
【 非情怪談 】#毎週ショートショートnote
俺はパワハラを受け、会社を辞めようかと屋上で悩んでいた。
何度目かの時、経理課の同期が屋上にやって来た。
その同期は、人の心がないと言われているほどの完璧な経理処理をする女性だった。俺は、一度も笑顔を見た事がない。
その同期は「こっちへ来て」と、俺を隣のビルがある暗い方へと誘った。
そして、ヒョイと柵を跳び越え下へ落ちそうになった。
俺は「あぶない」と叫び、こちらに差し出された手を掴んだ。
もの凄い力で、下へ引きずり込まれた。
あ~。すぐに気絶した。
ゆっくり目を開けると、非常階段の狭い踊り場だった。
あれ、ここには何もなかったはず。左側には隣のビルが見える。
え。柵の向こう側に同期がニタッと笑いながら浮いていた。
俺は、ゾーっとした。
しかし口元をよく見ると、“助けて”と動かしている。
また、その手を掴んだ。
その途端、また下へ引きずり込まれた。
目が覚めると、また狭い踊り場だった。
助けてはいけない、分かっているのに。
それなのに俺の右手は、また同期の手を掴んで・・・。
そして何十回か繰り返した後、俺はビルの隙間のコンクリートの上で目が覚めた。
(文字数:463文字)