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緊急事態に思うこと。ちょっと真面目に。

2020.5.20. 森山開次 / ダンサー・振付家

今僕は、7月に新国立劇場で予定されている『竜宮』の公演(森山が演出・振付・美術・衣裳デザインを担当するバレエ公演)の準備を毎日しているところです。公演ができることを信じて、準備をしながら、日々自分のトレーニングもしてますね。これまでは稽古場にいてもなかなかバーレッスンとかストレッチをゆっくりやる時間がなかったりしたので、そういうことをやってます。

46歳になってるんで、続けていくうえでは体を維持していかないといけないし。誤魔化しているわけじゃないけど、騙し騙しやってきた部分がどこかにあるので、体をもう一回作り直す時間がもらえたのかもしれないです。だから、有難い時間をもらってると思うようにして、自分の体を整える時間にしています。

そうはいっても、2月末から、大きなもので3つ、自分の関わる舞台が中止になりました。もちろん悔しい思いはあるけれど、受け入れられるようにはなってますね。今後のことのほうが心配はあるし、どうしていくべきなのか日々考えるようになってます。ただ今は、自分自身の核になることを確かめるような時間になればいいなと思っていて。慌てず騒がず、ダンサーなので体が動かなくなってしまうとダメだから、自分の体と向き合う時間が持てる喜びというか幸せを感じながら、前向きに生きてますよ。

こういうことになっても、実は変わっていないことのほうが多いんです。僕はいつもトレーニングをするし、家で作業をしたり、いろいろとダンスのことを考えてたりすることもそうだし。もともとあまりアクティブに行動するタイプじゃないので、外に出ないのも、人に会わないのも変わってないな。

大きく変わったと言えば、すごく初心に返ってる感じがしますね。ここ数年は、公演の機会やチャンスをたくさん与えていただいていますけど、表現する場が昔からあったわけではないから、恵まれてたんだというのを実感します。表現する場がなくて、それを求めて夢を描いていた昔とシンクロするというか。だから、公演ができなくなったりしたけど、あったものがなくなってしまったと考えるのではなくて、ないところからどうやって得ていこうかという風に考えられたらいいなと思います。

公演ができないこの期間に、友達や仲間たちは、みんなオンラインでいろんなことを挑戦しようとしてるし、いろんなやり方を模索してますよね。今やれることはやってみたらいいかなと思うけど、ただやはり生で見てもらいたいと思いますよね。この状況で挑戦できることはやっていきたいと思いますけど、やればやるほど生のものの良さを実感していくという。ありきたりですけど、そういうことですよね。

いろんなことに挑戦する機会としてはいいから、あんまり深く考えないでやってみようっていう感じのほうがいいのかもしれない。向き不向きがあるかもしれないですけど。オンラインは使いませんというのは通用しなくなってきてると思うけど、じいちゃんばあちゃんの世代は携帯も持ってませんという人もいますよね。そういう中で生きていくよさを感じていたいですね。こうやってzoomで取材をしてることもね、悪くないなと思う今日この頃です(笑)。僕の背景、屏風が映ってますか?(背景に『風神雷神図屛風』をチョイス)楽しんでやったらいいかなと思います、こういうオンラインゲームを。

自粛期間の間に、何かこれまでと違うことをやりたいとは思ってたんですよ。でも、やることと言えば、トレーニングすること、少しでもダンスを上手くなりたいと思ってやってること、公演の準備でパソコンに向かったり、小道具を作ったりしてること、ずっと変わらない。何か違うことをやってみたらとは思うけど、どうしても動いちゃって、意外と忙しくて。そういうのが好きなんでしょうね。毎日何かやってます。でもね、家の絨毯を取り替えたりはしてね(笑)。もっと有意義なことを見つけろよって思ったりしてます。東京はもう少し非常事態宣言が続きそうだから、その間に何かやりたいなと思います。

今は先のことはわからないので、公演ができる望みがある以上は、『竜宮』の公演のための準備を粛々としていこうと思います。僕たちの判断ではどうにもならないことばかりですけど、可能性がある限りは自分ができることをやりたいし、準備を続けるだけだと思ってます。

                        Photo : Sadato Ishizuka

編集長の日記
仕事で電車に乗って出かけましたが、世の中はかなり緊急事態ムードが薄れているように感じました。緩みだとも思いませんが、結局どの程度気をつければいいのか、どこまでなら行動していいのか、正しく判断するのは難しいのだと思います。
どのお店も、レジ前のビニールシートや、ひとつ置きの椅子など、確実に対処法が実践されるようになってきていて、舞台芸術はどうすればいいんだろう、どうなるんだろうと思うばかりです。この企画で、アーティストの皆さんにオンラインとどう向き合うかを聞いているのは、私自身がオンラインが好きではないからかもしれません。毎日オンライン取材をしていますが、早く対面でお話を聞きたいと強く願っています。


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アプレゲール
インタビューという形を通して、アーティストがSNSなどで直接届ける言葉には乗らない“何か”を届けられたらと、コツコツがんばっています。その“何か”を受け取れた、と感じてくださったらぜひサポートをお願いします。大きな大きな励みになります。