コーヒーブレイク
吉留憂さんのYouTube朝ドラに寄稿したシナリオです。
人 物
小柳紬(19)大学生
成瀬陽菜子(33)紬の従姉妹(美智子の姉の娘)
小柳美智子 紬の母(声のみ)
○陽菜子の家・リビング(朝)
小柳紬(19)と成瀬陽菜子(33)が、リビングで向かい合いコーヒーを飲んでいる。
陽菜子「キエムとタムがさ、だいぶ慣れてきたんじゃないかって。2人とも助かってるってさ」
紬「ホントに!? 役に立ててるなら嬉しい。でも、もうここに来て半月かー。あー帰りたくない」
陽菜子「なーに言ってんの。まだ半分あるじゃない」
陽菜子、大きく口を開けてカラカラと快活に笑う。
紬「だって、二週間がこんなに早いんだよ。残りもあっという間だよ」
陽菜子のスマートフォンの着信音が鳴る。
陽菜子「もぉー。こんな朝っぱらから。ま、どーせ美智子おばさんね」
陽菜子、スマートフォンをとる。
美智子の声「もしもし、あたし」
陽菜子「(苦笑しながら)わかってるって」
美智子の声「紬の様子はどう?」
陽菜子「昨日と変わらず。元気よ。時間がたつのが早いって、まだ帰りたくないってさ。気が早いんだから」
美智子の声「そう。よかったわ。随分楽しんでるみたいね。じゃ」
陽菜子「紬と代わらなくていいの?」
美智子の声「これから、打ち合わせなのよ。また夜にでも電話するわ」
陽菜子「相変わらず、慌ただしい人ね。あんたのママは」
紬「それにしたって、忙しいなら毎日かけてこなくてもいいのに」
陽菜子「心配なのよ。こんなに離れてるのって初めてでしょ?」
紬「そりゃそうだけど。家にいたって変わんないよ。ママ、いっつも飛び回ってるもん」
再度、陽菜子のスマートフォンの着信音が鳴る。
陽菜子、ベトナム語で何やら喋りながら画面から消えていく
✖️✖️✖️
紬、はぁーーーーと大きなため息をつく。
陽菜子「どしたー?」
リビングに戻ってきた陽菜子、紬と自分のカップにコーヒーのおかわりを注ぐ。
紬「私もベトナム語喋れたらなぁ」
陽菜子「あたしもこっちに来た時はぜーんぜん喋れなかったよ。でも10年近くも住んでりゃね」
紬「ウッソ! すっごい行動力! 言葉もわからない国で珈琲農園まで開いちゃうなんて。私、一人じゃなんにもできないもん」
陽菜子「あんただって行動力あるじゃない」
紬「私が?」
陽菜子「大学生が一人でベトナムに来て農園の手伝いしようなんて。なかなかできることじゃないよ」
紬「そうかな? でも陽菜子ねぇもママも凄いもん。それに比べたら私なんて。あー、なんで私ママに似なかったんだろ」
陽菜子「そりゃね。あんたのママは凄い。あたしも憧れたなー。うちの母さんおっとりしてるじゃない? 美智子おばさん、母さんより7つも下なのに母さんよりずっとしっかりしててさ(笑)」
紬「私は幸子おばさん好きよ。でも姉妹なのにママとは正反対。ママって昔からああなの?」
陽菜子「そうよー。昔っから。人に喜んでもらうのが好きで。正義感が強くて。沢山の人助けたいからって弁護士になって」
紬「ホントだ。変わんないね。いつも人のために動き回ってるもん。娘としては誇らしいけど。小さい頃はやっぱりちょっと寂しかった……」
陽菜子「紬はさ、キエムとタムの力になれて嬉しいんでしょ?」
紬「うん。私でも役にたてるんだなって」
紬、照れ臭そうな笑顔。
陽菜子「そーゆうとこっ」
陽菜子もニカっと笑みを見せる。
紬「ん?」
紬、きょとんとした表情。
陽菜子「人に喜んでもらうために、一生懸命になれるとこ、美智子おばさんにそっくりだと思うけどな」
紬「そう……かな? 似てるかな」
陽菜子「それに、紬には紬の良さがある」
紬、勢いよく立ち上がりる。
紬「よっしゃ!今日も頑張るっ!」
紬、太陽のような笑顔。
○同・リビング(夜) 2週間後
紬と陽菜子がリビングで向かい合いコーヒーを飲んでいる。
紬「あーあ。ホントにあっという間だった。明日かぁ。帰りたくないなぁ」
陽菜子「また来ればいいじゃない」
紬「私もここに住めたらいいのに」
陽菜子「だったら、そうすればいいじゃない」
紬「え?」
紬、思いもかけぬ言葉に驚き、陽菜子を見つめる。
陽菜子「すぐにってわけじゃないわよ。大学卒業して、大人になった時、あんたがまだここで暮らしたいって気持ちがあれば、またくればいい」
紬「私なんかに……できるかな?」
陽菜子「できるって何が?」
陽菜子、問いかけるように微笑む。
陽菜子「確かにね、海外で暮らすって楽しいことだけじゃないよ。でも特別なことでもない。ここにあるのは、普通の暮らし……。ね、紬はさ、きっちり1ヶ月、ここで働いたじゃない。胸張んなさいよ」
陽菜子、紬の頭をぐしゃっと撫でる。
紬「普通の暮らし? ねぇ、陽菜子ねぇは、どうしてベトナムに住もうって思ったの?」
陽菜子「たまたまカフェで飲んだベトナムコーヒーが美味しかったからよ」
紬「そっか! そんなことだったんだ! 私もベトナムコーヒー大好き!」
紬、パッと顔を輝かせる。
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