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ともぐい
去年の1月に直木賞を受賞した河崎秋子さんの「ともぐい」の感想です。(ネタバレありです、というかほとんどあらすじを、書きます。知って欲しいので。)
そんじょそこらのノンフィクションより衝撃でした。
ストーリーは、明治後期の道東の山で猟をして暮らす、熊爪という野生の男の一人称で進みます。
この男、育ちがまず得体の知れない猟師の養子の元で、ほとんど熊の子のように育てららます。なので、人間の倫理や道理がよくわからないのですね。
自分の本能のままに生きています。歳は推定35.6かな。
筋肉質で、髪は伸び放題のを束ねてる。髭ぼうぼう。
当然、臭い。犬は、相棒。
生きる糧を得るために、たまに里に降りて熊の皮や胆嚢などを売って米や酒を仕入れて、あとは山で食べる分の肉を備蓄したり山菜を加工したりして生きています。
人間より獣に近いので、獣の気持ちはよくわかります。
親愛という意味ではなく共感してるのです。
ある日、阿寒の青年が、穴持たず、という冬眠を逸してしまった熊を追い立てて熊爪の山まで来てしまいました。
その青年が熊にやられていたのを助けます。ただしそれは青年の命を助けたいのではなく、そのままにしておくと熊が味をしめてこの辺を荒らすだろうから、面倒くさくて助けたのです。
青年は右目を爪でやられていました。半分飛び出た右の目玉を、熊爪は口で吸い付き吐き出しました。残っていた神経や血管なんかもキレイに吸い出して、くっついてる組織は噛みちぎり吐き出しました。
そして川で洗ったてぬぐいで目のあったところを強引に拭き取りました。
青年は泣きわめいて痛がったけれど、痛いならいい、て具合で容赦なく手当てしました。
その後その青年を里に連れて行き、熊の毛などを取り引きしているお屋敷に委ねます。
そのお屋敷に、陽子(はるこ)という盲目の少女がいました。
親方様が預かっている少女らしいのですが、熊爪は特に何も思いません。ずいぶん白くて細い女だ、と思うだけです。
その後熊爪は、どうしても穴持たずを仕留めなければという思いで、追います。
結局穴持たずは別の赤毛の、将来この山のボスになるであろう赤毛の熊に殺されます。
それを見ていた熊爪は、自分が出る場面ではない。これはあいつらの戦いだ、と傍観していたのですが結局巻き込まれて腰の骨を折ってしまいます。
色々ありまして、お屋敷の人に看病してもらいやっと杖をついて歩けるようになった熊爪。
そこから、少しずつ絶望感にさいなされます。
そして赤毛を倒そうとしたり色々あるのですが、つまり…寂しくなっちゃったんでしょうね。
ある日、お屋敷に行って陽子をもらっていく、と宣言。
あったかいから、という理由で。
陽子は親方様の子供を孕ってたのだけど、どうでもええ、と。
山に連れ帰って生活が始まる。
養父以外人間と暮らした事のない熊爪は戸惑う。
が、特に陽子に対して愛情が沸く訳でもなく、ただ知らない事ばかりなので、とりあえずいう事をきく。
突っ込ませろ、と言うと、赤子が降りてくるからダメ。と言うのをそういうもんか。と引き下がる。今のところは。
とうとう産まれるとき、陽子は1人で全てやった。
あまりに弱い赤子を見て、熊爪は、自分もそんなふうに生きてきたとはどうしてと思えない。
陽子は言う。
みんな同じ。私もあんたも、誰かが乳をやり、放置しなかったから今生きてる。と。
陽子は実の父に、毛が生えそろった頃から全身を舐められており、それを見た母が逆上して陽子の目に蝋を垂らした。
それでその後弟達を連れて海に入った。父もその後自死した。
平和な時が1年ほど過ぎた。
熊爪は陽子に身体を許されて、本能のままに抱いた。
すぐに2人目ができた。
しかし熊爪はなんとも思わない。わからないのだ。自分の子が生まれる喜びが。
ただ、子を作る行為が大事なのだ。熊と同じ。
熊は、雌とまぐわう邪魔になるから小熊を殺す。自分の子でも。
ある夜。無理やりに妊娠してる陽子を犯す。
その後目が覚めたら身体が動かない。そして首筋に刀
。
陽子が馬乗りになっている。
毒も盛られたようだ。
陽子は、もうあんた、いらないってわかってるよね?
あんたは殺されなきゃ死ねないでしょ?と。
熊爪は、深く納得して、陽子に刀の角度を教える。
と、ここからも色んな話があるのですが、こういう、本です。
ただ内容を書き連ねただけで書評でもなんでもないのですが、衝撃を受けて書きたくなってしまったので書きました。
ぜひ本書を読んで細かい機微。迫力。女の生きていく強さ。男の貫いた生き方。市政の人々の逞しさとやるせなさ。
味わって欲しいです。