真谷優の大学留学記58「花火大会」

今日は納涼花火大会がある。この花火大会は市内でも最大規模を誇るものだ。響とは会場である河川敷の近くにある、管理事務所を兼ねた小屋の前で待ち合わせをしている。響はどんな格好してるんだろうなと内心わくわくしながら向かっていた。小屋の近くまで来たが、響はまだ来てないみたいだ。もう少し待つとしよう。体感10分くらいして後ろから肩を叩かれる感覚がした。

振り返るとそこには花火大会らしく花火の模様をあしらった水色の浴衣を身に纏った響がいた。
しかも三つ編みハーフツインという僕得な髪型をしている。本当に響は僕好みの髪型をしてくれるからありがたい。どんな髪型でも好きだけどね。「優?どうかした?」いけないいけない。あまりにも可愛すぎるから、ついじっくり見てしまった。「なんでもないよ。 さ、ベストポジションをとってるから行こうか」僕は流れるように響の手を取り、確保していた場所に向かう。開始の1時間半前ということもあり、 人だかりは少ない方だ。

「始まるまでまだ時間あるし、なにか飲み物買ってくるね」響にそう伝えて、飲み物を買いに行った。なるべく早く戻るか。「響ただい……」飲み物を買い終えて戻ってきた僕の目に信じられない光景が飛び込んできた。「ねえ〜そこのお姉さん俺と一緒に花火見な〜い?」「彼氏と来てるので帰ってください」「そんなこと言わずにさぁ〜」そう言ってナンパ野郎の手が響の肩に伸びそうとした瞬間、僕は考えるより先に動いていた。「おい俺の彼女に何してんだ?」そいつに近づき、低い声を向ける。「あ?なんだお前?」ナンパ野郎が僕の方を向く。「何してんだ?って聞いてんだろうが!耳ないんかお前!」「ひいぃ!!」「何してたか言えや」「ナンパを……してました……」「なんでナンパしとったんや?」
「あの……彼女さんがあまりにも綺麗でつい……」
「なに人の彼女にナンパしとんじゃワレ!」
「す……すみませんでした……」
「声小さいねんはっきりせいやコラ!」
「も、申し訳ございませんでした~~~!!! 」
ナンパ野郎はその場から逃げ去っていった。
「ふぅ何とか追い払えたよ」
というか似たような状況3年前もあったような気がする。

「優、大丈夫だった?」
「あぁ何とかね」
「響は何もされてない?」
「何もされてないよ」
「良かった〜」
僕は安心して、響の隣に腰を下ろした。
すると響が僕の方へ寄りかかった。
シトラス系のシャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。「助けてくれてありがとうね優」
「急にどうしたの?響」僕は思わず吃驚した。「こうして面と向かって感謝を伝える機会が少ないから、今言っておこうかなって」なんとも響らしい返答だった。たしかに今、僕は留学をしていてなかなか会えない。「響は僕が留学して寂しくない?」僕は響に聞いてみた。「寂しいよ。 でも優が何よりの元気のもとだから、これからもそばにいてね優」

響がそう言ったと同時に開幕の花火が上がった。花火の光に照らされ、響の横顔が鮮明になる。
その横顔に思わず見とれてしまった。横にいるのは響のはずなのに、まるで別人のように見えた。
っていかんいかん。花火大会に来てるんだから花火を見ないと。正面に目を向けると、丁度目玉である水中花火をやっていた。水中花火ってどうやって打ち上げてるんだろうか?思わず無言で見入ってしまうが、それは響も同じようだった。そして花火はあっという間にクライマックスとなった。最後の花火が夜空に咲き終わると、万雷の拍手が会場に響いた。場所取りから数えると実に10時間近く居たから、もうクタクタだ。響に何とか支えられて、片付けをした。シートをカバンに詰め、響を家の近くまで送った。「今日はありがとうね優」「こちらこそきてくれてありがとう」「次はいつ頃来れるの?」「順調に行けば冬休み辺りには帰ってこられるはずだよ」「わかった。  それまで楽しみにしているね。 おやすみ優」「うん。 おやすみ響」響が家に入ったのを確認して、僕も帰路についた。電話の頻度とか増やした方がいいのかな? でも多すぎても迷惑だよな。どうしたらいいのかを考えながら、夜道を歩いていく。

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