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ラッパーBigXthaPlugの物語─独房から放たれた声

「──間違いなく俺が一番デカくて最強だ」

自身の楽曲「The Largest」で語る通り、188センチ、143キロの圧倒的な体格を持つBigXthaPlug(本名Xavier Landum)。

テキサス州、ダラス出身。学生時代、アメリカンフットボールでオフェンシブラインマンも務めたその巨体から放たれるラップは、自身の体格のように"重量級"だ。2024年のアルバム『TAKE CARE』で新世代を代表するアーティストへと駆け上がった。

このアルバムは初週48,000ユニットのセールスを記録。実体験を赤裸々に描いた作品として話題を呼んでいる。全曲でゲストを一切入れないという選択には、自身の物語を純粋な形で届けようとする強い意志が感じられる。ストリートで培った価値観を、飾らない言葉で綴っている。

26歳という若さながら、ストリートで積み上げた経験は、彼の音楽に"重み"を与えている。聴く者の心を掴んで離さないストーリーテリングの源には、ダラスの路上で実際に目にしてきた世界がある。

今やヒップホップシーンの重要人物となったBigXthaPlug。ダラスのストリートからメインストリームへ─その軌跡を追う。


原点─母の銃声が響いた街から

1998年5月12日、テキサス州ダラスで生まれたBigXthaPlug。彼が生まれ育ったコミュニティは、厳しい現実をさらけ出していた。経済的困窮の中、暴力と貧困が日常となる環境で、5歳の時に目にした光景が、今も彼の記憶に焼き付いている。

「強盗が押し入ってきて、母親が撃退するために銃を撃った。その音は今でも耳に残ってる」

母親は彼の最大の理解者であり、盾となって息子を守り続けた。だが、その強い母の愛をもってしても、ストリートの過酷さから完全に遮ることはできなかった。

幼いBigXにとって、音楽は特別な存在だった。父親の車からはIsley Brothers、Boyz II Men、Avantなどのソウル・R&Bが流れた。母親からはKanye West、Lil Wayne、Drakeなどのヒップホップを聴かされて育った。

両親から受け継いだ音楽との出会いは、彼の心に深く根を下ろしていった。それは、プレッシャーに満ちた日常からの唯一の避難所となった。

学業への関心は薄く、学校でのトラブルは絶えなかった。転機は9歳の時に訪れる。父親の住むテキサス州Commerceへの移住だ。そこで出会ったアメリカンフットボールは、彼の人生を大きく変えることになる。

フィールドは、彼の内なる衝動を昇華させる場となった。攻撃的なエネルギーは、スポーツという新たな表現方法を得て、ポジティブな力へと変わっていった。


挫折─表現者の目覚め

2016年、Ferris高校を卒業したBigXthaPlugは、恵まれた体格と卓越したフットボールの才能を買われ、ミネソタ州のCrown Collegeから奨学金のオファーを受けた。ディビジョン1でのプレーを夢見て進学した彼にとって、フットボールはハードな環境から抜け出すための、確かな希望だった。

ところが、夢見たフットボールの道は、思わぬ形で途絶える。経済的な逼迫から寮内でのマリファナ取引に手を染めたBigXは、退学処分を受けることになった。思い描いていた未来は絶たれ、再び生活費に追われる厳しい現実に直面することとなる。

合法的な仕事を求めて奔走するも長続きせず、短期の仕事を転々とする日々が続いた。「税金なんて一度も申告したことねぇ」と自嘲するほど、いわゆる"まっとうな仕事"とは相容れなかった。そして次第に、彼の足は再びストリートへと向かっていく。

18歳の誕生日を目前に、ドラッグディーラーを襲撃して生計を立てていた彼の生活は破綻し、強盗容疑で逮捕される。その2年後、保護観察違反で再び収監された際、生まれたばかりの息子の誕生日に立ち会えなかった痛みが、彼の心を深く締め付けた。

独房での時間は、絶望と無為との戦いだった。「壁のレンガの数を数えたりしてた」と彼は当時を振り返る。「3回目くらい数えたとき、さすがに『無理だ』ってなった」。壁越しに他の囚人たちから、詩を書いて時間を潰すという声を聞くも、それは彼の心に響かなかった。

しかし、BigXthaPlugは自分なりの表現方法を見出していく。彼が選んだのはラップ。最初のリリックは、刑務所で配布される「医療申請用の用紙」に走り書きされた。自由を奪われた場所で、皮肉にも彼の無限の可能性は広がり始めていた。


転機─売人からラッパーへ

出所後、BigXthaPlugは音楽への思いを確固たるものにしていた。ドラッグマネーをスタジオ代に変え、デビューミックステープ『Bacc from the Dead』をリリース。

そのタイトルには、死んだも同然だった刑務所生活からの復活と、皮肉めいた決意が込められていた。テキサスのアンダーグラウンドシーンで、無名の彼の作品は確かな手応えを掴んでいく。

当時、彼はトラップハウス(違法取引が行われる隠れ家)として使われていたホテルの一室で働きながら、訪れる客たちを即席のリスナーに仕立てていた。「どうだ、この曲は?イイ感じか?」──ストリートで生きる者たちの反応こそが、彼にとって最もリアルな評価だった。

思わぬ転機は、一本のミュージックビデオから訪れる。

地元の映像プロダクションHalfPintFilmzが主催したコンテストで、楽曲「Mr. Trouble」が優勝。YouTubeでの再生回数が急上昇する中、配信会社UnitedMastersがオファーを送ってきた。ストリートの売人から本格的なラッパーへ。BigXthaPlugの新たな人生が、ここから動き出す。


飛躍─「Texas」で掴んだブレイクスルー

2022年、シングル「Texas」でBigXthaPlugは一躍脚光を浴びる存在となる。『Amar』に収録されたこの曲は、全米のリスナーの耳を捉えた。

トラップ、ゴスペル、カントリー、ブルースが絡み合う楽曲に、テキサスの持つ独特な車文化やライフスタイルを誇り高く描き出したリリック。

その完成度にSpin誌は「BigXがテキサスの音楽と文化の歴史を力強く凝縮している」と評し、The Source誌も「キャッチーなフック、ユーモラスなリリック、そして圧倒的なエネルギーで、BigXの音楽界でのレガシーを永遠に刻むアンセムとなるだろう」と称賛を惜しまなかった。

ミュージックビデオでは、BigXのアイコニックな姿が映し出される。カウボーイハットに身を包み、スワンガー(テキサス特有の車のホイール)やダイヤモンドジュエリーを纏った彼の姿は、まさにテキサスそのものだった。

YouTubeでの再生回数は5,000万回を超え、2024年にはRIAAからプラチナ認定(100万ユニット以上の売上)を獲得。その存在感は数字としても証明された。

「Texas」の成功は、彼に「テキサスの象徴」という新たな称号をもたらした。しかしそれは単なる地域性の表現ではない。ストリートで培った真実味と音楽的な深みが融合した、新たな表現の確立だった。

もはやBigXthaPlugは、ただのラッパーではない。己の人生をリリックに刻む「ストーリーテラー」として、確固たる地位を築き上げていった。


実力の証明─XXLフレッシュマン・クラス選出

2024年、BigXthaPlugはXXLフレッシュマン・クラスに選出され、ヒップホップシーンでの立ち位置を決定的なものにした。フリースタイルパフォーマンスで見せた姿は、ストリートでの生き様と、そこから掴み取った成功を包み隠さず語る。

"腕時計が50K、ジュエリーが30K
お前の首には60Kの値がついてる
スコアを稼いでフッドを背負ってる奴が誰か知ってるか?
ヘイトするのは勝手だが、俺の仲間には手を出すなよ"

さらに彼は、自身のルーツであるR&Bの影響も大胆に織り込んでいく。90年代の伝説的グループEscapeへのオマージュを込める。

"俺はEscapeみたいに滑らかにやってきた、本物のsteppaだ
俺が動けば周りも揺れる 俺よりタフだって?
議論するまでもない
カネがあるから、自分のポジションは譲らない"


チャートを揺らした─『TAKE CARE』

2024年10月、BigXは待望のセカンドアルバム『TAKE CARE』をリリース。Billboard200で8位を記録する鮮烈なデビューを飾った。Bandplayを筆頭とする実力派プロデューサー陣を迎え、全15曲に自身の足跡を刻み込んだ。

特筆すべきは、全曲で客演を一切入れない潔さだ。しかしそれは、決して物足りなさを感じさせない。ビート自体がまるで歌い出すかのように、各楽曲を彩っていく。

本作は様々なソウル・R&Bを現代的なトラップビートで再構築。往年の名曲群を効果的に取り入れている。

表題曲「Take Care」ではWillie Hutchの「Tell Me Why Has Our Love Turned Cold」を下敷きに、ストリートからの這い上がりと成功への道程を描く。忠誠心、忍耐、決して曲げることのない自身の信念。その歌詞からは、今なお進化を続ける彼の生き様が浮かび上がる。

「Mmhmm」ではThe Whispersの「And the Beat Goes On」を、「2AM」ではIsley Brothersの「Contagious」がベースとなっている。

「Lost The Love」では、Gwen McCraeの「It Keeps on Raining」をサンプリングしながら、名声の裏側を鋭く描写する。突如として近づいてくる人々、変質する人間関係。表面的な成功の陰に潜む孤独と疑念を、BigXは容赦なく掘り下げていく。

アルバムのハイライト「Story of X」は、まさに彼の自叙伝といえる一曲だ。貧困、暴力、ストリートで学んだ教訓。それを乗り越えてきた覚悟が、赤裸々に綴られている。

『TAKE CARE』は、BigXthaPlugの過去と現在、そして未来への決意を封じ込めた集大成だ。決して忘れることのない自身のルーツ。その誓いは、ゲスト無しの15曲を通じて、彼の声とビートだけで力強く鳴り響いている。


テキサスを超えて─メインストリームへ

幼少期に両親から受け継いだソウル・R&Bの血脈と、独房で見出したラップという表現手段。その両者が、BigXthaPlugの音楽性を形作っている。クラシックソングの良質なサンプル、ストリートでの経験から紡ぎ出されるリリック、圧倒的オーラを放つ重厚なフロウ。

この三位一体が、BigXならではのサウンドを生み出している。特にそのヴォーカルは唯一無二の個性を持ち、抜群のブレスコントロールと滑らかなライミングで、リスナーを楽曲の世界へと引き込んでいく。

2023年には自身のレーベル600 Entertainmentを設立し、Ro$amaとYung Hoodを迎え入れ、新たな才能の発掘にも着手している。

ダラスのストリートから始まったBigXの歩みは、テキサスの枠を超え、今や全米のヒップホップシーンで確かな存在感を示している。ストリートのリアルさを失うことなく商業的成功をも手にした彼の影響力は、これからも確実に"デカく"なっていく。



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