綾瀬さんと真谷くん65「いばらの城」


通し稽古の序盤が終わり、中盤のストーリーに差し掛かった。姫の誕生日パーティーの場面から再開する。話が進み、姫もとい響が眠る場面へと移る。
ここのセットは大掛かりだ。大量の可動式のいばらと、その後ろのお城。
「リラ様、このお城に眠ったままの姫が?」
「コラァ! 心がこもってない! もっと疑問系強めに入れて! どっからどう見ても廃墟でしょ、お姫様いるように見えてるの?」
姉ちゃん僕にだけ厳しすぎない?

「ンンッ、リラ様……このお城に眠ったままの姫が?」
「よし」
よしじゃないよ……
「えぇ、この奥にはあなたに先に行っていただきます。私は後ろからついていくほかありませんから」
「所作が乱雑! もっとたおやかに!」
細かいよ姉ちゃん……
そんなふうに怒鳴られながらもなんとか続けていく。結局姫の元に辿り着くまでに15分かかった。5分もないシーンなのに。
「さぁデジレ王子、オーロラ姫にキスを」
さてここで大事になってくるのが、キスをした「ふり」におさめること。じゃないと姉ちゃんにとてつもなく怒られる……気がする。
「なんて美しい……」
見惚れる演技をしながら……いや実際見惚れてはいるんだけども、うまいこと角度を調整して、口元を隠しやすいように響の顔の位置を移動する。あぁ……本当に響の寝顔は美しい。そして目の錯覚を利用してキスのふりをすればOK。起きるタイミングは抱き寄せてる腕が客席からは見えないことを利用して、背中をトントンして知らせる。
「あら? あなたはだぁれ?」
よし、うまくいった。姉ちゃんから何も言われなかったことを見ると、客席側からはちゃんとキスしてるように見えたんだろう。
そして周りを起こしてあげながら、次のシーンの速替えの衣装のありかを思い浮かべる。すぐに結婚式のシーンになるからだ。

衣装を見つけてすぐに着替えて結婚式のシーンに移る。
「デジレ王子、あなたはオーロラ姫と永遠の愛を誓いますか?」
「はい、誓います」
「もっと感情を込めて!それじゃぁ薄っぺらい誓いになるぞ!」
細かいよ……
「はい、誓います!!」
「よし!」
これでいいのかよ……
「オーロラ姫、あなたはデジレ王子と永遠の愛を誓いますか?」
「えぇ、誓います」
響がそう言うとライスシャワーが降って終幕となった。
「OK!みんなお疲れ様!これで本番はバッチリだよ!」
「ああぁ疲れたぁ!」
衣装を脱いで、役名が書かれているプラケースに詰める。
ステージから一回転して飛び降り、片膝をついて着地する。
ふと外を見ると陽が完全に落ちかけていた。
「外はもう暗くなってきているから気をつけて帰ってね」
「奏音先輩、私たちの練習に付き合っていただきありがとうございます!」
「良いのいいの!このくらい」
「悩める後輩に手を差し伸べるのが先輩の役目だからね」
姉ちゃんがそう言うとファンの女子達から黄色い声があがった。ほんとに姉ちゃん人気あるよなぁ。
「お疲れ様、優」
声がした方を見ると響がいた。
「おぉ、おつかれ――」
そう言いかけたが、響がなんだかいつもより可愛く見える。文字通りのお姫様のように錯覚した。
「?どうしましたか?」
響が不思議そうにこちらを見る。
「あ、いやなんでもないよ」
(響が可愛くて見惚れていたなんて言えねぇ)
荷物は講堂に向かう時に持ってきていたので、荷物をもってすぐに帰ることができた。
その後は響と雑談をしながら帰路に着いた。
「それじゃまた明日学校で」
「うん、また明日」
響が家の中に入ったことを確認して、僕も帰路に着く。



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