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2.5次元の繁栄に押し負けるアイドルの衰退

大学の課題で、日本文化についてレポートを書けとのことだったので、死ぬほど偏った目線でレポートを書いた。アイドルファンの皆様ごめんね。


私が今回注目したのは、今日本で新しい演劇として人気を博している「2.5次元舞台」というジャンルである。2.5次元とは、「2次元の漫画、アニメ、ゲームを原作とする3次元の舞台コンテンツの総称。」(2.5次元ミュージカル協会 Wat’s 2.5D? より引用)である。主に、アニメ会社や、演劇を古くからやっている製作会社、ゲーム会社などが製作委員会方式と呼ばれる組織を結成して、コンテンツが作られている。商業演劇として年々市場は成長し、今では250億円を超えるほどの規模となっている。今最も勢いのあるエンターテインメントと言ってもおかしくない。


2.5次元の始まりは、1991年ジャニーズアイドルのSMAPが聖闘士星矢の舞台をやったことが始まりとされているが、それ以前に、宝塚の「ベルサイユのばら」、新聞社が主催となった「サザエさん」の舞台も存在していたため、この頃にはまだ、2.5次元という認識はされていなかった。2.5次元という総称、火付け役となったのは、2003年に舞台化された「ミュージカルテニスの王子様(以下テニミュ)」がきっかけといわれている。テニミュは、1991年から週刊少年ジャンプで連載されていた「テニスの王子様」という漫画を原作とし、中学生たちの熱い青春を描いた物語である。テニスを題材としていながら、舞台上には一切のボールが出てこず、キャスト達はピンスポットをまるでボールのように打ち合う。漫画で使われている台詞をそのまま歌詞にして歌い上げ、ラストには観客席に下りて、観客と触れ合いすらする。この舞台の最大の特徴は、男性のみの出演であることだ。この当時のプロデューサー曰く、「宝塚が女性だけのミュージカルであるならば、テニミュは男性だけのミュージカルにしよう」と考えたからだそうだ。その結果、今では「若手俳優の登竜門」と呼ばれ、2021年現在もキャストを次々と入れ替えながら未だに公演を続けている。そうなれば、必然的に女性ファンがつくことも大いに予想ができる。

男性のみが所属するという点で思い浮かぶのは、「ジャニーズ」の存在である。ジャニーズとは、1964年ジャニー喜多川によって創業されたジャニーズ事務所のとこであり、そこに所属するアイドル達もまた、総称して「ジャニーズ」と呼ばれている。先程も名前が少し上がった「SMAP」、国民的アイドルと呼ばれている「嵐」、ローラースケートを使った斬新な演出をしていた「光GENJI」などが例に挙げられる。熱狂的な女性ファンを抱え、日本の経済効果に大きく加担している。ジャニーズだけでなく、アイドルという存在は、80年代の「松田聖子」、「中森明菜」、「南野陽子」といった、女性のソロアイドルから始まり、2010年代には「AKB48」が全盛期を迎え、現在では「NiziU」といった韓国風のアイドルまで幅広く活動している。年末に行われている紅白を見ても、出演者の半分ほどがアイドルという驚異の人気である。もちろん、年間の市場規模としても2000億を超えるといわれている。これは圧倒的に2.5次元よりも規模は大きい。にも関わらず、私は今後2.5次元の方がアイドル業界を上回るのではないかと考える理由は、この「アイドル」という特性にある。


テレビドラマ、この視聴率を取るために、テレビ業界が行う戦略としては、有名で人気のある芸能人を起用することだ。ここで、固定のファンがついているアイドルを利用すると、そのファンたちがこぞってドラマを見ることに繋がり、視聴率アップに繋がる。実際、今年2021年1月のジャニーズアイドルが主演やメインキャストを務めるドラマは、10本を超えている。だが、最近の世の中の風潮として、演技が下手なやつを使うなという声が大きく叫ばれ、アイドルにも演技力が求められるようになってきた。たくさんのドラマや映画に出ればもちろん演技力はつくかもしれないが、彼らの本業は基本的にはアイドル活動であり、ライブのための歌や踊りの練習に時間を費やしてしまうため、演技力の向上というのはなかなか難しい。この芸能人の起用というのは、テレビ業界に留まらず、映画、そして演劇にも及んでいる。年々舞台観劇者数は減少傾向にあり、それを上昇させるために、アイドルを使い、そのファンたちは、生で見ることができ、かつ、アイドルをしているときとは違う姿を見られるということで、チケットの売り上げは大きく伸びる。しかし、そこでもまたアイドルの演技力というのは求められてくる。アイドル側としても、ドラマ、映画、舞台への出演をきっかけに新規ファンを作りたいという思いがあるため、近年は更にアイドルだけではやっていけなくなってきている。
そんなアイドルが様々な力を求められる中、アイドルの代わりとして頭角を現しているのが、2.5次元俳優たちだ。2.5次元というのは、もともと舞台観劇者の男女比率が8:2であることを活かし、基本的には女性層をターゲットとした、イケメン俳優が多数出戦する演目が多い。先程のテニミュでもわかる通り、彼らはキャラクターになり切って、歌って踊って演技をする。当然たくさんの舞台に立つために、彼らの演技力は向上する。そして、テニミュでは、過去の公演の中で扱った曲のライブを行う「Dream Live」といわれるものがある。俳優たちが、音楽のライブをするのだ。これはテニミュだけに留まらず、様々な演目で、通常の舞台と、ライブというものが行われている。そして何より驚くのは、最近の演目では、スマホのアイドル育成ゲームを元にした演目が多く公演され、公演の中で俳優たちはアイドルになり切って演技をして、そしてライブを行う。最早、彼らは俳優でありアイドルとしての一面も持ち合わせている。舞台上での歌唱力が認められ、そのまま歌手としてもデビューしている俳優もいたり、俳優どうしでユニットを組んでアイドル活動をしていたり、帝国ミュージカルに出演したり、そのルックスからモデル活動をしたり、2.5次元という世界で、根本である演技力の向上を図り、そこから各々の得意分野へと巣立っていくのだ。その影響はテレビ業界、映画業界にも及び、今では2.5次元出身といわれる俳優たちがゴールデンタイムのドラマにも出演している。もちろん彼らには、舞台時代から応援し続けてくれるたくさんのファンもいて、俳優たちはSNSやファンミーティングを通してファンとの交流を図り、中々チケットのとれないアイドルと違い、ファンにとって距離の近い存在であるため、ファン離れも起きにくい。ルックスが良く、歌も踊りもできて、尚且つ、演技もできて、固定のファンがいる、視聴率を上げるために業界が欲しがるのはどちらか、一目瞭然である。


ここまで男性ばかりに目を向けてきたが、もちろんこれは女性アイドルにも言えることである。女性アイドルのゲームを元にした2.5次元の舞台も多くあり、そのほとんどの観客が男性層である。元々の舞台鑑賞者で男性は極端に少ないが、これをきっかけに観劇者数の比率が大きく変わる可能性もある。最近の女性アイドルは、可愛いことはもちろんだが、性の多様化ということで、ただ可愛いだけではないアイドルというものが増えている。男性が求める理想のアイドル像というものが、現実ではなく2次元の世界にこそ繁栄しているように思える。その理想のアイドルが3次元に飛び出して来れば、飛びつかないわけがないのである。
2020年1月から、世の中はコロナによって人々との触れ合いというのが禁止されている。多くのアイドル達のライブは禁止になり、無観客配信というのが増えている。そんな中で、2.5次元は演劇界の力を借りて、最前の注意を払って今もなお舞台を公演し続けている。生で見られないアイドル、少しでも見る時間が多い2.5次元俳優、今後のファンとの触れ合い方によっても、この両者の需要というのは、大きく傾いていくのではないだろうかと私は考えている。

【参考資料】
・財経新聞『「オタク」の経済効果 人員では漫画・アニメ 消費額ではアイドル』(2019年1月29日)
・おーちようこ『2.5次元舞台へようこそ』(2017年)講談社
・平田オリザ他『<現代演劇>のレッスン』(2016年)フィルムアート社 
・中森明夫『アイドルにっぽん』(2007年)新潮社
・木村隆志『嵐の活動休止はジャニーズ事務所の危機なのか』(2021年1月12日)東洋経済オンライン

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