綾瀬さんと真谷くん64「演技指導」

今日は放課後から練習がある。
確か序盤の終わりごろからなぜか白鳥の湖と融合してたしそれについても聞いておくか。
そう思いながら講堂へ向かうとなぜか姉ちゃんがいた。
「やっほー優」
「いや、やっほーじゃねぇよ何で来たんや?」
「んー? だって私先代の演劇部の脚本係兼部長だし? 今の部長より的確なアドバイスができるかなーって思って」
いつにもまして謎な理由だ。
「というか大学どした? 静砡に行ってるんじゃないの?」
「んー? 今日は午後が休みだったからついでに母校の様子も見ておこうと思ってきたのさ」
ますます訳が分からなくなってきた。
「なんだよその理由……」
僕が呆れていると続々とクラスメイトが入ってきた。女子たちは姉ちゃんを見るなり黄色い声をあげて群がっていった。
あいかわらず人気高いなぁ。
「奏音先輩、お久しぶりです! どうしてここに来られたんですか?」
「んー? 大学は休みだし用事ついでに遊びに来たって感じかな」
「さ、お話はここまでにして劇の練習始めよっか」
「あ、少し聞きたいことがあるのですがいいですか?」
姉ちゃんのファンの一人が声をあげた。
「どしたの?」
「この台本、終盤が白鳥の湖と融合してるのはどうしてですか?」
「あー悪役がどちらも鳥だから一緒にしちゃえ! って思ってやったの……てか台本自体はこれに関しては私じゃなくて友人の作」
「そんな理由があったのですね」
「ささ、おしゃべりはここまで! 練習始めよっか」
姉ちゃんがそう声をかけると続々と舞台の方へ上がって行った。
「ほらそこ! もっとしっかり気持ち込めて! 棒読みになってるよ!」
「そこももっと繊細に!」
「後ろぉ! 声がないからって演技サボらないっ! お客は案外後ろを見るのが好きだったりするんだから!」
姉ちゃんの指導は的確で分かりやすかった。
指摘を受けたところに気をつけながら練習する。
一通り終わったところで最初から通しで練習することになった。
ナレーション担当の放送部が冒頭部分を読み上げる。
6人の妖精がやってきて、最後に魔女が
「15歳の時に紡錘に刺されて死ぬ」
と呪いをかけた。他の魔女は呪いをとくことはできなかったが、6人目の妖精リラが
「死ぬのではなく100年眠りにつくだけです」
と言った。
王様役が
「他に呪いを解く方法はないのか?」
と聞くと、やさしさの妖精が
「そう言えば隣国のお姫様は白鳥にされたとか何とかって聞いたことがあります」
と言った。
その言葉を合図に舞台が上手側が王宮、下手側がカラボスの根城のセットになった。ここからは同時並行で根城に帰ったカラボスと悩む王宮の人々の話が進む。
『はぁ……勢いで呪いかけてきちゃった。どうしよ』
「白鳥になったというお姫様はどうなった」
『まぁリラがいたし本気で死んだりはしないとは思うけど、呪いを遂行するの面倒だなぁ』
「確か呪いをかけてきた悪魔を倒して元に戻ったそうですが」
『おや烏よ、何を持ってきたんだい?』
「彼女を倒せば同じように呪いは解けるか?」
『ロッドバルトからの手紙じゃないのよ! ちょ、ちょっとどうしよ、軽率に呪いかけたの知られたら引かれる! 嫌われる! 詰んだどうしよ!』
こんな間抜けなキャラだったっけ? 悪役だよな? 改変が思ったよりひどかった。
「解けるかとは思いますが、彼女は滅多なことでは表に出てきませんし、根城の位置なんて誰も知りません。呪いを解こうにも見つからないとなればどうしようもないかと」
元気の妖精はやたらと詳しいなぁ。誰だよこの脚本書いた姉ちゃんの友達……
『え、ロッドあんた呪いかけた上に倒されてしばらくフクロウ姿で回復待ちなの? 私より間抜けじゃないのよ……』
「ならば仕方あるまい。国中から紡錘針を集めて燃やしてしまおう!」
『んもう……薬草煎じて持って行ってあげなくちゃ……人間の姿じゃ警戒心解けないだろうし、カラスに変身して行くか』
「かしこまりました、今より詔を国中に伝えて参ります!」
これで序章が終わり。いやぁ僕の出番はまだとはいえ随分大変そうでこっちまで疲れちゃったや。

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