誰とも分け合わない
「cry」という曲が大好きだ。
青春時代の瑞々しさと痛々しさ。誰もが経験したであろう眩い季節。
恋に悩むものの恋を捨てられない…「cry」の主人公は「SCENE」シリーズでセルフカバーされた、他の多くの女性主人公の曲とは異質だ。
別れに胸を痛めながらも、本心を隠して泣き寝入りするのではなく、同じ痛みを相手にも与え、心のままに泣く。男性と対等である等身大の女性像。
「SCENE」シリーズの女性達が昭和の女性の象徴なら、「cry」の主人公は現代的な女性の象徴なのかもしれない。
私がこの曲で一番好きなフレーズが、
「この日この時の気持ち 誰とも分け合わないでどんなだったか覚えておこう」
という箇所だ。
「誰とも分け合わない」
これはSNSが普及している今の時代とは真逆のものだ。
こうして気持ちを文章にしてSNSで公開している時点で「分け合」っているわけだから、矛盾しているのだけど…
現実での私は、分け合うことが苦手だ。
好きなものを口にすることは、何故か照れくさく感じる。
大切なものは宝箱にしまって、一人の時にそれをそっと開く──それは悲しいことがあれば慰め、楽しいことがあれば共に喜んでくれる、自分だけの宝物。
また、大切な気持ちというのは、他の人と分け合うと薄れてしまう気がする。風に晒され風化してしまうような。
「言葉は心を超えない」、だから安易に言葉にしては、大切な気持ちが安っぽく見えてしまうだろう。
この曲はそんな「分け合う」ことが苦手な自分を肯定してくれる。
誰とも分け合わず、泣きながら、自分自身を傷付けるようにその恋を心に刻んでいく。
自分の痛みは自分にしか知りえない。
「cry」の主人公はそれに気付き、大っぴらに心の内を見せ合う少女の季節を抜け出して、大人の女性になっていくのだと思う。
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