【 人生は洗濯の連続 】#毎週ショートショートnote
「そこの人、聞えますか?」
穏やかな男性の声がした。
俺は登山の最中だ。もうすぐ暗くなる。テントを張る場所を探していた。
俺はすぐに返事をせず、周りを見渡した。誰の姿も見えない。
また、声がした。
「あの、そこの人。あなたは、もう洗濯をするものがありませんよね」
え、なぜ、その事を。だから、俺は山に入ったというのに。
「もしかして、死神さんですか?」
「分かっちゃいましたか」
「本当だったんだ。洗濯が増える洞窟へ行く人を、阻止する死神が出るというのは」
「都市伝説ではありませんよ。私の報酬が減ってしまうので、阻止するのですよ」
俺は今まで洗濯を間違えなく行い、人生をつかみ取ってきた。
だが、この間、間違ったモノを洗濯し、あと1回になってしまった。
「で、俺の魂を持って行くのか」
「まさか、ここで洗濯を間違えなければですが。
あなたには、まだ生命の炎は残っていますから」
「これは、断れないな。俺の魂の洗濯権を渡すよ」
「すんなりで、助かります。それでは」
死神はニタッと笑い、俺の魂を手の平に載せた。
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