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サニーデイ・サービスvs.betcover!!の激突を目撃した
2024年10月29日火曜日。東京は雨であった。
曇天模様の空の下、恵比寿の地下空間リキッドルームでは世紀の対決が行われようとしていた。
サニーデイ・サービスとbetcover!!の対バンである。
まず初めに感想を一言で言うなら、
凄絶
それに尽きる。この対バンが発表された時点でとんでもない1日になることはもちろん想像していた。
しかし、そんな想像・期待を軽々と超越する、人智を超えた演奏が行われたのである。
サニーデイ・サービス
大方の予想を超え、先攻はサニーデイ。
緞帳がゆっくりと開き、三人の姿があらわになる。1曲目は"I'm a boy"。
爆音!!!!
大久原さんのドラムと田中さんのベースがぐいぐいと腹の底まで響いてくる。曽我部さんのギターが鋭く耳を刺す。そしてその全ての上を行く、圧倒的な曽我部恵一のボーカル。
初っ端から思い切りギターを歪ませ、激しいセッションが行われる。続けて"魔法"。音源ではダンスミュージック的なアレンジが聴ける曲だが、ライブではギター、ベース、ドラムでどこまでもプリミティブに聴かせる。
そこからなんと"白い恋人"なのだ!なんてセトリだ。この時点で今日という日は2024年でもっとも良い日になることが確定した、僕の中で。
曽我部さんはキラキラの笑顔で、どこまでも伸びる歌声を響かせる。なんて素敵な人なんだろう。おれも年取ったらああなりたい。
ここで曽我部さんがパンパンに膨れ上がったリキッドルームのフロアに感謝を告げる。
「今日、話し合ったのよ。なにをMCで言うか。選挙?って言われたけどちょっと難しいじゃない?雨のこととかさ…だから今日は音楽で、曲で!」と宣言する。隙のない演奏から一転して親しみやすいキャラでMCをしてくれる。
曽我部さんのタイトルコールから"さよなら!街の恋人たち"。聴けたらいいな、と思っていた曲だ!!後半の激しいセッションパートではみんな"思わず"といった感じで歓声を上げる。とにかく大久原さんのドラムが最高だ。パンキッシュにブチ叩くドラミングがたまらんのだ。
そして"桜 Super Love"だ。何度でも言おう。なんてセトリだ!!俺のApple Musicの再生履歴参考にしたの?
歌詞に合わせてピンク色の照明の中、メロウに、ロマンティックに奏でられる。
あーあ、隣に好きな女の子とかいたらなー。このタイミングで手を握ったりしてぇなー。
そして、ふたたび曽我部さんのMC。リキッドルームの近くにあるという、チーズが乗ったラーメンを出すお店に昔感動して、つい先日数十年ぶりに食べに行ったら「全然普通」で寂しかった、と言う話の後、
「ぼく、コーヒーが好きで…」
もうこの時点で皆うおおお!!である。
「喫茶店でコーヒー飲んでぼーっとするのが好きで、、、」
どっちだ?"コーヒーと恋愛"か?それとも…
「で、昔それで曲作ったの。"コーヒーと恋愛"ってやつ。(適当に歌う)」
「そして最近コンビニでもあるでしょ?」
うおおおおお!!
「美味しいじゃない、あれも。で、俺これを歌にしないまま死ぬのか!?って思って。それでできた曲です!」
勿論、"コンビニのコーヒー"炸裂である!!
何度聴いても最高の曲だ。
コンビニのコーヒーはうまいようでなんとなくさみしい
この印象的な歌い出しから、
コインランドリーはいつまでも開いている
それはもう「やさしさ」と言ってもいい
これを経由して、
意味がなくたって生きていけるように祈ってる
この歌詞に辿り着けるのが、もうほんとすごい。
アウトロではこれまた凄まじい爆音が鳴らされる。曽我部さんも田中さんもエフェクター一切無し(チューナーすら無し!クリップチューナーを胸ポケットにしまってた)、アンプ直でものすごい音を鳴らしまくっている。
そして間髪入れず、"春の風"!!!
何度聴いたことだろう。この曲を。
今夜でっかい車にぶつかって死んじゃおうかな
この歌い出しに胸を射抜かれて以来、何度も何度も聴いた曲だ。この曲なしでは乗り切れぬ夜が何度もあった。
そんな曲が!今!目の前で!爆音で鳴っている!!!伝わるか!?この感動が!!!!
「そっちはどうだい、うまくやってるかい」
と、曽我部さんがリキッドルームに呼びかける。
「こっちはこうさ、どうにもならんよ…。
今んとこはまぁそんな感じなんだ」
3回目ですが、なんてセトリだ!!!!
曽我部さんがタイトルを絶叫→ワンツースリーフォー!!とさらに絶叫して雪崩れ込むは、永遠のアンセム"青春狂走曲"!!!
ほんとにそうなんよ。どうにもならんのよ。そんな感じなんだよ俺らの人生は。
肯定してくれるのは音楽だけだよ…
なんでかわからないが視界がぼやけた。
そして間を置かず"風船讃歌"が繰り出される。
青春狂走曲が90年代のサニーデイのアンセムなら、こっちは20年代、今のアンセムだろう。キャッチーなサビのメロディを田中さん、大工原さんも斉唱するのが最高だ。
そしてライブは終わりを迎える。曽我部さんがレスポールをホワイトファルコンに持ち替え、かき鳴らす。ラストは"セツナ"だ。
きみはまるで静かな炎みたい
ぼくの総てを燃やし尽くそうとする
この歌詞が大好きなんだよ、俺ァ…
サニーデイファンならご存知、アウトロでは超絶長尺セッションが繰り広げられるこの曲。これを聴きたくてチケット取ったといっても決して過言ではないのだが……
もう、鬼神だった。爆発が起きていた。永遠に終わらないでくれ、むしろこのまま俺の人生終わってくれ、とまで思ってしまうほどの凄まじい音のぶつかり合い。MCの時の和やかさはどこへやら、3人が殺し合いのような気迫で楽器を鳴らしまくる。3人とも、各々の楽器が壊れるんじゃないかってくらい激しく鳴らしまくる。
音の渦が止んだ瞬間、曽我部さんは魂が抜けたような表情でお辞儀をしてフラフラと去っていった。
betcover!!
サニーデイが終了した後、正直なところ「もう今日終わりでよくね?」とすら思った。これだけ圧倒的なライブをされたあとにどうしろというのか…立ちっぱなしで足が痛い…
なんて、思っていたのである。愚かにも。
サニーデイからのバトンを受け取ったbetcover!!は、もう"人智を超えた"とか、"超次元"みたいな、イナズマイレブン以外で聞かない形容をするしかないほどのライブをやってのけた。
SEなしでメンバーがすっと現れる。観客みんなびっくりして拍手すら起きない。
遅れて柳瀬二郎が入場し、やっと拍手が起きる。
「こんにちは…betcover!!です」と柳瀬が呟き、メンバーを紹介する。今日はギター日高理樹不在の5名。ベース吉田隼人、キーボード白瀬元、ドラム高砂勇大、サックス松丸契。
白瀬氏の穏やかなピアノから"炎天の日"でライブをスタートされる。
さっきまでのサニーデイのライブとは全く異質の緊張感。
"狐"はテンポを少し落としたアレンジで披露された。音源を超越したアレンジしまくりの演奏に定評がある彼らだが、この日もすごかった。"幽霊"はまるで死後の世界で聞こえてくる音楽のようで、どんどん脳がトリップしてくる。
「俺は看護婦になりたかった、看護婦みたいな恰好して、、、」という柳瀬の独白から、"壁"に突入。ここで一気にギアが何段階も上がる。真っ赤に明滅する照明。信じられないくらい歪んだ吉田隼人のベースと、気が狂ったように吹き鳴らす松丸契のサックスがかっこよすぎる!
"あいどる"もまた激しいアレンジが加えられて演奏される。なんだこの曲、ああアレだ、てな具合だ。メンバーは互いに睨み合いながら、予定調和ではない、死力を尽くした演奏をしている。
そしてその後に演奏された"翔け夜の匂い草"がすごかった。ベースイントロから入り、珍しく音源通りかな?なんて思っていたら、ラストがすごかった。高砂勇大による激しいブラストビートが刻まれ、もはや恐怖すら覚えるほどの音量が襲いかかってくる。鬼だ。鬼がいる。激しいストロボの照明も相まって、本当に死ぬかと思った。
「センキュー…」と渋い声でつぶやく柳瀬がまたかっこいい。
"母船"のイントロではまたメンバー紹介がなされ、「そして俺が…柳瀬二郎」と自己紹介し、少しおどけた仕草をしてみせる。Arctic Monkeysのアレックスターナーのようだった。色気と、少しのユーモアが共存してる感じ。
そして、ラストスパートだ。"火祭りの踊り"では歪みまくったギターを奔放にかき鳴らす柳瀬。そしてこの曲のブレイクでドラム高砂が絶叫したのち、再び爆音パートに突入。これがあまりにもカッコよかった。カッコよさに悲鳴をあげまくる我々。しかし、彼らは手を緩めない。
「バカヤロー!!」
柳瀬が気だるく叫ぶ。観客が歓喜し叫ぶ。"バーチャルセックス"だ!!
つんのめったような暴走演奏で駆け抜ける。この辺からこれで今日のライブ終わりかな、ってくらいクライマックス感に満ちた鬼気迫る演奏が繰り広げられ、終わりかと思いきやまだ演奏がある…みたいな感じでした。
ドラムに少しトラブルがあったのか、柳瀬が珍しくMC。
「つぎの曲は…後半で音がデカくなるんで。コーラスがあるんで、皆さん自由に歌ってください」と。
そして繰り出されたのが狂気の曲"超人"だ。
即効性が求められ、楽曲のコンパクト化が歓迎される昨今に中指立てるような10分超えのこの曲。間違いなく、この夜のハイライトであった。曲の半分以上が「やめて…」という歌詞で埋め尽くされているというトチ狂った曲なのだが、このやめてパートで繰り出された音は、もう、ほんとにすごかった。
音楽に興味のない人間が聞いたらもはや拷問、地獄でしかないのではというレベルの狂気的爆音。取り憑かれたように叫びまくる柳瀬。知らない人が見たら恐怖するほどの絵面。そんなやばいシチュエーションなのだが、僕は呆然としながらエクスタシー的な悦楽を感じるという今までの人生で経験したことのない精神状態になっていた。
爆音の快楽に身を委ね、もういっそこのまま死にたいとすら思い始めた頃に音が止み、現実に引き戻される。これでライブ終わりかと思いきや、続きがまだあった。
映画のエンドロール、というより人生のエンドロールか?と思うほどの静謐なピアノイントロ。これは一体なんの曲だっけ?と思っていたら"不滅の国"であるとわかった。またも鬼アレンジだ。"超人"のあとだから余計に沁みた。
そしてついにラスト、「ありがとうございました、betcover!!でした」という言葉から"平和の大使"が鳴らされる。これまた音源とはかけ離れたアレンジであった。
あっさりと、クールに場をあとにした5人。大歓声の中僕は、耳鳴りがする中しばらく呆然と立ち尽くしてしまった。リキッドルームを出て、雨の中恵比寿駅の喫煙所で煙草をふかしながら、どこかに行ってしまった魂をどうにか戻そうと試みたが、魂くんその日はもう戻りませんでした。翌日の夕方、これを書いてる今になって少しずつ戻り始めた。朝帰りどころではない。とんだ不良である。
サニーデイサービスとbetcover!!、この2バンドはかなり対照的なバンドだ。かたや、笑顔を絶やさず観客への気遣いを決して忘れない曽我部恵一。かたや、笑顔はほぼなし、いってしまえば無愛想に振る舞いながら、色気を発しまくる柳瀬二郎。ふつうだったら、こんな対照的なバンド同士で対バン組もうなんてなかなか思わないし、そもそもチケットもあんまり売れないだろう。
しかしどうだ。ど平日、雨だというのにチケットはソールドアウトだ。
音楽的にもキャラクター的にもかけ離れた2組なのに、確実に、しかも強く共鳴する何かがあったということだ。
それはなにか?僕が思うに"音楽への狂気"だ。
柳瀬二郎はわかりやすいだろう。ライブへの立ち振る舞い、インタビューでの発言の数々。国内のバンドシーンはつまらないとまで言い切り、参考にした音源に日本のフォーク、海外のプログレなどを挙げる。
曽我部恵一だってそうだ。人の良い、愛されキャラのおじさんのように見える(いや、実際そうなのだと思う)が、こと音楽に関しては、これもまたライブ中の鬼気迫る表情を見ればわかる。それにサニーデイサービスでの活動のみならず、ソロでも作品をリリースしまくっている。そのリリースペース、創作意欲はもはや狂気だ。なにより、デビューして30年は経とうかというベテランが"春の風"や"コンビニのコーヒー"といったような、あんな瑞々しくて鮮烈な曲を生み出しているの、やばいと思いませんか?
言ってることわかんだろ?(リアムギャラガー)
また、大ベテランのサニーデイサービスが爽やかでフレッシュで、青春の衝動溢れるパフォーマンスを、20代のbetcover!!が人生経験を積み重ねたアダルティな色気を纏わせて演奏しているという、逆だろ!!というギャップ。これもまた、よかった。
この対バンを企画した人のセンス。本当にすごい。ライブナタリーの企画らしいけど、社内でめっちゃ出世してほしい。
有給をぶんどり、新幹線とホテルを押さえてまで来た甲斐は十二分にあった。最近仕事含めたプライベートが何もかもうまくいかず、心が沈んでいて、この日だけが心の支えだったのだ。心のモヤモヤを爆音が吹き飛ばしてくれた。明日からまた日常に戻り、また落ち込むことだろうと思う。音楽なんて所詮"ごまかし"にしかならないのかもしれない。でもそのごまかしのおかげで、でっかい車にぶつかって死んじゃおうかなと思っても、踏みとどまることができている。これからもなんとかごまかしながら生き抜けて行けたらいいなと思う。
ありがとう、サニーデイサービス。
ありがとう、betcover!!
(2組とももっと東北でもライブやってくれ)
(取り敢えずアラバキ来て)
(あとカップルできてる人たち羨ましすぎる!!サニーデイ、betcover!!好きの女の子とはどうすれば知り合えますか?ていうか普通に同性の音楽友達もほしい)
-おしまい-
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