子育て給付金の所得制限について
2月9日の臨時会でお認めいただいた通り、国の「子育て世帯臨時特別応援給付金」事業に関し、所得制限のせいで給付を受けられない世帯に対し町が独自に同額の給付金を出すこととなりました。対象となるお子さんは135人です。
今回の給付金を誰のものとするかにはそれぞれの家庭の事情があるとは思いますが、私としては、お子さん本人に出すものだと考えています。だとするならば、保護者の所得がいくらなのかによって区別することは妥当ではありません。国の決定には強い違和感を持っています。
また、仮に保護者の所得で何らかのルールを決めるとして、例えば、住民税非課税世帯とか、もう少し上げても住民税所得割非課税世帯とか、かなり低いラインで、生活困窮者のために実施する事業だと考えるなら、政策目的が絞り込めているのでいいと思うんです。ですが、おおむね年収900万円台とある程度高いところで線を引くことで、累進課税で高い税率を払ってくれている世帯を狙い撃ちする形となってしまい、納税意欲の減退などさまざまな副作用が考えられます。また、制度設計が雑なので、ダブルインカムで世帯収入の高いお宅のお子さんには問題なく支給されるという妙なことも起きています。これではいけません。
ご賢察いただける皆様にはある程度お分かりいただけるかと思いますが、国が認めていない所得制限外のかたにもお金を給付することを、自治体がやることのリスクは決して小さくありません。自治体の限られた財源を(相対的に)高所得の世帯に回すことについて、今後多くの反対意見が役場に寄せられるのではないかと今から心配です。
いま、国内に悪平等的な価値観が蔓延しているように思えてなりません。私が一昨年の7月、選挙公約通りに町内小中学校の給食費を無償化したとき、保護者の皆さんにメッセージを出したのですが、その時も、ご批判をちょうだいしました。私はメッセージの中で次のように書きました。
(前略)
町としましては、給食費無償化は年間を通じると6千万円余りもの支出となります。給食費を無償とすることで、お子さんのいるご家庭では家計に余裕が生まれることとなります。新型コロナで傷んだ家計を立て直すべきご家庭は是非そのようにしていただきたいと思います。一方で、新型コロナによる経済情勢の変化の影響をほとんど受けないご家庭も実は多くあるかと思います。そのようなご家庭におかれましては、今回の給食費無償化で生まれた家計の余裕を、是非ともお子さんたちの未来に投じていただきたい。本を買ったり、民間の教育機関に通ったり、見聞を広めに遠出したりと、方法はいろいろでしょう。子どもたちへの投資は、本人のみならず、社会全体のためにもなり、その効果は投資の何十倍、何百倍もになって返ってきます。今回の取り組みは大きな予算を伴いますが、結果的に町民全体に十分お返しができるものと確信しております。
(後略)
ご批判の内容は簡単に言うと、「町長は所得の低い人間をバカにしているのか」というものでした。上記を冷静に読んでいただけるとそのような意図はないと大半のかたにはお分かりいただけるとは思うのですが…。私は、高齢者への給付だけ分厚くなってしまっている各自治体の現状において、子育て世代に予算のほんの一部を使うだけでも、ご批判をちょうだいしてしまうだろうと十分懸念されることから、丁寧な説明が必要であると考えておりました。給食の無償化に伴う「浮いたお金」を、眉をひそめるような使い方にされてしまうと町民感情が悪化してしまう。せめて保護者の皆さんにメッセージを打つことで、子育て世代への人気取りではなく、町の未来への投資であることを保護者の皆さんが理解してください、とお訴えしたかったのです。
大半の保護者の皆さんはご理解いただいたと思いますし、素敵なメッセージだった、とTwitter等でわざわざ紹介してくださった保護者もいらっしゃいました。しかしながら、役場に直接届く声は、前述のような強いクレームなのです。これまでもあらゆる部署の意欲のある職員がやる気をなくし、事なかれ主義に陥ってしまうケースをよく見てきたのですが、その一端に、極端な考えの方のクレームに精神的に参ってしまう、ということがあまりに多いようにも思っています。それでは意欲的に仕事をする役場づくりとはかけ離れたものとなってしまいます。
話が少しずれましたが、家計がうまくいっていないとして、所得の高い人も一緒の境遇になってほしいと願うようでは町の将来も国の将来もありません。福祉の維持、充実にかかるお金もすべて税金がもととなっています。担税力のあるかたにしっかり税金を納めていただき、お困りのかたには税金でできるだけセーフティーネットを設け、サポートする、これが基本だと思います。ですが、えてして、税金を払っていただけないとそれが実現できない、というところが抜け落ちた議論になりがちです。多く税金を納めていただいている方を変に優遇するつもりはありませんが、「多く税金を納めていただいてありがとうございます」という言葉もまっすぐにはお伝えしにくいのが今の自治体を取り巻く環境なのです。私は一言でも、ありがとうございますを素直に伝えられる世の中の方が正常だと感じていますが、これをお読みの皆さんはどう感じられますか。
今回の事業は、国への問題提起であるとともに、平等とは何か、行政による給付はどうあるべきかといったいくつかの論点を含んでいると思います。皆さんが今後、国政や地方自治について考えるきっかけとなったなら幸いです。
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