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戦時のウクライナ、ひとり旅 2・キエフ、いや、「キーウ」での長い待ち時間

2023年5月、初めての国、ウクライナ。
初めての都市、キエフ。否、2022年3月にはロシアによる侵略を受けて、日本政府の発表でロシア語の名称「キエフ」を改め、ウクライナ語に基づいた名称「キーウ」となった。

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ちょっとした余談。つい昨夜、難民として母とオランダに滞在している、ハルキウ出身のウクライナ人の若い女性、マリアが訪ねてきた。私のパートナーとの打ち合わせが目的ではあったが、やはり昨年ハルキウにも行った私も小さな会話の輪に入った。彼女に「キーウ」の発音を尋ねると、カタカナに直そうとすれば「キーウ」というよりは「キーェウ」という感じだろうか。マリアと彼女の母は、ここの町のライン川に停泊するクルーズ船が2022年から難民船として使用されている船の1室に住んでいる。
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ライン川に何隻ものクルーズ船が停泊する。ウクライナ難民だけでなく、アフリカからの難民用の船も数隻ある。ドイツでは大河だが、国境を超えてオランダに流れ込むと3分岐し、細くなって見える。(c) Miyuki Okuyama

午前8時、この「キーウ」の旅客駅に私の乗ってきた夜行列車が到着した。隣りの寝台で休んでいた、脚を失った兵士、アレフが松葉杖を付きながら下車する後ろについて私もプラットフォームに降りる。前夜、ポーランド東端のプシェミシルからウクライナ国鉄に乗車して以来、初めての下車だから、ウクライナの地での第一歩となる。

爆撃のターゲットにされるのを避けるため、また電力の使用を抑えるため、キーウ駅の中は薄暗い。1920〜1930年代にかけて建てられた駅舎だが、大きなシャンデリアも灯されていない。首都の駅、平日の朝だが、人も多くはなく、ややがらんとした印象だ。英語がまったく通じない窓口に、私のために英語のできる情報デスクの女性が来てくれて、次の目的地であるハルキウ行きの列車の予約を手伝ってくれる。出発は明朝2時。わずか1日のキーウ滞在が始まる。

キーウ駅のホール (c) Miyuki Okuyama

ろくな予定もなく来てしまったウクライナ。WiFiの使えるカフェで朝食とメールチェック、携帯電話が使えるようにSIMカードを購入(よほど疲れていたのだろう、携帯電話の店にバックパックを置き忘れてしまい、間もなく後に若い店員が追いかけて届けてくれた)。さて、次は?

ドニエプル川、ウクライナ語ではドニプロ川。原子力発電所事故のあったチェルノブイリを通り、キーウを過ぎるとロシア軍が駐留する原子力発電所のあるザポリージャも通って黒海へ注ぐ2,285kmの大河だ。この川を見ようと、市内を北東へ6kmの歩き。

歩くと、その場所がよく見えるようになる。首都には当然ながら人も多く、店も開いていて、交通も多い。しかし、ここキーウは戦時のウクライナの首都なのだ、ということがありありと見えるようになってくる。

独立広場(別名マイダン広場、100名以上の犠牲者の出た2014年のマイダン革命の場所だ)には、2022年からのロシアによる攻撃で亡くなった人々一人ひとりへの小さなウクライナ国旗が備えられ、中には花やテディベア、死者の写真もある。ウクライナカラーの青と黄色の旗だけでなく、ウクライナ蜂起軍の色、赤と黒の旗も見える。

独立広場、キーウ (c) Miyuki Okuyama


金色のドームと優しい青色の壁が美しい聖ムィハイール黄金ドーム修道院の前には、ロシア軍から搾取された戦車が何台も並べられ、多くの市民がそれらを見たり写真を撮ったりしている。

聖ムィハイール黄金ドーム修道院とロシア軍の戦車。幼い少年が興奮気味にそれを見ている (c) Miyuki Okuyama
落書き風アーティストで政治活動家でもあるバンクシーの絵、すぐ脇には戦車の進行をくい止める鉄具「チェコの針鼠」 (c) Miyuki Okuyama
聖人「オリガ公妃像」には、ロシア軍からの爆撃から守るために土のうが積まれている     (c) Miyuki Okuyama
犠牲者たちの靴が並べてある (c) Miyuki Okuyama

音楽は賑やかすぎるもののWifiが使えるカフェでYahoo!ニュース記事の最後のチェックをしていると、外はもう真っ暗になった。やはり街灯の薄暗いなか、ひたすら駅まで歩く。
キーウ旅客駅の中ももちろん薄暗い。待合所のベンチはほぼうまっており、彼女たちの服装からロマらしく見える家族のとなりの空席に座って、ハルキウ行きの夜行列車を待つ。

00:45。ウォーン、ウォーン、という音が聞こえる。ロシアによる空爆の警報のサイレンだ。駅の待合室でハルキウ行きの夜行を待つ乗客たちは皆、地下のシェルターに案内され、そこで発車まで待たされる。これに驚いたり、恐れたりする人はいない。驚いてキョロキョロと周りを見わたしているのは、私ぐらいだ。乗客たちは隣人と静かな声で話したり、携帯電話を見ながら時間をつぶしている。ロシアの侵略が始まって以来、いや、マイダン革命からなのか、さらに何十年も前からなのか、彼らにとって、恐れや不安というのは、すでに出尽くしかけた感情なのかもしれない。

やはり戦争の国に来たのだな、と、ここで実感することになった。

空爆警報のあと、地下シェルターに移動させられ、発車を待つ (c) Miyuki Okuyama

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