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Kendrick Lamar × SZA対談全文【翻訳記事(出典:Harper's Bazaar)】
インタビュアー: SZA
掲載: Harper’s Bazaar 11月号
公開日: 2024年10月21日
※本記事は、原文をできる限り忠実に翻訳しつつ、わかりやすさを重視して一部再構成しています。
SZA: 昨夜、映画を撮影したんだけど、映画を撮るのは初めてだったから、完全にパニックになってた。自分自身でいるのが怖くて仕方なかったわ。撮影がなかったことにするか、プレミアに行かないか、どっちかにしようかと思ってる。
セットでKatt Williams(『Friday After Next』で知られるコメディアン・俳優)に会ったんだけど、彼が私に「精神的に病んでる」って、"褒め言葉"として言ってきたの。「SZA、君は精神的に何か…」って言ってて、
私が「病気ってこと?」って聞いたら、
彼が「そうだよ」って。「ようこそ」って言ったの。
だから聞きたいんだけど、精神的な健康についてどう考えてる?自分も精神的な病気を抱えてるって感じる?それとも、ただ、いろんな感情があるだけで、あえてそういうラベルは貼らないの?
KL: 俺は”その言葉”と一緒に育ってきたよ。5歳か6歳の頃からずっと。
SZA: じゃあ、理解はできるけど、自分自身はそうじゃないってこと?
KL: 俺にとっては全部が経験なんだ。曲の中で何かを表現して、その瞬間はそう感じる。でも次の瞬間には、もうそうじゃなくなってる。それが俺の成長の仕方なんだ。全て主観的なものだよ。
SZA: セルフセラピーみたいな感じね。
KL: 俺は今、"内なる子供"に向き合ってるんだと思う。自分を理解しようとして、自分に似た人を探してた。自分の外にいる自分をどう見つけるかって。
他の人にはクレイジーに聞こえるかもしれないけど、俺は体の外から自分を見ることができる。そしてその時は何も判断しない。他の誰かには怖いことかもしれないけど、俺にとっては自然なことなんだ。
SZA: 怖くないの?
KL: 怖くないね。ステージ上の自分と、素の自分を同一視しないことを学んだから。そうしないと、歌詞を間違えるたびに自分を責めることになる。それは耐えられない。だから、"パフォーマーとしての自分"と、ただ"天井を見上げている時の自分"との間に線を引く必要があった。
それは16、17歳の頃に自然と身についたスキルで、キャリアのためだけじゃなく、自分自身のためにも必要だったんだ。まあ、これも少し病んでるってことかもしれないけどね。
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SZA: すごく正直ね。正直さとエゴの話をしてるとこで、"アヤワスカ"って経験したことある?
※アヤワスカは、南米アマゾン地域で伝統的に使われてきた幻覚性を持つ飲み物で、シャーマンによる儀式で使用されることが多い。植物を煮出して作られ、精神的な洞察やトラウマの癒しを引き起こすとされている。使用者は深い内面の探求やスピリチュアルな体験を求めて摂取し、幻覚や強烈な感情体験を伴うことがある。
KL: いや、ないよ。
SZA: えっ?じゃあ、どうやってそういう境地に至ったのか不思議だわ。普段のスピリチュアルな習慣について聞かせて。日常生活でどれくらいそういうことを実践してるの?
KL: 1日中、毎日だよ。
SZA: 1日中が儀式みたいなもの?
KL: そう。ありきたりな話じゃないんだけど、本当に神と対話してるんだ。時々、自分が狂ってきてるんじゃないかって思うこともあるけど、その時に神が「いや、これは本当に俺だ」って教えてくれる。
俺の朝のルーティンは走ることなんだ。走ってる時に初めて理解し始めたんだよ。俺にとってスピリチュアルな領域での"痛みの閾値"みたいなものがあって、脛が痛くなって、あと1マイルって時。
そうすると、囁きとかインスピレーションが降りてきて、自分が知りたいことについて語りかけてくる。気づいたら、もう3マイル、4マイル走ってるんだ。これを毎朝やってる。
SZA: 自分を手放すには...自分を壊さないといけないのよね。
KL: うん、俺にはそれが必要なんだ。
SZA: 神の教えに感謝してるわ。あと、ちょっと話は変わるんだけど、ここ数年で自分が変わるきっかけになったものって何だと思う?
KL: "正直さの持つ力"かな。自分に対しても正直でいること。他人の見方、特に目の前にいる相手への見方。あと、弱さを見せることは本当の弱さじゃないってことを学んだことだよ。最後のは、まだ学び途中って感じかな。
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SZA: どれが一番難しい?
KL: 最後のやつだね。
SZA: なんで?
KL: 子供時代の話をしなくちゃいけないからなんだ。あの頃に戻るのは嫌なんだよ。トラウマだから。父親は厳しかった。「毎日働け、家族を養え、それを繰り返せ」っていう、軍隊式の考え方だった。
いわゆる”男らしさ"ってやつさ。父は決して弱さを見せなかった。目の前の相手に一瞬でも隙を見せるような感情は一切出さなかったんだ。気づかないうちに俺も同じような特徴を身につけてた。
でも、この仕事をしていく上で、弱さを見せなければ成長はないってことに気づいたんだ。もっと早くそれを理解できてたら、周りにいた人たちにも、もっと深く、広く届けられたかもしれない。
親たちの世代には、自分を表現する手段がなかったよね。俺たちは、彼らにとって希望の光みたいなものなんだと思う。君の母親は、君が自己表現することについてどう感じてるの?
SZA: 母は1950年代に黒人として生きてたの。セントルイスで学校を統合する最初の黒人学生だった。礼儀正しくて、問題を起こさない「オードリー(SZAの母親の名前)」になるために自分を抑えてきたの。郊外で育って、うちが少数の黒人家族の一つだったから、その感覚を私にも伝えようとしたわ。
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母は素晴らしいエネルギーを持ってるけど、本当は誰かの尻を蹴飛ばしたい気分なんじゃないかな。そうできたら、もっと楽になれると思う。
母が自分を監視するのにどれだけ時間をかけてるか話してくれた時に思ったの。「私たちは祖先の夢が叶った存在」って、選挙の話とかでよく言うけど。
私は本当にそう感じるの。だって私は"ビッチ"でいられるし、それを受け入れてる。母の時代は、自分の立場や白人社会では"ビッチ"になることは許されなかった。だから私の義務として、ここで「私はやりたいことをやる」って言うべきなの。
最初、母は私が過激なことを言ったり、型破りな振る舞いをするのにすごく戸惑ってた。誇りに思いつつも恥ずかしかったみたい。でも、それが母を解放し始めたの。家の中のものを動かしたり、家をデザインしたり、自由に振る舞うようになった。
貧しく育ったから、自分のために何かを持つことや、家を改装するなんて考えるのは怖いことだったの。夢の家がどうなるかなんて、想像すらしたことがなかった。それが怖くて、混乱して、怒って、恥ずかしくなった。でも今では、私を通して解放された感じになってるの。
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KL: 君がそれを与えたんだね。
SZA: そして、母も私にそれをくれた。最後に泣いたのはいつ?最初に泣いたのはいつ?
KL: 最後に泣いたのは『Mr. Morale(正式タイトル: Mr. Morale & the Big Steppers)』の「Mother I Sober」を作った時だね。あれは深い瞬間だった。
SZA: 最近、これまでの人生で1番泣いてる?
KL: 今は?うん、そうだね。泣かずにはいられないよ。
SZA: 浄化される感じよね。
KL: でも、君の方がもっと自然にできるかもしれないね。
SZA: 私、いつも泣いてるよ。今だって泣きそう。それって本当に美しいから。ねえ、最初に泣いた時のこと覚えてる?その瞬間を受け入れられたの?
KL: 最初に受け入れた時は、実際に記録が残ってるんだ。2011年にDreやSnoop、West Coastの皆がステージに上がって、「これが俺たちが渡すトーチ(役割を引き継ぐことの比喩)だ」ってなった時。Dreが俺にトーチを渡してくれて、エネルギーが爆発して、涙が止まらなかった。
"その涙"は今もネット上に残ってる。今思い返すと、その瞬間が大好きだね。あれが起きたことに感謝してる。自分をリアルタイムで表現して、それまでの努力が実を結ぶ瞬間を見られたから。
「Kendrick Lamarがインタビューで語った西海岸のレジェンドたちに"バトンを渡された瞬間"」
— 𝟛𝟛𝟙𝖘𝖙𝖔𝖒 (@Mizaistom_7) October 22, 2024
素晴らしいとしか言いようがない🥹 https://t.co/WWoYOBbFiX pic.twitter.com/bhgXtN93jh
SZA: あれは感動的で素晴らしかったわ。今、自分に望むことって何?原動力は?もう全部やり切った感じ?今は全部がプロット(ここでは人生の計画を指す)のため?そのプロットって自分自身?さらなる自己発見がプロット?それとも支配?
KL: 面白いよね、今朝まさにそのことを考えてたんだ。若い世代と自分の経験を共有して、それを伝えていくことに充実感を感じてる。だから質問に答えるなら、人々とのコミュニケーションが俺の原動力かな。
俺の音楽の仕事は、ただの始まりにすぎない。終着点じゃないと思う。いや、終着点じゃないんだ。音楽は俺をそこに導くための手段でしかない。
SZA: 自分がすべきことについて具体的なビジョンはある?
KL: ないんだ。それが好奇心をかき立ててくれるし、そのおかげでエネルギーが湧いてくる。
SZA: 具体的にどうしたいって願望はある?それとも、神に任せる?
KL: 神に任せるつもりだ。俺はその神秘さが好きなんだ。それがなきゃダメなんだよ。追い求めること自体が大事なんだ、わかる?
SZA: あなた、本当に柔軟ね。
KL: やめろよ。笑
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SZA: そうよね。私はそれで苦しんでる気がする。私って本当の意味で”教わる”ことができないの。それが私の問題で、いつも恐怖にとらわれてるか、何か無茶するかのどっちか。
痛みには弱いけど、競争には強いっていう変な性格。説明できないけど。で、もし何かを望むなら、一番欲しいものって何?
KL: 情報だね。全部が欲しい。リソースが欲しいし、自分より賢い人たちに会いたい。彼らと話がしたいし、何かを教えてほしい。この世界が与えてくれるものに満たされたいんだ。それが俺をワクワクさせる。情報さ。俺はそれに夢中なんだ。君もでしょ?
SZA: そうね。
KL: この世界はミステリーで、それをミステリーとして愛してるんだ。その答えが正しくても間違ってても関係ない、それでいいんだよ。
SZA: あなたって本当に「Father Time」って感じ。普遍的な父親のエネルギーを持ってるというか。実際、普遍的な先生って感じでもある。
性別の境界を超えてるっていうか。父親でもあり母親でもある。だって、女性的なエネルギーにもすごく調和してるように見えるの。自分が女性的な側面と繋がってるって感じる?
KL: 両方のバランスを取る必要があると思う。最初は、男らしさしか知らなかったし、父親の影響でずっと壁を作っていた。でも音楽を深く掘り下げるにつれて、より自分を表現できるようになってきたんだ。
それこそが"女性的な"エネルギーだと思う。俺が育ってきた環境では、(男が)いつも強がってる姿しか見たことがなかったけど、今の俺は違う。繊細な自分、静かに話す自分、これが本当の自分なんだ。
これが俺のスーパーパワーなんだ。俺の仕事はコミュニケーションすることだからさ。だから、誰とでも話せる必要があるのさ。
たとえば、SZAの前に座って、君がリラックスできるように、そして俺と君との間で"本物の会話"をしていると感じられるように話さなきゃならない。それは壁を作っていたらできないし、"男らしさ全開"のままじゃ無理だよ。
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SZA: ハイパーマスキュリン(極端なまでに強調された男らしさ)な質問していい?「黙れ」って言ってくれてもいいんだけど。「Not Like Us」ってあなたにとってどういう意味?
KL: (笑いながら)「Not Like Us」?それは、俺が持つエネルギー、俺が示したい男のタイプって感じかな。で、もし君が俺の示したい生き方に共感するなら…
SZA: その男について教えて。
KL: その男にはモラルがあって、価値観を持ち、信念がある。彼は迎合しない。自分のミスを認め、それを共有することを恐れないし、恐怖に基づいたイデオロギーや経験を深く掘り下げて表現できるんだ。
それをしても、男として劣ってるとは感じないんだ。俺が「Not Like Us」を考えるとき、"俺とそれに共感する誰か"を思い浮かべるんだ。
SZA: ねえ、その話の流れで、もう少し質問していい?それとも話題を変えたほうがいい?
KL: キツめの質問?
SZA: ううん、全然!むしろ、みんながあなたを怒りっぽい人だと思ってることが面白いなって。私が感じるあなたのエネルギーは、全然怒りに基づいてないの。
実際、この1時間ちょっと話してて、むしろヨガや僧侶みたいな静かなエネルギーを感じる。だから、あなたの曲でエネルギーが溢れ出るとき、その源はどこにあるの?怒り?
KL: 俺は自分が怒りっぽいとは思ってないんだ。でも、"愛"と"戦争"は共存すべきだと信じてる。その認識があるから、物事に反応はできるけど、それを自分自身とは同一視しない。ただ、それを存在させて、俺の中を流れさせる感じ。それが俺の考えだね。
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SZA: 今のうちにやめとこう。これ以上変なこと言っちゃう前に。
KL: わかった。で、君のことなんだけど、俺がいつも君を尊敬してるのは、完全に自分を表現できる能力なんだ。音楽を通してどうやってそれを進めてるの?特定の歌詞でそれが出てくることを恐れてる?
SZA: 去年、すごく正直な曲を書いたんだけど、リリースできなかった。自分について正直すぎることを言っちゃって、止められないの。退屈しないように、自分をさらけ出すしかない。そうしないと「これ、何の意味があるの?」って感じになっちゃう。
スタジオにいると、時々その痛みが強すぎるの。だから他の人になりきるの。あなたやFrank(Ocean)やFutureになる。それが簡単だから。自分の目じゃなくて、彼らの目を通して自分を見るほうが楽なの。
自分に対して言ってる厳しいことを、自分の目で直視するのが辛すぎるから。もっと自分に優しいことを言いたいんだと思う。だから「自分の目で見るんじゃなくて、誰か他の人の目を通して見たほうがいい」って思うの。
でも、『Mr. Morale』を聞いたとき、私は「自分のアートを深く掘り下げてない。多くのことから逃げてる」って感じた。
それで今は「そう、私は依存症で、人を喜ばせたくて仕方ないんだ。怖いものがたくさんある。私は超わがままなんだ」って、こういうことを自分に言ってる。エゴを根底から剥ぎ取らなきゃ。そうしないと、今の自分の状態に飽きて死にそうだから。
なんでこんなに"人間でいること"を拒むのかって考えると、それはただ痛すぎるからなの。でも、それが仕事なんだ。
いくら霊的な存在と対話しても、そのことは変わらない。結局、ここにいなきゃいけない。いつかはエーテル(霊的な領域)の中に行くんだろうけど、今じゃないってだけの話。
KL: それだよ。それが大事なんだ。感謝するよ。
SZA: 自分が泣いてることに笑っちゃってる。でも、ありがとう。私も感謝してる。
KL: 誇りに思ってるよ。君のアートだけじゃなくて、君自身を尊重し、感情を経験し、そのことを自覚して「これが自分だ」と受け入れて成長するか、それを置いて後で取り組むかを選べることに対して誇りを感じてる。それが君から受け取ることなんだ。恐れを打ち砕くセンスがあるって感じるよ。
SZA: あなたがやってることを、私もやらなきゃ。あなたの哲学の「熱くなりすぎたら、その時こそさらに進むべき時だ」っていう考え方。脛が焼けるまでやり遂げるって。私もそこに行きたい。
イントロダクション: Kaitlyn Greenidge
写真: Quentin de Briey
スタイリング: Carlos Nazario
着用アイテム:
Celine Homme by Hedi Slimane ジャケット・パンツ
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Menē スクエアシグネットリング
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