかなかった1年

「必死に足掻き続けた数カ月」と書いたように、私が「走ること」に本気になったのは3年生の秋インカレが終わったタイミングであった。遅すぎる。
 では1,2年生の頃は全く走っていなかったのかとなれば、もちろんそうではない。

 1年生の頃は学祭の運営委員会に入っていたが、オリエンにしか全力を注げなくなり原則2年間と言われていたところを強引に退会。そこからラントレの頻度を週3程度に増やした。この頃はGARMINを持っていなくて、ストップウォッチつき時計を見ながら適当に4kmや6km走る、という感じ。ラップタイムもわからなかった。
 筋トレはプランクを1分程度やる感じだが、効果を実感できず中途半端にしかできなかった。
 向上心はあったけれど上級生やオフィシャルさんにアドバイスを求めることはできず、自己流で距離を増やし続けた結果、1年の春インカレでレース中にガニ股で歩くのがやっとになるほど足を痛めてしまう。

 陸上部の人などからすれば「有り得ない!」と思われるかもしれないが、運動経験がないと、足が痛くなっても「ちゃんと走れているから痛くなっているんだ!」というように、危機感を覚えず走り続けてしまう。怖い怖い。

 オフィシャルさんに「痛くても走り続けたことで後悔した人を何人も見ている」と強く言われたことでようやく我に返り、春休みのオリエンは少しおやすみすることとなった。
 
 GARMINを購入したのもこの時期。GARMIN、いかにも陸上する人向けな時計だし、めちゃくちゃ高いので買うのはやや抵抗があったが、キロ8がGARMINを買ってはいけないという法律はない!と思い購入。購入したきっかけは、レースのログが見れるからアナリシスを書きやすいと思ったこと。
 

1.2ちょっと本気になってみた2年

 2年生になると、GARMINを使ってラントレをするように。GARMINは普通のモードで走っているときも常に距離が分かるし、ラップタイムも随時出してくれるからダラけたらわかるし、ライトがついていて暗い所でも画面が見えるから、初めてGARMINをつけて走った時はすごく感動した。
 この時期はペース走(キロ7を脱したのは11月)、坂ダッシュインターバル、不整地ジョグをしていたが、OLKのトレには参加していないし、まだ足に自信がない時期だったので、追い込むということを知らなかった。
 
 ロングセレに落ち、インカレ併設で惨敗(29位)し、全日本ミドルロングのW20Eでも惨敗し、オリエンをすることがすごく辛い時期で「ミセレ通れなかったら競技者は引退する」と本気で思っていた。
 2年のミセレは、セレを通ることに必死になり始めた最初の大会で、毎日1コース、計35コースも一人で組み、地図読みLINEに毎日投稿し、睡眠時間は7時間30分以上取り、ラントレは週3、週4程度まで増やした。初めて月間走行距離が140kmを越えたが、怪我をしないようハードなメニューを増やさないようにした。

 そんなミセレは通過まで5分、上には10人以上という別に惜しくもない状態で落ちた。だけど、少しずつ本気になることを知ってきた時期だったと思う。「競技者引退」云々は、自分が本気になれたことで、嘗て大ミスをして号泣したり足が遅すぎて絶望した自分でも「頑張ってもいいのかもしれない」と分かった気がして撤回。
 なお、上に書いたようにこの時期は「キロ5」はもちろん「キロ6分30秒」すら遠い世界だった。会報でよく「キロ7野郎」とか書いていた。「キロ7は人権ない」とか「キロ7で乳酸溜まっているのヤバイ」とか笑われることもあったから、自分からネタにするしかなかった。(これ言ってきたのはどっちも男子だったため、男子のレベル感で言ってきただけだと思う)

 2年の春インカレ前、再び脛の外側に違和感を抱くようになる。1年生の頃はここで勘違いをして走れなくなってしまったので、しっかり休みを取り、オフィシャルさんのアドバイスで痛みが出たその日のうちにスポーツ整形外科を予約。
「コンパートメント症候群」という、ふくらはぎの神経が圧迫されて痛くなる症状だと診断された。
 また、オフィシャルさんのアドバイスでトリガーポイントのフォームローラーとマッサージボールを購入。マッサージやストレッチをするようになった。
 割と深刻な状況にも関わらず、元不登校がスポーツ整形外科を受診しトリガーポイントを購入するという(自分にとって)異様な光景に若干の面白さを抱いてしまった。

 スポーツ整形外科は2週に一度のペースで通い、アスレティックトレーナーの方から股関節や体幹の強化を図るトレーニングを教えてもらった。運動経験のない自分にとって新鮮な時間でいろいろな体の使い方を教えてもらったので、割と通うのは楽しかった。

 トリガーポイント、スポーツ整形外科、GARMIN。
 運動経験のない人にとっては、「自分がこんなものを・・・」と思うかもしれない。だけど、その世界に踏み入れてからが始まりで、その世界に踏み入れる権利は誰にだってある。新しい世界を知ることは楽しい。

1.3エリートになれた3年

 3年のロングセレ。大会責任者を務めたOLK大会の業務に最後まで終われ、セレのことなど全く考えられなかった中、安定したレースができ通過を果たす。今回は走力の話なのでここは割愛するが、下手でも絶対に競技から逃げずに地図読みや毎回の練習に向き合い続けたことがようやく実を結んだんだと、この時分かった気がした。オリエンがうまくいかない→行きたくない→もっとうまくいかない→行きたくない・・・のループにはまらないためには、うまくいかなくても割り切ってオリエンするしかないと思っている。

 ただ、前述のように本気で走るようになったのは3年の10月以降であったため、3年夏時点ではキロ6で4kmとかも切れなかったし、インターバルは100m×5しかやっていなかった。
 それでも、このままだと初エリートはボロボロになってしまうという危機感で、今までまともにやっていなかった体幹トレーニングをYouTubeを見ながら真面目にやってみたり、走るときにスピードを意識したりしてみた。スクワットが登りに良いと聞いてからは、スクワットをやったり登りの時にお尻を意識するようにしてみた。

 初エリートとなった笠間城址でのインカレロングは、2ポで40分ミスをして順位がついた中では最下位となってしまう。でも誰も何も言ってこなかったし、最後まで戦い続けたことを「かっこよかったです」と言ってくれる後輩までいた。

3年インカレロング選手権。ぶっ倒れる数秒前

2.1トレに参加してみた

 私が走ることに本気になり始めたきっかけ、それは絶望したインカレロング後から参加したOLKのトレだった。
 何度かトレには誘われていたけれど、家から遠いから帰り遅くなるし、交通費かかるし、周り速い人ばっかりで恥ずかしいし・・・と行かない言い訳しか持っていなかった。
 しかし、同期に「トレ行って足遅くなることないよ」と言われ、インカレ後のトレは人が集まりにくいと聞いてそんなに人がいないなら行きやすいなと思い、誘われていたOLKの水トレ(駒場キャンパスのトラックでやるトレ)に参加することに。
 最後に水トレに参加したのは私が1年生の時で、当時はコロナ禍で代々木公園で行われていたのだが、女子がほとんどいない上キロ6は当たり前の環境、ついていけなくなり2回ほどで行くのをやめてしまった。だからすごくびくびくしていた・・・

 実際トレに行ってみると、一女を始め思ったより参加者が多くびっくりした。聞いていた話と違うじゃんか・・・
 しかし、一女たちの様子を見るに、あまり運動経験のない子も多く、自信が無さそうな子も。そこで、キロ7で6kmのペース走のペースメーカーをすることとなった。このペースなら私でも行ける。
 ここで一女を引っ張る経験ができたことで、少しだけ自信がついた。また、OLKは平日の活動はほぼなく、私はたった3人しかいないマイナー校の人間で大学でOLKの人に会うことは難しいため、トレ後に同期と一緒に帰れる時間が楽しかった。
 
 その次の週には、3000mTTが実施された。私にとって初めてのTTであるため、速いも遅いもなく、これが目安となるだけである。

 中学生の頃1000m走で4分23秒を出せたので、3kmならキロ5くらい行けるかな?と思っていた。しかし、結果は上記の通りキロ5分30秒すら怪しく、16分43秒もかかってしまう。もちろん遅いグループのいちばん最後にゴールした。

 16分43秒。よくわからないけれど、走ることをメインとするオリエンティアとしては、恥ずかしいタイムなのかもしれない。だけど、上にも書いたように、私はこれまでキロ6を切ることすら怪しかったので、初めてキロ5分30秒の世界を知った。
 そして、誰が何と言おうと、これから速くなるための旅が始まるのだ。こんなに遅けりゃ速くなることしかないと思うと、ワクワクした。

 周りが速い人ばかりだとトレのハードルはかなり高い。私も最初は行っていなかったし、無理をしていく必要はないと思う。その分自分である程度走れるようにしたうえでトレの扉を叩いてみるとか。そして、周りが見ているのって、自分が周りと比べて速いか遅いかというより、自分が遅くてもトレに来ている姿勢とか、自分の中での成長とか。
 足が遅いから・・・と逃げるのではなく、自分の中で成長したい!と思い、足掻き続けること
 その姿勢は同じ境遇にある人に勇気を与えるし、自分よりはるかに速い人の心を動かすことだってあるんだ。(自分がそうだった、という話だから全員に当てはまるかはわからないけれど)

2.2GARMINコーチをやってみた

 トレに行くようになって、速さを意識した厳しい練習を取り入れるようになった。ちょっと上を目指すペース走とか、400m×8のインターバルとか。
 ただ、トレに参加できないことがあったり、自分一人でもきつい練習をしたいな、と思うことがあるかもしれない。
 あるとき、入間市OLCの方に薦められて、「GARMINコーチ」というものをやってみた。

 これは、GARMINのアプリで目標タイム(5000m25分、とか)を入力すると、それに合わせてメニューを組んでくれるものである。
 GARMINコーチは坂ダッシュのようなトレーニング、ジョグ、きつめのインターバルなど私がやった時はだいたい3つくらいのメニューを週3で出された。
 特にインターバルは、400m×6や400m×8をかなり速いキロタイムで行うもので、最初やったころは早々に脱落した。しかし、ちょっとずつ回数を重ねれば、インターバルが楽になることは当然ないものの、前回よりも多くできた!ということが続いた。

 GARMINコーチをやってよかったことは、一人でも追い込むトレーニングができること。予め「このキロタイムでやりましょう」ということが設定されていて、そのキロタイムをオーバーしたら警告が鳴るようになっていて、速さを意識できる。
 ただ、慣れないうちはかなりきついメニューが提示されて足を壊しかねないので、「こんなのやったらおかしくなる!」と思ったらメニューの途中でも切り上げるべき。
 

2.3筋トレをやってみた

 インカレロング後から始めたことの3つ目は、体幹だけにとどまらない筋トレである。
 元々「体幹」といえばプランクを1分間やる、みたいな印象しかなかったが、ある時YouTubeで体幹トレーニング動画を調べてみるとプランク以外でも様々なトレーニングがあることが分かり、1回10分の体幹動画に手を出してみる。
 YouTubeの筋トレ動画は、動画が勝手にカウントしてくれるので自分でやると甘えてしまう人にはおすすめ。また、体幹の動画だけでもレベル分けされているから、自分にあったレベルで取り組むことができる。
 
 私が愛用しているチャンネルは体幹以外にも腹筋、下半身トレーニング、脚、大胸筋、臀部など複数の部位のトレーニング動画があり、1日4つの動画で複数の部位を鍛えることを日課としている。どの動画もだいたい10分前後で終わるので、Twitterを見る時間を削ってやると有意義な時間つぶしにはなる。

 女子は特に筋トレの効果を実感しづらいと思うけれど、少なくとも太ることは阻止できるし、走りやすさも変わった気がする。腹筋は相当やらないと割れない。諦めた。
 
 ただし、ストレッチを忘れると体がガチガチになってしまうので、毎日のストレッチは忘れないように!ストレッチは動画によって一つの部位に30秒かけるものもあるけれど、本当は1分くらいかけてじっくり伸ばした方がいいという話を聞いた。

4年の5月に家族になった愛犬。

後書き

 以上、キロ7.5からスプセレ通過を果たすまでにしたことをまとめてみた。
 当たり前だけど、それは決して楽な道ではない。
 最初トレに行くときは「恥ずかしい」と思うし、自分が足が遅いことにもがいているときでもそれを嘲笑する人はゼロではないし、これ以上速くしたら体が持たない!っていうこともあるし、他の人と同じ努力では到底辿り着けない。
 
 でも、この数カ月で分かったのは、「やってやる!」って本気を出したら、どんどん限界を超えていけること。
 これは自分の本気なのか?って問いかけたら、もっともっと知ることができない世界を知れる。

 ・・・なんか体育会の根性論みたいで嫌だ。
 
 高校で体育の授業がなかった。
 登りでまったく走れなかった。
 鬱が酷くて生きることすら嫌になったこともあった。
 足が遅すぎて「人権がない」と(冗談でも)言われた。
これらをすべて越えて、遠回りでも少しずつ成長することができた。

 前は努力する権利すら自分にはないと思うこともあった。でも、速くなろうとすることに、キロ8だったとか、運動経験ほぼなかったとか、大学の成績がとか、どんな高校だとか、恋愛経験の有無とか、友達の数とか、平和に生きているとか、何も関係ないんだ。
 
 今の自分は、足が遅かったり、ミスばかりで泣きじゃくっていた1,2年生の自分に誇れる自分だ。

 秋インカレはスプリントのエリートで走れることが決定した。大変だ。
 目標はただ一つ、同じような境遇にある人に頑張る勇気を与えるレースをすること。

・画像は木植様のO-photo(森を走ろう)より
いつも臨場感のある素敵なお写真をありがとうございます