妄想劇場 36話
第36話「心の傷跡」
「豊は…そんな時…岸部から話を持ちかけられたんだ…
小日向が隠した証拠を探すように…その見返りが…マリの…マリの手術費用だったんだ…」
心臓の手術には、大金が必要だった為、言われるがまま岸部の誘いに乗った…
それが全てのようだ。
「俺があの時…あいつを裏切らなければ…あいつは…あいつは死なずにすんだんだ…
全部何もかも…俺のせいだ…ミユキ…俺の…」
力なく松重がうなだれた。
「豊は、小日向の証拠を探していた。ある日それに小日向が気付いてしまった。そこで2人は激しく口論になってしまった。」
奥田は息を吐き出し話を続けた。
「怒った小日向が会社を飛び出し、岸部のとこに向かったんだ。そんな時、豊に1本のTELがかかってきた。岸部からだった。」
顔を上げ、今度は松重が話を続けた。
「俺はTELに出た。竹内からだった。小日向の車に仕掛けをした…と。だから、その場からお前は逃げろと…」
更に話を続けた。
「俺はあいつに、小日向にTELした。今すぐ車から降りるようにと。あいつの身に起こる危険について話をした。だけど…だけどあいつは聞き入れてくれなかった…
そらそうだよな。こんなやつの話、真剣に聞ける訳ないよな…」
悲しそうに呟いた。
「おれは慌てて、あいつの車を探した。きっと、岸部のとこだって…そう思ってな。あいつの車を見付けた…そんな時だった。」
目の前で小日向の車が大破した事を、松重は話した。
「俺が…俺が…あいつを裏切らなければ…あいつは…あいつは…死なずにすんだんだ…俺の…俺の…せいで…」
松重は嗚咽しながら続けた。
「ミユキ君、豊はずっとこの事に苦しんでいたんだ。自分が手を下してないとはいえ、小日向を裏切ったのは真実だからね…
君から、本当の父親を…本当の両親を奪ったのは自分だと…こいつは苦しんで苦しんで…何度も死のうとしたんだ…」
そう言って、松重の左腕を掴んでミユキに見せた。
「君に気付かれないようにしていたはずだが…これは…こいつが何度も死のうとした…その時に付いた傷なんだ…」
松重の左腕には、無数の傷跡があった。
その傷を見たミユキは、声を出して泣き叫んだ。
脚本家カザハナ