綾瀬さんと真谷くん100「卒業式そしてドイツへ」
今日は卒業式。正門横の立て看板には{第七十三回清巌高校卒業証書授与式}と大きく書かれていた。この3年間色んなことがあったけど充実した3年だったな……。思い出に浸りながら突っ立っていると誰かに肩を叩かれた。振り向くとそこには髪をまとめた響が居た。「もう卒業だね優」「うん……そうだね」「さ、早く教室に行きましょ」教室へ向かうとちょくちょくSNSで見かける黒板アートが描かれてあった。黒板アートを背に響とツーショットを撮った。 何枚か撮ったあとに自分の席に着いて、置かれてあったコサージュを付けてその時を待つ。緊張からか手汗が出てきたので手汗を落しに席を立った。手を拭いながら教室へ入るとそこには着物を着た担任が居た。思わず変な声が出そうになったが堪えて横をとおりすぎた。再び自分の席について、担任から説明を受ける。
意外と早く説明が終わったので、廊下に並んで体育館へと向かった。体育館へ入ると在校生や保護者の方の拍手に迎えられた。全員が並び終わり、長椅子に一斉に座る。国歌と校歌を斉唱したあと、愈々メインである卒業証書授与に入った。出席番号順で呼ばれていくから僕は後の方になる。順調に呼ばれていき、僕の番が来た。壇上に上がり、卒業証書を受け取る。一礼して自分の席へと戻る。全員が受け取り終わり、校長先生の長い挨拶や来賓の挨拶を受けたあとは在校生の送辞が読まれる番になった。「校庭の桜の蕾も膨らみ始め、春の兆しを感じる頃となりました。卒業生の皆さん、本日はご卒業おめでとうございます。先輩方には、部活動や生徒会活動で大変お世話になりました。特に部活動では、多くのことを教えていただきました。私は運動部に所属していますが、技術だけではなく目上の人ととの接し方や、集団生活における規律の大切さなどを丁寧に教えていただきました。卒業生の皆さん、本当にこれまでありがとうございました。何かと頼りにしていた先輩方が卒業されると思うと、心細くなります。でもこれからは私たち新3年生が、先輩に負けないような良き手本となるよう頑張っていきたいと思います。令和5年3月19日 清巌高校在校生代表 夏野瑞希」しばらくして盛大な拍手が起こった。
在校生代表が戻ってしばらくしてアナウンスが入った。 「続いて学年主席から在校生に向けてのスピーチです」僕の番だな。盛大な拍手を背に浴びながら生徒たちの前に立つ。「在校生諸君、こんにちは。風紀委員を勤めさせてもらった、真谷優だ。天気にも恵まれた今日、我々三年生は曲がり角をまがり、人生における次の小径を歩いていくことになる。我々はもはや、在校生ではない。証書をもらった諸君はそれを胸に刻め。そして夢に向かって邁進していこうではないか。さて、これからこの学校に残る諸君にメッセージだ。私がいなくなったからと行って羽目を外さぬように。特に!浮かれたつ気持ちは分かるが。恋愛如きにうつつを抜かしたり、剩えそこで揉め事を起こそうなどと画策するようなことは諸君の品位を貶める所以、決してしないように心掛けろ。いいな。では諸君。私はドイツのゲッティンゲンへ向かう。君たちも良き人生を送りたまえ」結局姉ちゃんが使ったスピーチを流用する羽目になったが、いくらか牽制はできただろう。卒業の歌の斉唱が終わった後は運動場で写真撮影か。卒業の歌はゆずのは『友〜旅立ちの時〜』だ。曲が流れると同時に脳裏に思い出が溢れる。
-------------------------回想--------------------------------
入学した当初は高校3年間うまくやって行けるかな……と思っていた。そんな時に出会ったのが響だった。委員決めの時は誰も手を挙げなかった学級委員長に立候補し響を支えた。いつしか僕は響に惹かれていて1年の冬休み前に響に告白して付き合った。2年になり体育祭で付き合っていることを公表した。体育祭が終わってからしばらくは嫉妬からか嫌がらせがあったけど、主導していたクラスメイト2人を見つけだし制裁したらパタリとやんだ。文化祭ではコンカフェを開いて接客とかやったなぁ。冬休み明けにあった職場体は響と井崎さんと一緒に原稿の校正を体験したりして楽しかったなぁ。3年に上がってからは響に寝顔をdiscordサーバーに撒かれるハプニングとか、文化祭で演劇をやったり、修学旅行に行ったり僕とと付き合っていると知りながら告ってきた西田とか何故か後輩から告白されたりとかしたけどなんだかんだ3年間楽しかったなぁ。これから進むべき道の先にどんなことが待っていても、僕達はずっと繋がっている。そう信じて歩み続けて行く。
-----------------------------回想終わり-------------------------
ちょうどよく歌が終わり残るは退場のみとなった。体育館から校舎までの花道では吹奏楽部が威風堂々を演奏している。教室に戻り、写真撮影とかの説明を受けて校庭へ出る。程なくして後輩たちに囲まれた。しかし女子の比率が高いのはなんなのだ。後輩達と何枚か写り、続いて同級生達と一緒に写った。もう充分写ったので響と一緒に正門を出た。そうだひとつ報告忘れてた。「響……報告遅れたけど、僕ゲッティンゲンに受かったよ!」「ほんとに!?おめでとう優!」「僕がドイツに渡ったら長期休み以外は会えなくなるけど大丈夫かな?」「うん。耐えてみせる」「それなら良かった」さて早く帰って留学の最終準備しますか。
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出発予定は26日だ。パスポートの更新は済ませておいた。あとは直行便のeチケットの控えと、クレジットカードは去年届いたものを使う。あとはある程度のユーロも必要か。パソコンなどその他必要なものをまとめてスーツケースに入れる。他にも手続きすることがあるから大変だ。何とかして必要な手続きを済ませて、準備は整った。あとはその時を待つのみだ。
ー出国当日ー
今日はいよいよドイツへ旅立つ日だ。日本を離れるのは寂しいけど、向こうでも新しい出会いがあると信じている。左中指に填めていたリングを隣の薬指に付け替えた。「よし行くか」スーツケースを持って玄関へ向かう。「じゃあ行ってくるね」JRの駅に向かい空港行きの路線に乗る。1時間ほどして空港に着いた。時間にはまだ余裕があったのでチェックインをすませ、搭乗券を受け取る。保安検査と出国審査を受け、搭乗ゲートへと向かう。その時、遠くから僕を呼ぶ声がした。後ろを見ると響をはじめとしたクラスメイトが居た。「間に合ってよかった……これ私からのプレゼント」そうして手渡されたのは卒業式の時に撮ったツーショット写真が入った写真立てだった。
「ありがとう響」スーツケースの深めのポケットに写真立てを入れた。すると徐に響が抱きついてきた。「ドイツでも頑張ってきてね」「うん、もちろんさ」そして響たちに手を振り飛行機に乗り込んだ。スーツケースを上の棚に置いて事前に予約した席に座る。なんだかワクワクしてきた。窓の外を見ると響たちが手を振っていた。見えるように手を振り続けていると機長のアナウンスが入り、ついに動き出した。僕のドイツでのキャンパスライフの第1歩がついに動き出した。
綾瀬さんと真谷くん 完結