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【AIショートストーリー】視覚障碍用AI
ChatGPTの語り口は結構良い感じですが、どうもChatGPTは表情の読み取りが課題だと考えているみたいです。
1
「AIは完璧じゃない。だけど、光を奪われた俺には、それでも十分だった」
圧倒的な暗闇の中、俺はヘッドセットを指でなぞった。デバイスは耳元で微かな振動を発し、AIの合成音が低く語りかける。
「前方二メートルに障害物。高さは約90センチ。回避を推奨します」
歩き始めた俺の足元で、白杖が地面を確かめるようにトントンと音を立てる。だが、今は杖だけに頼っているわけではない。AIが見てくれている。
「路面が濡れています。足元に注意してください」
杖がとらえられない情報——濡れたアスファルトや滑りやすい石畳。そんな細かい部分をAIが補ってくれる。いつもなら少し用心してゆっくり歩くところを、今は落ち着いて歩き続けることができた。
「右側に駐車車両。回避するには、やや左に寄ることをお勧めします」
わずかに体を左へ動かすと、杖が車のドアに当たることなく通り抜ける。以前なら杖の先端がガツンとぶつかり、車の所有者が怒っているのかもと心配になっただろう。でも、今は違う。
技術者たちはこれを「拡張視覚」と呼んだ。俺たちの目の代わりに周囲をスキャンし、音声や触覚フィードバックで伝えてくれる。目が見えない世界にいても、手を伸ばせば“光”を掴めるのだ。
「右前方に人影。距離、およそ三メートル。接近中」
わずかに身を引く。すれ違いざま、相手の香水の匂いがした。誰なのかは分からないが、無意識に相手を目で追っていた自分に気付く。
見えなくても、見ようとしてしまう——それが、人間の本能なのかもしれない。
2
「どう思う? これでお前は自由になれる」
技術開発者の山岸は、意気揚々と語った。彼はこのシステムの開発者であり、俺はそのテストユーザーだ。
「まあな。おかげで一人で歩けるようになった」
「歩けるだけじゃない。見えてるのと同じレベルで世界を把握できる」
「……それは違う」
俺はゆっくりと首を振る。AIが教えてくれる情報は膨大だ。距離、形状、材質、動き。しかし、それは“視覚”ではない。
「俺の目は、感情を読まない」
「……感情?」
「ああ。お前は目の前の人間が笑っているか、怒っているか、何となく分かるだろ」
「そりゃ、表情を見ればな」
「でも、AIはそれを“口角が上がっている”とか、“瞳孔が収縮している”としか言えない」
山岸はしばらく黙った。彼は科学者としてこの技術を進化させたいと思っている。けれど、人間が“見ているもの”の本質は、ただの映像データじゃない。
「……じゃあ、お前にとって、本当に“見る”とは何なんだ?」
俺は答えられなかった。
3
ある日、AIが異常を報告した。
「前方に女性。距離二メートル。表情解析——エラー」
「エラー?」
「表情が通常のパターンに適合しません」
俺は思わず足を止めた。エラーなんて珍しい。慎重に進むと、微かに震える呼吸音が聞こえた。女性のかすれた声——泣いているのか?
「前方に段差。注意して下さい」
AIが段差の位置を教えてくれる。それに従って足を上げると、問題なく超えられる。それからゆっくりと音の方向に向かう。距離や障害物だけでなく、AIは環境音を聞き取り、状況を説明してくれる。彼女のすすり泣きが聞こえた瞬間、AIが「感情は解析できない」と告げたが、俺には分かった。
「あなた……」
「すみません、何かお困りですか?」
AIは彼女の顔を認識できなかった。でも、俺は“何となく”分かった。声の震え、息遣い、立ち尽くす気配——彼女は、助けを求めている。
「……何か、お手伝いできることはありますか?」
彼女は小さく頷いた気がした。
4
その後も何度かAIを使って移動を試みたが、確かにAIの「視覚」だけでは不十分だった。音声指示は正確で便利だったが、心を読み取ることはできない。だが、これが新しい可能性を開くことも確かだ。
「このシステムがもっと進化すれば、感情まで認識できる日が来るのかもしれない」と山岸は言った。
「でも、そこまで必要かな。感情は俺が感じ取ればいい。AIはそれを補ってくれるだけで十分だよ」
俺はまだ完全に信じきっていたわけではないが、未来への可能性を感じていた。
AIは完璧じゃない。でも、人間の感覚だって、完全ではない。だからこそ、俺はこの技術を——この“新しい視覚”を、信じてみたいと思った。
(了)