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どこかへ行ってしまったSちゃんへ

「じゃあまたね。」
最後に2月に会ってから、彼女はどこかへ行ってしまいました。

彼女と初めて会ったのは、2020年の12月、ENGさんの当日運営のお手伝いに行った時でした。
正直、初めて会った時の印象は、とても仲良くなれなそうだ、というものでした。彼女は、制作の現場で、赤い髪、少しロリータっぽい派手な服装、挨拶はしてくれるけれど、少し不愛想な雰囲気、初対面の日は、彼女と言葉を交わすことはありませでした。
それが変わったのは、お手伝い2日目でした。彼女はとてもデザインセンスが良くて、私が彼女の作るPOPに興奮して話しかけたのがきっかけだったかもしれません。話しかけた彼女は、意外にも、明るく笑う子で、初対面の相手には大体愛想笑いされるか、引かれる私に対して、歯に衣着せぬ態度で、普通に話してくれました。私はそんな彼女と、SNSを交換して、投稿された彼女のモデルとしての写真に、更に興奮して、とんでもなくうざ絡みを続けましたが、彼女は最後に会ったその日まで一度たりとも私のことをうざがったり、突き放したりすることはありませんでした。

私はその後、彼女と出会うことはないだろうなと思っていました。竹を割ったような彼女の性格は好ましいものでしたが、それが少し、私にとっては付き合いにくくて、猫のようにきまぐれな彼女に対してとても気を遣うのが疲れてしまうからです。そんな彼女から、突然電話がかかってきたときは、2020年最後の一番の驚きだったかもしれません。彼女の声は、声変りを迎える少年のように、女性にしては少し低めで、でもなんだがとても魅力のある可愛らしい声だと認識したのはこの時でした。内容は仕事に関わることでしたが、そのまま私たちは雑談を続けました。彼女は私と雑談を続けたいと思ってくれているのか、と私は彼女から向けられる好意に嬉しいと感じました。それと同時に、彼女の周りにいるたくさんの魅力あふれる友人の、更に外側にいる烏合の衆の一員でしかない私は、気まぐれで猫のような彼女にいつ逃げられてしまうか、愛想を尽かされてしまうか、変な緊張のほうが大きくなっていきました。

その後、初めてちゃんと遊んだのは、2021年の9月のことでした。私の写真を撮りたいといってくれた彼女と、彼女のバイト先のある街、荻窪で出会いました。久しぶりに会った彼女は、その日もとても彼女らしく輝いていました。写真を撮って、彼女のバイト先で私にご飯を作ってくれながら、いろんな話をしました。仕事のこと、恋人のこと、好きなもののこと、私の好きな彼女の声から発せられる歌も聞かせてくれ、そんな話まで私にしてくれていいんだということまで、たくさんの話をしました。私は、それまでずっと、私の感情は一方通行だと思っていました。けれど、その時初めて、彼女にとって私は本当に友達なんだと理解し、嬉しさと気恥ずかしさで胸がいっぱいになりました。彼女に対して感じていた、壁のような、変な緊張は一切感じなくなって、私はこの時、やっと彼女と対等であると気づけ、自分の本音をさらけ出せました。この先も、彼女がもっともっと活躍していく姿を応援していこうと本当に心の底から思いました。この時に食べた親子丼の味を、私は一生忘れられないでしょう。

2022年、私の新潟行きが決まって、その前にもう一度写真を撮ろうと私たちは新宿御苑に向かいました。久しぶりに会った彼女に、開口一番マシンガンのように喋り倒す私に、彼女は大爆笑しました。理由がわからず首を傾げる私に、彼女は「相変わらずうるさいなと思って」といつもの少し低めのトーンで言いました。私は一瞬落ち込みましたが、それが彼女との友達としての会話なのだと嬉しくなって、ただひたすら、彼女との時間を本当に楽しく、心の底から楽しく過ごしました。彼女が行きたいといった猫のいるカフェで、本物の猫と彼女を見比べて、やっぱり彼女は猫のようだと思いました。ふらっと突然動いて、喋りだして、私の視界から急にいなくなるので、「相変わらず猫みたいだよね」と言うと、彼女は嬉しそうに笑うのでした。

新潟に来てから、彼女のSNSが全く動かなくなりました。彼女が長い期間をかけて参加していたWSの締めの公演からも彼女の名前が消えました。彼女との共通の友達から、『連絡が取れないのだけど何か知っているか』という連絡が来ました。私は、最後に会った彼女の様子から、『きっと今はお休み期で、そのうちまたふらっと戻ってくるから、気長に待とう』と返信しました。念のため、私も彼女に連絡をしました。一向に返事は来ませんでしたが、モデルとしても、俳優としても、どんどん忙しくなっていく彼女だから、きっと今どこかに気まぐれでお休みにいっているだけ、私は本当にそう思っていました。

4月25日、彼女のSNSが動いたという通知が入りました。あ、お休み期が終わったのかな、元気かなと、彼女にお帰りをいうつもりで、その投稿を開きました。
けれど、私は彼女にお帰りをいうことができませんでした。彼女は、やっぱり猫のように気まぐれで、突然どこかへいってしまったのです。理由も、原因も、何一つ私にはわかりません。彼女へ送ったメッセージは、既読だけがついていました。きっと家族の方がつけたのでしょう。彼女の写真が使われたアイコンから、彼女の言葉ではない文言が書かれて、彼女が私の手の届かないところへ行ってしまった事実を、彼女らしいなあと、二度と会えないさみしさに、私は泣くことしかできませんでした。

サトコちゃん、突然いなくなるからびっくりしたよ。今どこにいるの?
私まだサトコちゃんのクラシカルメイド見てないんだがー-!!って、LINE、返信できないほど遠くにいっちゃったのか。
毎晩さみしくてまだ泣いちゃうんだけど、どうしたらいいんだろ。世の中の人って、こういう感情どう乗り越えていってるんだろうね。サトコちゃんといて泣いたことないからわからんわ。

私のこの投稿、すっごくぽえみーで恥ずかしくない?でもサトコちゃんなら、私が恥ずかしがってることに笑うけど、この文章は絶対に笑わないって知ってる。多分、真剣に感想くれる。だから、ふらっと帰ってきてさ、感想聞かせてよ。

ゆっくり、休んでからでいいからさ。

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