私がオバサンになったら楽しかった
かつて「私がオバサンになっても」という歌がありました。女ざかりは19だとかいう恐ろしい歌詞を当時は疑いもしませんでしたが、19だろうとオバサンだろうとハワイに連れて行ってくれる男は未だ見付からず……いや、そんな話ではありません。
私はきっと、いま、ハワイに行くなら19の頃よりも派手な水着を着るでしょう。
先日、大泉りかさんのコラム「結局『若い女であること』は得だった?40代半ばになって思うこと」を読みました。
私も正直言って、若いころは歳を取るのが怖かった。
高校生の頃には女が30歳を過ぎても性欲があり、セックスしているなんて気持ち悪いと思ったし、自分がその年齢になった時にまだ恋愛をしているなんて想像もつかなかった。
20代になって社会に出たらそんなことを考える余裕もなく、また、いわゆる「お母さん」ではない、30代で未婚の素敵な女性も世間にはたくさんいるのだと知ることになったし、自分が30代になれば、「お母さん」だって高校生の女の子と根本的にはそうそう変わらぬ気持ちを持っていることが分かって、今や40代。私はまだまだ恋愛をして、セックスをしているではないですか。ああ、怖い。すっかり子供の頃には想像もしていなかった大人になってしまった、と内心ほくそ笑んでいます。
正直、時代の変化というのもあります。自分が学生だった25年ほど前は、まだまだ「お局様」なる言葉があり、女は結婚して子供を産んで仕事を辞めるのが当たり前でした。一般職の女性は男性社員のお嫁さん候補、などと言われることがおおっぴらにまかり通っていた時代です。
ところがあれよと言う間に日本は不景気になり、結婚してもダブルインカムが当たり前の時代に突入。どころか結婚しない男女も増え、それが原因かは分かりませんが、今の40代といえば私が子供の頃の40代とはまったく様相が変わってしまいました。
……と、思っているのは、実は40代側の人間だけで、今の私たちも10代の若者からしたらしっかりとおばさん、おじさんなのかもしれない。
そんなこともチラリと思います。私は誰がどう見ても昔の40代半ば女性と変わらぬ「おばさん」で、自分の気持ちだけが若い頃と同じで、そしてこれは今までのどの「おばさん」たちも同じだったのかもしれない、と。
さてここで本題ですが、私は実際、若いころと比べていったいどのように変化をしたのでしょうか、それは損なのか、得なのか。
実際、若いころとは明らかに劣ってきたこともあります。食欲や胃腸の強さ、機動力、容姿、肌のみずみずしさ。
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それくらいでしょうか。
実を言うと私は、子供のころから早く大人になりたいと思い続けてきました。それには家庭の事情などがいろいろあるのですが、とにかく、自立できない、なにものでもない自分が本当に嫌だった。
それが今ではどうでしょう。紆余曲折あって恐れ多くも官能小説家の末席に加えていただき、新聞やら雑誌やらに作品を掲載して貰ったり、本を出させて貰ったり。2回も結婚したので今更結婚を急かされることもなく、初めての一人暮らしを満喫中。お恥ずかしながら恋人と呼べる相手もいて、セックスだってまだまだ新しいことにチャレンジしています。
やべえ、めちゃくちゃ楽しい。
人生で今が一番楽しい。いや10年くらい前から常に「今が一番楽しい」と思い続けてきたけど、ほんとに、今が一番楽しい!!
もちろん、地位や名誉的な部分だけではありません。好きなものは誰に否定されようと好きと言えるし、苦手な人には自分から縁を切ったり誰かに因縁を付けられれば臆すことなく言い返す、いわゆる「オバサン」的な図太さもしっかり身に付いて、私はものすごく生きやすくなりました。
そうなのです。
若い頃、私は「外れること」がとても怖かった。誰かが何かを好きと言ったら私も好きと言わなければいけないと思っていたし、一人になるのが怖かった。それなのにどうしてもどこかで「外れ」てしまい、学校や会社の「輪」に入ることができなくて、昼ご飯を誰かと食べられなくなるのが何よりも怖かった。
今ではそんなこと、気にもなりません。私は、私を面白いと言ってくれる友達と一緒にいればいいのです。大人になるって本当に素晴らしい。オバサンになってその傾向がさらに強まり、誰かに嫌われてもどうでもいいや、と心底思えるメンタルを手に入れました。もちろん、嫌われない努力はしますけどね。
ああ、最高。考えれば考えるほど、年を取るのは楽しいと思えます。でもこれが誰にでも当てはまることではない、ということくらいは私にも分かるのです。
私は今まで、きっと、頑張って選択をしてきたのでしょう。
自分が本当に行きたい方向に向けて、楽ではなくても、悪く見えることでも、保証がなくても、後悔しないように道を進んできたのだと思います。そんな選択の場面のことは、今ではほとんど忘れてしまっているのですけど。
それは「嫌なことからはどんなことをしてでも逃げる」ということでもあります。
それを他人に簡単には薦められません。嫌でも我慢して得るものもあるし、したいことだけを選択したあとのことまで私には責任を取れませんから。
でもわたしは、いま、とっても楽しい。
人生のどの場面に戻りたいとも思いません。どんなに若くてピチピチの肌をしていたとしても、20歳に戻りたくないし、親に守られて夏休みを過ごす子供にだって戻りたくない。
これからもずっと、そんな風に生きていくことができたらな、と思います。最近ダイエットにも成功したので、いつかハワイに行ったあかつきには19歳でも着れなかった派手な水着を着てやろうではないですか。
終