見出し画像

5.妻を助ける年金制度

ご訪問いただきありがとうございます。

社労士試験の学習をしているあなたは、「年金の2科目は、他と比較して格別に難しく、基礎からしっかり説明してくれるテキストがあれば・・」と感じたことはありませんか。

このnoteの目的は、社労士を目指している方が、年金2科目のテキストに書いてあることを理解できるようにすることです。
社労士試験最大のヤマ場であろう年金制度の基本となる考え方や、なぜそのよう仕組みなのかを主眼に解説します。

noteは全部で9つあります。
全部読んだあともう一度、受験テキストを読んでみてください。
難解だった年金がすっきり頭に入るようになります。
今回のノートは第5回目です。

本題に入る前に、配偶者の方を助けるための年金制度について、重要事項を説明します。
日本の年金制度は厳密には男女平等ではありません。
妻(女性)を助ける制度のほうが保障が厚くなっています。

具体的には、
①老齢基礎年金・老齢厚生年金:夫と妻の保障は同じ
②障害基礎年金・障害厚生年金:夫と妻の保障は同じ
③遺族基礎年金・遺族厚生年金:夫と妻で保障に差がある

以前は、老齢基礎年金・老齢厚生年金も、妻に対する保障のほうが夫に対する保障よりも厚い制度でした。
現在は、遺族基礎年金・遺族厚生年金のみ夫と妻で差がある制度になっています。

これから説明する妻を助ける制度については、
①老齢基礎年金・老齢厚生年金:妻と夫を入れ替えても読んでも同じ
②障害基礎年金・障害厚生年金:妻と夫を入れ替えても読んでも同じ
③遺族基礎年金・遺族厚生年金:妻と夫は別々に説明
となります。

(1)妻を助ける年金制度

妻を助けるための年金制度は、最も複雑です。
年金制度のあらゆるエッセンスがここに凝縮されています。
妻を助ける年金制度が理解できれば、年金科目の半分は克服したことになります。
しっかり学習をしてください。

夫に自分の生活を支えてもらっている妻は、夫の老齢・障害・死亡により、生活が支えられなくなります。
その時夫の年金が発動され、妻を助けてくれます。

次の事項ごとに具体的な確認をします。

年上の夫が老齢になり収入がなくなる
年下の夫が老齢になり収入がなくなる
夫が障害になり収入がなくなる
夫が死亡し収入がなくなる


(2)年上の夫が老齢になり収入がなくなる

(前述のとおり、老齢基礎年金・老齢厚生年金の説明は、妻と夫を入れ替えて読んでも同じ制度です。)

夫のほうが年上の夫婦の場合、夫が先に65歳になります。
条件があえば、夫に老齢基礎年金・老齢厚生年金の支給が開始されます。
夫が厚生年金保険に20年以上加入し、妻が夫に生計を維持されていれば、老齢厚生年金に加えて加給年金も支給されます。
金額は224,700円×改定率+夫の生年月日に応じた加算額です。
この加給年金は、夫が老齢になったことに対する、妻への保障です。
ただし、妻が20年以上被保険者期間のある老齢厚生年金の受給権者または障害厚生年金の受給権者の場合、夫に加給年金は支給されません。


やがて妻も65歳になります。
妻が65歳に達すると、夫の加給年金は支給されなくなります。
理由は、妻に老齢基礎年金が支給されるからです。
老齢基礎年金が支給されると、保障はひと段落となり、原則として他の新たな保障はなくなります。

しかしながら、ここに例外があります。
加給年金が支給されていた年上の夫を持つ妻が65歳に達したとき、夫に生計維持をされている場合は、妻の老齢基礎年金に、「振替加算」という新たな年金が支給されます。
この支給は、昭和41年4月1日以前生まれた方に限ります。
なぜ、昭和41年4月1日以前生まれに限定するのかは、こちら

にて解説しています。 


年上の夫が老齢になった際、妻を助ける制度の概要は下図のとおりです。

画像1

年上の夫を持つ妻は、夫が65歳になり収入がなくなると・・
・妻が65歳まで:夫に加給年金が支給される場合あり
・妻が65歳以降:妻の老齢基礎年金(全員)
          妻の振替加算(夫に加給年金が支給されていた妻)
          妻の老齢厚生年金(加入者のみ)

このような年金制度によって、妻の老後の生活が保障されます。


(3)年下の夫が老齢になり収入がなくなる

(ここも、妻と夫を入れ替えて読んでも同じ制度です。)

加給年金は、夫が65歳になったときから、妻が65歳になるまで支給される制度です。
夫が年下の場合は、夫が65歳になったとき、妻は65歳以上です。
したがって、夫の老齢厚生年金に加給年金は支給されることはありません。
夫が年下の場合、夫が65歳になって初めて、条件が合えば妻に振替加算が支給されます。

画像2

(4)夫が障害になり収入がなくなる

障害厚生年金の加給年金は、老齢厚生年金とは異なり、夫に20年の加入実績がなくても支給されます。
前項から説明のとおり、障害厚生年金は最も保険らしい制度です。
過去厚生年金保険料を納めた期間・月数に関係なく、障害という事故があれば、生計を維持されていた妻への保障として加給年金が支給されます。

そして、その妻が65歳になると、妻の老齢基礎年金に振替加算が支給されます。
このルールは、老齢基礎年金と同じです。

画像3

(5)夫が死亡し収入がなくなる

妻に支給される遺族基礎年金・遺族厚生年金は、制度が多数あります。
最も典型的な事例を図にすると以下のとおりです。

画像4

1)遺族基礎年金

夫が死亡した時、高校生以下の子がいる場合に支給されます。
子が18歳の学年末をもって支給は終了します。
遺族基礎年金の趣旨は、子を助けることが目的の年金であり、妻を助けることが目的ではありません。
条件が同じであれば、妻の死亡により夫にも支給されます。
(男女で差がない制度です)

2)遺族厚生年金

夫が死亡当時、厚生年金保険の被保険者であれば、遺族だった妻に支給されます。
子供がいない30歳未満の妻の場合、一定の年数が経過すると支給されなくなります。
妻が死亡した場合の夫への支給に対しては、相当厳しい条件がつきます。
(男女で差がある制度です。)


3)中高齢寡婦加算

子が高校卒業の学年末をむかえ、遺族基礎年金の支給が停止された際、妻が40歳以上なら支給されます。
子のいない妻の場合、夫の死亡時40歳以上ならば、同様に支給されます。
金額は、満額の遺族基礎年金基本の金額の3/4です。
夫が20年以上厚生年金保険の被保険者だったことが支給の条件です。
老齢基礎年金が支給される65歳までの年金です。

妻のみが支給され、夫が同じパターンになっても支給されません。
(男女で差がある制度です)


4)経過的寡婦加算

妻が65歳以上になり、老齢基礎年金を受給するようになると同時に支給されます。
夫が20年以上厚生年金保険の被保険者だったことが支給の条件です。

昭和31年までに生まれた妻が対象です。

昭和31年以前に生まれて妻は、一般に老齢基礎年金の金額が少ないため、それを救済するのが、この制度の趣旨です。


金額は妻の生年月日によって異なりますが、年齢が高い妻ほど金額が高くなります。
老齢基礎年金の振替加算と似た制度です。
妻のみに支給され、夫が同じ条件でも支給されません。
(男女で差がある制度です)

5)寡婦年金

夫が、10年以上第1号被保険者として保険料を納付したにも関わらず、老齢基礎年金や障害基礎年金を受給することなく死亡した場合、その妻に60歳から65歳の期間支給されます。
第1号被保険者として納めた保険料が掛け捨てにならないようにするための救済制度です。
夫の死亡により、以前に遺族基礎年金の支給を受けていたことがある妻にも支給されるのがポイントです。
支給額は夫の第1号日保険期間のみを対象にした老齢基礎年金額の3/4です。
妻のみに支給されます。
(男女で差がある制度です)

5)夫の遺族厚生年金と妻の老齢厚生年金は併給できない

若くして夫が亡くなり、妻に遺族基礎年金と遺族厚生年金が支給されます。
その後、子が成長し遺族基礎年金は支給されなくなりますが、遺族厚生年金は原則として妻死亡まで支給され続けます。

やがて、妻も65歳となり自身の老齢基礎年金と老齢厚生年金が支給されるようになります。
このとき、一人一年金の法則が発動され、夫の遺族厚生年金と妻の老齢厚生年金の両方を満額受け取ることができません。

妻は、以下のいずれかを選ぶことになります。
・夫の遺族厚生年金の全額
・妻の老齢厚生年金の全額
夫の遺族厚生年金の2/3×額+妻の老齢厚生年金の1/2×額

夫の遺族厚生年金は夫の老齢厚生年金×3/4の金額です。
したがって、
夫の遺族厚生年金×2/3=夫の老齢厚生年金の3/4×2/3
            =夫の老齢厚生年金×1/2です。

つまり、夫と妻それぞれの老齢厚生年金の1/2ずつとなります。

6)夫の死亡時、妻30歳未満の場合

夫が死亡時、妻が30歳未満だった場合、遺族厚生年金の支給には制限があります。

妻30歳前に、遺族基礎年金の受給権が何らかの理由で消滅した場合、その5年後に遺族厚生年金の受給権も消滅します。

夫が死亡時、妻30歳未満でしかも高校生以下の子がない場合、遺族厚生年金の受給権は5年後に消滅します。

若い妻には、その後自身で収入を確保する道がまだまだあるという考え方のようです。

画像5

以上が、妻を助ける制度のおおまかな概要です。

受験テキストでは、国民年金と厚生年金保険が別々の章になっています。
そのため、特に妻に対する遺族基礎年金・遺族厚生年金などの支給がどのような場合、なにが、どのような主旨で支給されるのか、体系的に理解できません。
これが、年金科目も難しくしている最も大きな理由です。


「老齢」「障害」「死亡」それぞれの事故ごとに、国民年金と厚生年金保険の制度を併せて整理すると概要が見えてきます。

(5)最後にまとめ

1)配偶者が死亡した場合、妻に対してのみ支給される年金制度がある
中高齢寡婦加算・経過的寡婦加算・寡婦年金です。

2)夫の老齢厚生年金に加給年金 ⇒ 妻の老齢基礎年金に振替加算 の流れを押さえる。
夫が65歳になると、夫の老齢厚生年金に加給年金が加算されます。
その後、妻が65歳になると、妻の老齢基礎年金に振替加算が加算されます。
(夫の加給年金は支給停止となります)

3)夫の死亡で妻が受け取る年金の流れを押さえる。
①遺族基礎年金+遺族厚生年金
②子が高校卒業し、遺族基礎年金は失権
③そのとき妻40歳以上なら、中高齢寡婦加算
(夫が厚生年金保険に20年以上加入していた場合のみ)
④妻65歳からは、経過的寡婦加算
(夫が厚生年金保険に20年以上加入していた場合のみ)

今回のnote
社労士試験 年金がわからない人へ 5
老齢年金支給で保障完了
5.妻を助ける年金制度
  は
これで終了です。

次回のnoteは

お読みいただき、ありがとうございます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?