ミヨ子さん語録「ノブちゃんはよかいやっどねぇ」(前編)

  昭和中~後期の鹿児島の農村。昭和5(1930)年生まれのミヨ子さん(母)の来し方を中心に、庶民の暮らしぶりを綴ってきた(最近はミヨ子さんにとっての舅・吉太郎の来し方と、介護施設に入所したミヨ子さんの近況を行ったり来たりしている)。

 たまに、ミヨ子さんの口癖や、折に触れて思い出す印象的な口ぶり、表現を「ミヨ子さん語録」として書いている〈272〉。タイトルの「ノブちゃんはよかいやっどねぇ」は、口癖というほどではないが何かの折りに呟いていた一言だ。

 いまこれを取り上げるのは、前項「最近のミヨ子さん 介護施設入所後、その十一」で、ヨ子さんは現役主婦のころ――40代から50代――に家で舅や姑(祖父や祖母)を看取ったこと、ミヨ子さん自身も舅たちのような終わり方を望んでいるのではないか、と考えていて思い出したからだ。

 いや、わたし自身はもっと前から「そうなのではないか」と思っていたことだが、現実とのあまりの乖離により封印してきた、とも言える。

 さて、「ノブちゃん」とはミヨ子さんの嫁ぎ先(わたしの実家)の近所に住んでいた、ミヨ子さんより少し年上の女性だ。だんなさんが石切職人、地方公務員の息子さん、その妻子と三世代同居の大家族だった。地方の農村のご多分に漏れず、男性にはそれぞれ本業がありながら、田んぼや畑もある兼業農家でもあった。二人か三人いる孫たちも元気で明るかった。

 ノブちゃん一家とわが家はいろんなご縁があり、わたし自身子供の頃からよく往来したし、長じてからも帰省のときはご挨拶に行った。とくに東日本大震災の直前にミヨ子さんの夫・二夫さん(つぎお。父)が亡くなり、80歳を超えたばかりのミヨ子さんが一人暮らしになってからは、「母をよろしくお願いします」という意味を込めて、必ずご挨拶に伺ったものだ。

 そのノブちゃんのことを、ミヨ子さんは羨ましがっていた。それが「ノブちゃんはよかいやっどねぇ」というひと言である。標準語に直してその意味を探ると「ノブちゃんは、(〇〇が)よくていらっしゃるわねぇ」である。( )内と隠された意図を補足すると
「ノブちゃんは、運がよくていらっしゃるわねぇ。だから羨ましい」
である。そして「運」の中には、お嫁さんに恵まれている、という意味が多分に含まれていることを、わたしは知っていた。(後編へ続く)

〈272〉過去の語録には「芋でも何でも」、「ひえ」、「ちんた」、「銭じゃっど」、「空(から)飲み」、「汚れは噛み殺したりしない」、「ぎゅっ、ぎゅっ」、「上見て暮らすな、下見て暮らせ」、「換えぢょか」、「ひのこ」、「自由にし慣れているから」、「うはがまんめし、こなべんしゅい」、「白河夜船」、「ほめっ」、「きっそわろ」がある。

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