「私のひかり 誰かのひかり」
「ひかりちゃん、今日もかわいいなあ。」
推しのひかりちゃんのインスタライブを見ながら、無意識につぶやく。
「ひかり、最近、献血行ってきたんだけどね、体重が足りないから献血できませんって言われたの。ずっと行けてないなって思ってたから、久々に行ってみたんだけどねー」
ひかりちゃんは、メンバーの中でも華奢なタイプ。でも細すぎ!って言われるほどじゃない。ただ、会ったら細くて、消えてなくなっちゃいそうだといつも思う。まあ、そりゃ、そうだろうな。
「『献血行こうとしただけでえらいよ』」
なんて、声にしながらコメントを送ってみた。読まれないかな。
ひかりちゃんは、ブログでも時々献血の話をしてる。メンバーカラーも鮮血の赤って言ってて、ファンもチーム献血。
ここまで献血と言われると、自分も…とはならなくて、実は献血をしたことがない。
私がひかりちゃんに出会ったのは、高校3年の春だった。何気なく観ていたテレビに映る、キラキラした存在。雷に打たれたような衝撃とはこのこと。一目惚れだった。グループは話題になってたし、名前は聞いたことあったけど、こんなにかわいい子がいるとは……。
自分が惑星なら、ひかりちゃんはユニバースだった。ひとまず、ひかりちゃんに会うことを目標に受験勉強をした。大学受験は第一志望の国公立に合格し、無事に大学生になった。ライブも、リリイベも、ミーグリも、なんだかんだ色々と参戦し、ひかりちゃんと定期的に会えるようになった。そうこうして、かれこれ3年生。無事に単位も落としてないし、恋人もできた。ひかりちゃん抜きにしても、それなりに楽しく過ごしている。まあ、ひかりちゃんありきの生活だけど。
夏休みに入り、2週目。ギラギラの太陽に体力が蝕まれながらも、なんとかレポートやテストが落ち着いた。そして、今日から3日間、恋人と仙台に旅行する。仙台ではひかりちゃんのリリイベとライブに行くことと、牛タンを食べること、恋人の誕生日を祝うこと以外決まっていない。まあ、旅行といいつつ、遠征だ。とりあえず歩き回るしかないよなあ。
仙台に着いて、まずライブの物販に行った。
「空港なんもなかったね。帰りはお土産にお菓子いっぱい買おうよ。」
そう言いながら、花が咲くように笑う恋人がなんだかいつも以上に愛おしく思う。恋人の誕生日だからだろうか。それとも、旅行に浮かれて夢見心地なのだろうか。
それとなく商店街を通り過ぎる中に献血センターを見つけた。自分がどんな時でも『献血』に反応してしまうことが誇らしいような、恥ずかしいような気持ちになる。
会場の先行物販が終わり、なにか食べようと、二人で商店街に戻る。
「ね、献血センターあるよ。行ってみる?」
恋人にそう言われて、ひかりちゃんに会う前にいい機会かもなと、乗り気になってきた。
「行ってみちゃうか。」
と、軽く返して献血センターに入る。内心ドキドキしている。
「こんにちはー。予約はしてますか?」
「いえ。」
「献血初めて……ですかね?」
「はい。」
「それでは、まずこちらで血圧と体重を量ってお待ちください。」
受付を終えたおじさんは、すたすたと去り、既に血圧や体重を量り終えた人と話し始めた。
「長谷川さん、これで1400回目ですって」
「そうみたいですねえ」
「こんなに献血してくれるの、長谷川さんくらいですよー」
「いやあ、18から献血してるだけですよ」
(え。1400回? そんなに献血ってできるのか……?)
隣にいるおじいさんを見ながら、献血ルームを見渡しながら、少し考える。
「献血のこと、今までひかりちゃんからあれだけ聞いてたのに、なんで来なかったんだろうなあ。もしかしてひかりちゃんから話題に出る度にでも献血してたら、その分救えたものがあるかもしれないってことだよなあ。」
血圧を測りながら、何気なく呟く。
「そうかもねえ、でも、今からするんだよ献血、それでいいじゃん。」
恋人はそう言って、血圧計を外した。そうだよね、それでいい。
そのあと、恋人は指にけががあるから血液検査が出来なかった。自分も、血を抜いたら、一定時間休まなきゃいけないことや、ライブは十分激しい運動になりうることも考えてやめることにした。結局、二人とも献血はしなかった。ただ、献血カードを作って、ゆっくり飲み物とお菓子をいただいただけになった。
「けんけつちゃんの好きな言葉きもくない?」
「たしかに、なにこれ。」
二人でけんけつちゃんの掲示物を眺めながら笑った。ただただ、献血ルームでゆっくり過ごした。恋人はこれで誕生日が過ぎていくのを気にしていないように見えた。
献血ルームから出る時、入り口近くの椅子にはさっきのおじいさんがいた。
(この人は沢山の人を助けてるのに、自分は何しに来たんだ……)
少し反省しながら、ライブ会場に向かった。
今日もひかりちゃんは可愛いな。SHOWROOMを見ながら思う。
「ひかりさ、この前久々に献血に行ったんだけどねー」
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大学のゼミで書いた短編です^_^
加筆修正してみたので、ここで消化。
解説は需要があれば次に投稿します。
感想貰えたら喜びます。
是非お願いします。
またね:)