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【AI小説断章】疑問

巨大なホールは熱気に包まれていた。壇上にはスクリーンがあり、そこにはカリスマ指導者の姿が映し出されている。柔らかな笑みを浮かべながら、彼は静かに語り始めた。声は確かに彼そのもので、会場に響くその語り口には威厳と深い洞察が満ちていた。

「我々が未来を創るのだ。この国を、そして世界を、一つにするために」

会場は喝采で揺れ動く。拍手、歓声、涙する者。観客たちはその言葉に酔いしれ、彼がまだそこにいるかのように信じて疑わなかった。

だが、最後列に座っていた若いジャーナリストの女性は、手帳を閉じながら眉をひそめた。その言葉の一節が胸に引っかかる。

「…一つにするために?」

彼は生前、「多様性」を重んじる思想家だった。その言葉遣い、言い回し、そしてその語る内容が、どこか「彼らしくない」と感じたのだ。だが、それを指摘する者は誰もいない。

壇上のスクリーンに映る彼の姿が、穏やかな笑みを浮かべながら消え、ホールに拍手が降り注ぐ。
その中で彼女はただ一人、手帳に小さく書き込む。
「本当に彼なのか?」

ホールの照明が落とされ、観客が帰り始める中、彼女は自分の周りを見渡した。最後列の席。背後には誰もいないはずだった。だが、微かな気配を感じる。

振り返った瞬間、彼女の背筋が凍る。そこには確かに「誰もいない」。だが、耳元に囁くような声が聞こえた気がした。

「……疑問を抱くな」

振り向き続ける彼女の瞳に、消えたはずのスクリーンが小さく光り始めていた。

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