
Photo by
kei02
夢のゆくへ
子供のころ歌手になりたかった。
きれいな服を着て、楽しそうに歌う夢見る少女に憧れた。
家族の前で、デパートの催しで、私は怖じけずに歌った。間違えても平気だった。好きだから歌った。
ピアノも弾いた。ビートルズや自作の曲を弾いた。フォークソングの最盛期だったその頃、若者は、みな歌ったり弾いたりした。
男の子たちはギターを弾いて、女の子の注目を獲得した。
教室の窓から、サッカーに夢中な男の子の背中を、もっと夢中になって、追いかける女子がいた。
スマホもインターネットもビデオさえも無かったから、読書し、交換日記やラブレターを書いた。
好きな子の読んでいる本の題名をこっそりメモして買って読んだ。
ドキドキしながら、下駄箱の中へ入れた憧れの先輩への恋文。一睡も眠れぬまま、期待と後悔がごっちゃになった心のまま登校する。勉強など、一切、頭に入らなかった一日。
振り返ると、なんて創造的な青春時代だったんだろう、と思う。
いつの頃からか、歌もピアノもそっちのけになり、自分の想いをノートに吐き出す事さえも、辞めてしまった。
歌手になれる人はほんの一握りの人だし、ピアノだって、上手じゃないことは分かってきた。
書くべき自分が、一体誰なのか分からなかったし、知るのも怖かった。
世の中から、無駄がどんどん消されていき、残ったものは、目的意識と成功願望。
成功者と落ちこぼれの間には、はっきりとした線が引かれ、線を越えることのないように、子供も老人も気をつけて生活する。
最近の子供の夢はユーチューバーになる事。好きな事して、お金を稼いで、ちょっと有名になる。
何だか悲しくなる。
子供も、夢の見方が、分からなくなった。
夢は
何処に
消えてしまったのだろうか。