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【AI小説】アクセス0

今日現在ビュー回数が10の記事を元にしてo1に展開してもらったものです。
元のはChatGPTが文学的な終わらせ方にしてくれましたが、こちらはシリアス調の陰謀物の小説です。
o1が書いたのは言うまでもなく作り話なので本気にはしないでください。

本文は基本的にo1が生成したもののままです。


序章:沈黙の投稿

 投稿してから数日が経過した。スマートフォンの画面を開くたび、視聴数の表示は「0」のままだ。アクセス解析のページを見ても、訪問者の記録は皆無。まるで私の投稿が、深いデジタルの闇に沈みこんでしまったかのようだった。
 こんなことがあるだろうか。どんなにマイナーな話題や文章であっても、ブログやSNSに何かを上げれば、スパム的なアクセスや検索クローラーの巡回くらいは来そうなものだ。しかし、反応はまったくない。ノイズすら感じない、完全なる静寂がそこにはあった。
 不可解だ。人目につかない、と言い切るには奇妙すぎる。私はおそるおそるアクセス解析のページをリロードする。だが何度更新しても、訪問者数は「0」から微動だにしない。無視されているというより、そもそも私の投稿が、このネットの世界のどこにも表示されていないかのようだ。
「まさか、裏で何か操作されている…?」
 誰かが意図的に検索結果から私の投稿を消し去り、他人の目に触れないようにしているのではないか。妄想めいた推測が頭をもたげる。しかし、その“誰か”とはいったい何者なのか。一般人の私が書いた文章に、そこまで強力な検閲をかけるほどの事情があるとも思えない。
 それでも、直感が告げる。“普通ではない”。何かがおかしい。
 疑念をぬぐえないまま、私はもう一度投稿ボタンを押す。――たとえ誰も見ていないとしても、自分の言葉を記録することでしか道は開けないような気がしたのだ。見えない壁があったとしても、突き破る手段を探すしかない。

第一章:微かな歪み

 翌朝、何かが変わっていることを期待してスマートフォンを手に取る。だが、新たに投稿した記事の視聴数もやはり「0」のまま。アクセス解析を見ても、誰一人として訪問した形跡がない。
 私はPCの電源を入れ、ブラウザから直接検索エンジンを使って自分の投稿を探してみた。キーワードを工夫し、自分のブログ名をかき集めてみても、一向にヒットしない。以前であれば、多少は順位が低くても、自分の記事が表示されるのを確認できたのに…。
 いったい何が起きているのか。私はさらに詳しく調べるため、閲覧数をカウントするための外部サービスも導入してみた。しかし、そこでも結果は同じ——ゼロ。まるで私のサイトそのものが存在しないかのように扱われている。
 何より気味が悪いのは、自分ですら自分の投稿が検索結果に引っかからないことだ。自分のブラウザの履歴やクッキーを消去してから検索をかけても、まったく見当たらない。これはさすがに、偶然やニッチさだけで説明がつくものではないと思った。

 不安を抱えながらSNSを眺めていると、とあるフォロワーの投稿が目に留まる。最近の検索エンジンのアルゴリズム変更について言及しており、どうやら一部のユーザーの投稿が軒並み順位を下げられているのだという。そこに書き込まれたコメントの中には、「アクセスが極端に減った」「存在が見えなくなった」という報告も散見された。
 私はその情報を頼りに、さらに深く掘り下げようと決意する。アルゴリズムの改変が原因だとすれば、同じ被害に遭っている人が他にもいるはずだ。何らかのコミュニティが存在するかもしれない。
 しかし、探せど探せど該当しそうなコミュニティは見当たらない。SNSで検索しても、表面的には誰も似た状況に陥っているようには見えなかった。先ほど見たフォロワーの投稿以外は、ほとんど話題にもなっていないのだ。コメントの数も少なく、すぐに沈んでしまっている。
「もしかして、書き込みそのものが隠蔽されている…?」
 全身がざわついた。私と同じ目に遭っている人が大勢いるのに、その声がネット上に“表出”しない仕組みが存在しているとしたら——これはもう、ただのアルゴリズム変更などでは済まないだろう。

第二章:不可視のコミュニティ

 同じ苦境に立たされている人を見つけられない以上、他の手段に頼るしかない。私は大学時代の先輩で、IT業界に詳しいという人物に連絡を取ることにした。彼はセキュリティ関連の会社で働いており、ウェブの裏側にあるような技術にも通じているはずだった。
 メッセージを送ると、すぐに返信が返ってきた。「面白そうだね、詳しく話を聞かせてよ」と。私はこれ幸いと、今起きていることを可能な限り具体的にまとめ、先輩へ送った。
 しばらくして返事が届く。そこには「たしかに奇妙だけど、まだ単なる検索順位の低下やアルゴリズムの不具合かもしれない」と、慎重な意見が書かれていた。先輩はさらに、「うちの会社のネットワーク監視ツールで少し調べてみようか?」とも言ってくれた。
 私は快諾し、自分のサイトURLや投稿記事のリンクを送った。先輩は数日後に改めて報告してくれるという。私は半信半疑ながらも、専門家に調べてもらえるなら心強い。こういうとき、頼れる人脈があるのはありがたいと実感する。
 それから数日後、先輩から電話がかかってきた。待ちわびていた報告のはずなのに、電話口の先輩の声はどこか落ち着かないようだった。
「正直言って、うちのツールでもよくわからないんだ。君のサイトにアクセスが来ていないわけじゃない。少数だけど、海外の不審IPからは継続的に接触がある。しかし、そのアクセス解析のデータがいつの間にか削除されるというか、何らかの形で書き換えられている形跡があるんだよ。普通じゃ考えられない」
 私のサイトにアクセスしている“何か”が存在するのは確かなのに、それが私の見るログや解析画面には反映されない。“何者か”によって、私のサイトの痕跡が操作されている…?
「それって、ハッキングみたいなものですか?」
「うーん、普通のハッキングとも違う。もっと高度なレベルで通信をコントロールしている印象があるな。例えば、君が管理するサーバーと、君のPCやスマホの間に、透明な壁が存在するみたいな感じだよ。インターネットの大本に関わる部分に介入して、情報を取捨選択しているように思えるんだ」
 先輩の話を聞くうちに、背筋が寒くなるのを感じた。アルゴリズムの変更などというレベルの話ではない。
「何らかの大きな組織、あるいは国家レベルの検閲やフィルタリング機能が働いている可能性が高い。でも、君の投稿にそこまで介入する理由が見当たらないんだが…」
 電話はそこで一旦途切れ、先輩は深い溜息をつくように息を吸ってから、こう続けた。
「とりあえず言えるのは、君が書いている内容や発信が何かの“ライン”に引っかかっているか、もしくは君自身が何らかの理由で監視対象にされているってことだ。あまり深入りしないほうがいいかもしれない…」
 先輩は私を気遣ってそう言うが、それでは納得できない。いったい私の、どんな発信が問題視されるというのか。
 私は電話を終えると同時に、無性に誰かと話したくなり、久しぶりに地元の友人にも連絡を取ってみた。しかし、友人の反応は素っ気ない。
「ああ、そうなんだ。おかしいねえ。……で、元気してる?」
 拍子抜けするくらいまったく関心を示さない。こちらとしては死活問題とも言える緊迫感を感じているのに、友人にはまるで響いていないようだった。
「ねえ、本当に全然見られないんだよ。コメント一つすらつかないし、何か変な力が働いてるんじゃないかって…」
「うーん、でもそんなことある? 単にアルゴリズムの変更に引っかかってるだけじゃないの?」
 ひとしきり話しても、友人はまるで興味がない。もしかすると、自分だけが“この状況”を切実に感じているのか。そう思うと、急に心細くなった。

第三章:ブログの消滅

 気を取り直して、私は別の方法を試すことにした。新たに実験的なブログを複数作り、それぞれ内容を変えて投稿してみるのだ。テーマ別にいくつか書き分けて、それらをそれぞれのSNSアカウントにもリンクさせてみる。
 結果は意外なことに、一部のブログにはアクセスがあった。ペットの猫について書いたブログや、地域の観光情報をまとめたブログは、少ないながらも確かに閲覧が確認できたのだ。コメントも数件は入った。
「じゃあ、やっぱり私の個人的な文章や考察の記事だけが何かに阻まれているのか…?」
 私は次に、これまで何も反応のなかったメインのブログと同じ文章を、ペットブログの方にこっそり混ぜて投稿してみた。記事タイトルを変えたり、文体を少し変えたりはしたが、内容はほぼ同じだ。
 すると、驚いたことに、その部分だけ投稿が丸ごと削除されてしまったのだ。他の記事は残っているのに、その文章のみが消え、“404エラー”を返すページになっていた。
 私は管理者ページにアクセスして、意図的に削除した形跡がないか確認した。しかし、投稿履歴には何も残っていないし、私以外の編集者も存在しない。誰かが勝手に私のWordPressにログインして削除した可能性を疑ったが、ログイン履歴に不審なアクセスは見当たらない。
 まるで私が書いた文章それ自体が、ネット上に掲載されることを拒絶されているような感覚に襲われる。私は愕然とし、動揺を隠せなかった。同時に、強い恐怖心が芽生える。これはただのバグではない。私が書く特定の内容に対して、何かが“干渉”している。

第四章:噂の真相

 その夜、私は再び大学時代の先輩に連絡を取った。「そっちで調べられることがあれば頼みたいです」と伝えたが、先輩の声はやや冴えない。
「うちで使えるツールやログ解析では、すでに限界がある。大規模なネットワークインフラに介入されたら手も足も出ないよ。もしこれが国際的なサイバー組織や政府機関の仕業だとしたら、証拠をつかむのも至難の業だ」
 私にはどうにもならない話だ。そう思った瞬間、ふと思い出すことがあった。学生時代、サークルの仲間内で「サイレントフィルタリング」という都市伝説を聞いたことがあるのだ。内容はこうだ——
 「世界中のインターネットには目に見えない“フィルター”が幾重にもかけられており、意図的に削除やブロック、検閲が行われている。ただ、その存在を暴こうとする人間の発信はさらに厳重に隠蔽される。そのため、このフィルターの存在を証拠付きで表に出せた者はいない」
 当時は笑い話のように受け止めていたが、今まさに自分の身に起きていることこそ、これに近いのではないだろうか。そう考えざるを得ない状況にいる。
 しかし、なぜ私がそんな検閲を受けなければならないのか。私は政治的にも宗教的にも、特別過激な主張をしているわけではない。普通の日常やエッセイ、書評、少し変わった考察を書いているだけだ。
「考えられる可能性は二つ。君が知らないうちに、何か重大な機密や特定の勢力に不利な情報を握っている。あるいは、君自身が何らかの理由で監視対象になっている。でも、どちらも現実的じゃないと思うよ」
 先輩はそう言うが、その“非現実的”な何かが今、目の前で現実になっているのだ。

第五章:小さな手がかり

 途方に暮れつつも、私はさらに調査を続けた。ブログやSNSだけではなく、掲示板や口コミサイトなどにも自分の文章を断片的に投稿し、どのタイミングで削除されるかや、どの端末を使うと投稿が成功するかを細かく実験してみることにした。
 結果、判明したことがある。それは、海外の特定サーバーを経由すると、私の文章が掲載できる可能性が高まるという事実だった。VPNサービスを使って投稿してみると、すぐに削除されることが少なくなったのだ。とはいえ、公開されても数時間後に“消される”ことが多く、長期的に残すのは難しい。それでも、国内のIPアドレスを使うよりはマシだった。
 もう一つわかったのは、文章の中に特定のキーワードが含まれると、即座に消されやすいということ。私がこれまで書いてきた考察の中に、政治や経済の裏事情にまつわる単語はほとんどなかったが、なぜか抽象的な言葉でも頻繁に“引っかかる”ようだった。
 たとえば「制御」「統制」「裏側」「構造」など、本来は日常的に使われうる単語だが、私の投稿でこれらが使われると高確率で削除されるのだ。他のブロガーが同じ単語を使っても普通に検索に出てくるのに、私だけが狙い撃ちをされているように思われた。
 この事態をなんとか突破する糸口を見つけたくて、私は日常的にVPNを使いながらブログ更新を続けた。同時に、どのキーワードが“危険”なのかも洗い出していく。そうして作った比較表は、見る人が見れば異常に思うだろう。しかし、これが私にとって唯一の対策だった。
 やがて私は、自分と似たような状況を経験していると名乗る人物をネットで見つけた。コメントを書き込んでくれたのは、ある国際的な掲示板でのことだ。私がVPN経由で英語圏の掲示板に「Strange censorship in my blog…」と投稿したところ、ポツリと現れた返信があったのだ。
 その返信は、英語ともフランス語ともつかない混ざり合った文章で、「自分も同じように投稿が消されている。君の言う“特定キーワード”による削除を感じている。対策としては“暗号化”が有効かもしれない」と書いてあった。暗号化とは、単純に暗号を使って文章を隠すという意味だろうか? 私は詳細を尋ねるべく、その相手にプライベートメッセージを送ることにした。

第六章:暗号の導き

 返信者の名は「S」とだけ名乗っていた。Sは自分もかつては普通のブロガーだったが、ある日を境に投稿が見えなくなる現象を体験したという。さらに調べるうちに、どうやら“ある種の自動監視システム”が存在し、特定のフレーズや文脈を検知して記事を抹消する動きをしていると確信した。
 Sが言うには、そのシステムは強力かつ迅速で、さらに学習機能を持つため、対策を講じてもすぐに手口を変えてくるという。単純に伏字や隠語を使った程度ではすぐに見破られてしまうのだ。
 そこでSは、独自の暗号化プロトコルを考案し、書きたい内容を一度暗号化した上で掲載するというアプローチを試していた。具体的には、記事の本文を暗号化し、ウェブ上にはただの意味不明な英数字の羅列だけが表示される。読者は解読ソフトを用いて鍵を入力しないと文章を読めない仕組みだ。
 この方法であれば、システム側が“特定のキーワード”を自動的に検出しにくいという。ただし、暗号化と言っても形だけの簡易的な処理ではすぐに解析されるため、かなり高度な手法を使う必要があるらしい。
 私はSからそのプロトコルを教えてもらおうとしたが、Sは慎重に「実際に使うのは危険。システムに目をつけられて、より強い制裁を食らう可能性がある。それに、私自身も完全には安全ではない」と警告してきた。
 しかし、このままでは私の発信はすべて闇に葬られる。Sの方法に賭けるしかないのではないか、と私は考え始めていた。とはいえ、暗号化が何をもたらすのか、自分でその影響をどこまで制御できるのか、まったく予想がつかないのも事実だった。

第七章:虚無の理由

 Sの話を聞くうちに、私はもう一つの疑問を抱え始めた。なぜ、これほど多くの人々が何らかの検閲や削除を受けているとしたら、ネットの世界で大きな騒ぎにならないのだろうか。ネット上での情報検閲が行われているのであれば、その事実だけで大ニュースになるはずだ。
 Sはそこについても解説してくれた。
「検閲される人とされない人が明確に分けられている。“される人”は声を上げても更に隠される。たとえそれを拡散しようとしても、“されない人”のタイムラインや検索結果には表示されない。最終的に、“される人”たちは発言力を失い、何もなかったかのように埋没していく」
 まさに私が今味わっている苦境そのものだ。自分の発信が人々の目に触れなければ、いくら声を上げても“存在しない”のと同じことになる。
「では、検閲しているのは誰なのか?」
 Sもそこについては断定していないが、いくつかの可能性があるという。国や政府機関、大手IT企業、あるいはその裏に存在する巨大資本。複数が連携している可能性もある。
 さらにSは、特定の“統合された検閲システム”が存在しているのではないか、と仮説を立てていた。従来、国や企業がそれぞれ独自に検閲を行っていたとしても、ここまで広範囲かつ瞬時に削除やブロックが行われるのは難しい。おそらくは裏で各国や企業のデータベースが統合され、AI的な機能で検閲を加速化しているのではないか、というのだ。
「私たちが思っている以上に、ネットのインフラやアルゴリズムは既に巨大で複雑だ。そこにAIが導入されることで、検閲も一瞬で完了する。人間の目が追いつかない速度で、どんな情報も見えなくされる」
 私は唖然とした。もはや都市伝説ではなく、現実問題として起きていることだと考えざるを得ない。

第八章:暗号化実験

 私はSから教えてもらった暗号化プロトコルの一部を試してみることにした。方法は簡単ではない。まず、書きたい文章をエンコードし、さらに複数の混合キーを使って二重、三重に暗号化していく。Sは「エラー率を下げるための細かな手順があるから、何度もテストしたほうがいい」と強調していた。
 パソコンの前に座り、エディタを開く。ネットで見つけた暗号化ツールや、Sが作ったスクリプトを使いながら、手探りで暗号化を行う。最初はエラーが続出して、何が原因かもわからない。しかし数時間かけて試行錯誤した結果、ようやく文章が正常に暗号化・復号できる段階にたどり着いた。
 暗号化した文章は、見た目には無意味な英数字と記号がずらりと並ぶだけだ。私はその文字列をブログの記事として投稿し、あえてタイトルにもわざと意味の通じない文字列を使ってみる。
 普通に考えれば、こんな暗号だらけの記事を誰も読もうとは思わない。だが、アクセス数が「0」であることを逆手に取るなら、これで検閲を避けられるかもしれない。
 投稿後、私は数分間待機した。いつもであれば、問題のある文章なら即座に削除されるはず。だが今回は、10分経っても記事が残ったままだ。アクセスがあるかどうかは別として、とりあえず削除はされない。
 さらに数時間経っても、記事は残り続けた。驚くべきことに、一度も「0」から動かなかったアクセス数が、なぜか「1」になっている。私がVPN経由でアクセスしたカウントかと思ったが、それなら解析ログに記録が残るはずだ。しかしログの方には何もなかった。
「誰かがこの暗号文を見に来た…?」
 私は不気味な期待感と恐怖を抱えながら、再度リロードをかける。記事はまだ生きている。削除されていない。
 しばらくしてブラウザを閉じたが、その日の深夜に再度確認すると、アクセス数が「3」になっていた。一体、どこからアクセスしているのだろう。私の手元のログには一切残っていない。
「もしかして、この暗号を解こうとしている…?」
 そう思うと胸がざわつく。これはただの思い違いかもしれない。しかし、隠されているはずの記事に誰かがアクセスし、何らかの手段でログを残さずに閲覧しているとしたら、やはり何者かが裏で動いているのは間違いない。

第九章:Sとの接触

 その後、暗号化投稿を続けてしばらく経ったある日、Sから暗号化されたメッセージが届いた。復号してみると、やはりフランス語や英語が混ざった奇妙な文体だが、その要旨はこうだった。
「君の暗号化テスト記事を確認した。確かにいくつかのアクセスがあった形跡がある。私もその内の一つに混ざって解読を試みた。記事は無事に読めたよ。システムの網を抜けたようだ。だが、それ以上に興味深い動きがあった。私以外の誰かが、君の暗号化記事にアクセスしている。しかも複数回にわたってね。ログを注意深く洗うと、おそらく高度なプロキシを使っているように見える」
 Sも、誰がアクセスしているのかまではわからないようだ。ただ、ネットの“検閲システム”が暗号化された記事を完全には識別できていない可能性が高い。でも、システムが動かないのではなく、むしろ興味を持って監視しているのかもしれない、と言う。
「彼らは君がどこまで暗号化技術を使いこなせるかを試しているのかもしれない。あるいは、ただ単に動向を観察し、次の手を考えている。決して安心はできない。むしろ、暗号化という行為によって、君はさらに注目されている可能性がある」
 その警告に、私は言葉を失った。確かに、これまでは普通に投稿するだけで即削除されていたが、暗号化という次元の違う行為をすれば、当然“相手”も警戒や対策を強化するだろう。
 それでも私は進むしかない。何も知らぬまま削除されるより、たとえ一時的にでも文章を残し、真実を共有したい。そんな意地のような感情が芽生え始めていた。

第十章:可視化された証拠

 暗号化投稿を継続する中で、私はもう一つの“手段”を試してみることにした。それは「紙に印刷する」という、ごく原始的な方法だ。インターネット上でどれほど削除されようと、紙の文書ならば容易に消されることはない。もちろん、多くの人に読んでもらうには不便極まりないが、物理的な証拠としては確実だ。
 私はここ数週間の間に書き留めたブログ記事の全てをプリントアウトし、ファイルに綴じていく。その中には、なぜ削除されたのか理由が分からない記事も含まれるし、暗号化して書いた記事の原文もある。こうしてみると、相当なボリュームになる。
 ふと、自分がこれまで書き続けてきた内容に改めて目を通す。日常の雑感、ちょっとした人生観、読んだ本の感想、政治に関する軽い意見など、本当にごく普通のブログだ。こんな文章のどこが問題なのか、改めてわからなくなる。
 その中で、一つだけ心当たりがあるとすれば——数か月前に書いた考察記事かもしれない。私はその記事で、SNSや検索エンジンが「ユーザーの認知や思考」を操作できる可能性について言及していた。いわゆるフィルターバブルやエコーチェンバーの危険性を、少し突っ込んで書いたのだ。
 もしかしたら、その記事が何かの“引き金”になったのか? それを契機として、私の投稿そのものが隠蔽対象になった可能性がある。
 私は今さらながら、その記事の内容を読み返してみる。そこには、ネット上での検閲や情報操作の現実味についても言及していた。まだ憶測に近い段階だったが、「もはやインターネットは自由な空間ではなくなりつつある」という一文を添えている。
 その先見性とも言うべき記述が、今の状況を暗示していたかのように思えて、私は背筋が寒くなった。

第十一章:見えない壁を超える

 このままでは埒が明かない。私は新たな行動に踏み切ることにした。ネット上での発信が難しいのなら、リアルの場で直接、人々とコミュニケーションを取るのだ。
 例えば、地元の図書館や公民館などで開催される小規模なイベントに参加し、自分の経験を話してみる。私のブログやSNSが閲覧できないこと、その理由がわからないことを周囲に伝える。自分のファイルにまとめた記事のコピーを手渡して、「これがネット上では削除されてしまったんです」と。
 人々の反応は様々だった。半信半疑の人が大半だ。誰もが、自分には関係がないと思っているようだ。しかし、中には興味を示す人も少数ながらいた。特にIT系の知識を持つ若い人たちは「こんなことがあるのか」と目を輝かせ、協力を申し出てくれた。
 彼らと一緒に、簡易的な「検閲調査チーム」のようなものを作り、私のブログがどのネットワークでどうブロックされるかを調べてもらう。驚くべきことに、同じ国内でも、プロバイダや利用地域によっては私のブログにアクセスできるケースがわずかに存在した。
「これって、網が完全というわけじゃないんですね」
 ある若者がそう呟く。検閲システムにも“ほつれ”がある。いかに巨大なシステムでも、完璧に情報を遮断することは簡単ではないのかもしれない。
 私はそのほつれを活用できないか考えた。もし部分的にでも表示される地域やプロバイダがあるなら、そこから情報が拡散される可能性があるだろう。しかし、私が住むエリアではアクセス不可能なままだ。

第十二章:“音”の存在

 ある日の夜、ふと私はスマホのアクセス解析画面を見ていた。相変わらず数字はゼロに近いが、ときおり「1」や「2」が増えることがある。正体不明のアクセスがあるのだ。
 しばらく眺めていると、まるでタイミングを合わせたかのようにアクセス数が「1」から「2」に変わる。そして、しばらくすると「0」に戻る。またしばらくすると「1」になる。奇妙なリズムだ。
 もしや、これが“コミュニケーション”の形なのか? 私は思い立って、ブログの記事を急いで書き換え、文字列の最後に「アクセスがあったら数字を増やしてくれませんか?」と呼びかける暗号文を仕込んだ。
 次の瞬間、アクセス数が「3」になった。そして数分後に「4」。さらには「5」。まるで数字を刻むように、私の呼びかけに応じているかのように思える。
「こんなことが…」
 私はSNSのDMでSに連絡を取った。Sも「興味深い。誰かが意図的にアクセスして応答しているようだ」との見解だった。
 そこから先は、私と“誰か”の奇妙なやり取りが始まる。私はブログの暗号文章に、アクセス数を用いた二進数のメッセージの解読法を提示してみた。アクセス数が1なら「はい」、2なら「いいえ」、3なら「中立」など、一種の暗号プロトコルを作り出す。
 すると、深夜になるとアクセス数が増減して、一度だけ「3→2→1→5→4」という数字のパターンを示すことがあった。私はそのパターンを、あらかじめ決めておいた対応表に照らし合わせて解読を試みる。
 結果、そこから導き出された文字列は「HELLO」。
 その瞬間、全身に鳥肌が立った。誰かが、私に“HELLO”と挨拶を送ってきたのだ。
 これは単純な錯覚やランダムではない。明確な意志を感じる。検閲システムを潜り抜けて、しかも私の用意した手段に応える誰か…。ただし、これが味方なのか、敵なのかはわからない。

第十三章:真夜中の交信

 私と“アクセス数”との暗号的やり取りは、その後も数回続いた。ただ、いつもアクセス数が操作されるわけではない。一瞬だけ現れては消える、という繰り返しだ。
 やり取りの中で得たフレーズは、「WATCH」「KEEP GOING」「NOT YET」「CAREFUL」など、短い英単語の羅列だった。意味としては、「見ている」「続けろ」「まだだ」「気をつけろ」といったところだろうか。
 私はSに相談し、この奇妙な“相手”との対話を記録し分析してもらう。Sは「君を応援しているようにも思えるし、警告しているようにも取れる。正体はわからないが、少なくとも検閲システムの中枢に近い存在かもしれない」と推測した。
 もしそれが本当なら、相手は“管理者側”の一部なのだろうか。それとも、検閲システムの裏を知るハッカーのような人物かもしれない。どちらにしてもリスクが高い。だが、私はそのやり取りの中に、かすかな希望を感じていた。少なくとも私の投稿は、完全に無視されているわけではない。
 一方で、相手が私を陥れるために接触している可能性も否定できない。ネットにおける情報戦は複雑で、わざと味方の振りをして内部情報を引き出そうとする手口もある。
 夜な夜な、アクセス数の変動を見守りながら、私は実体のない“相手”に問いかけるように新たな暗号を仕込んだ。
「あなたは誰ですか? なぜ私を監視しているのですか?」
 しかし返事はなかった。何度か更新しても、アクセス数は静かに「0」を示すだけ。

第十四章:崩れゆく日常

 ある日、日常に小さな変化が生じた。出勤途中、車のサイドミラーに妙な違和感を覚える。いつも見慣れない車が、やけに私の車の後をついてくるような気がした。曲がる道を変えてもついてくる。これはただの偶然なのか?
 また別の日には、郵便受けに差出人不明の封筒が入っていた。中には白い紙が一枚だけ。そこには何も書かれていない。まるで無言のメッセージのようだった。
 その頃から、不安が胸を締めつけるように大きくなっていった。いつしか私は、自分の行動がすべて監視されているような感覚にとらわれる。部屋の中に隠しカメラがあるのではないか、と疑って部屋中をくまなく探した。もちろん、何も見つからない。
 仕事をしていても落ち着かない。同僚との世間話さえも、どこか心ここにあらずの状態だ。彼らは私がネットでの“闇”に巻き込まれているなどとは夢にも思わないだろう。私も話すつもりはなかった。きっと理解されないに決まっている。
 やがて私は、夜眠ることさえままならなくなった。ベッドに横になっても、アクセス解析画面や謎の追跡車両のイメージが頭から離れず、神経が高ぶって眠れない。
 これは精神的に限界が近い。私はこの状況から抜け出したいと思い始めた。ネットに固執することで、自分の生活が壊れていくのは本末転倒なのではないか。
 思い悩んだ末、ブログ運営から一旦距離を置くことを決意した。暗号化投稿も、検閲調査も、とりあえずやめる。もしかしたら、それで監視も自然と薄れるかもしれない。これまで作ってきた記事やデータはローカルに保存しておき、ウェブ上ではすべて非公開にする。

第十五章:断絶の静寂

 こうして私はネットから一時的に離れることにした。スマホも極力使わず、SNSもログアウトした。仕事のメール以外は極力見ないようにした。その結果、驚くほど静かな時間が戻ってきた。
 最初は禁断症状のように気になって仕方がなかったが、数日経つうちに、少しずつ気持ちが落ち着いていくのを感じた。誰かに監視されていると思い込むことも、以前ほどにはなかった。追跡車両の気配もいつしか消え、周囲の人々もいつも通りの生活を送っているように見える。
 このままやり過ごして、普通の生活に戻るのも選択肢かもしれない。何より、自分の心身を守るためには、それが正解のようにも思える。
 だが、ふとした瞬間に考えてしまう。このままでいいのだろうかと。検閲システムの存在を疑わせる数々の出来事は、私の中で消し去るには強烈すぎるインパクトを与えた。ネットに戻らずとも、あのまま放置していいのか。
 休息期間を設けて、心が少し回復した今だからこそ、落ち着いて考えられることがあるかもしれない。

第十六章:微光の再起

 数週間のブランクを経て、私は再びパソコンの前に座った。前回までのように焦って何かを投稿するのではなく、まずは状況の整理から始める。

  1. 検閲システム:自分の投稿が何らかのシステムによってブロック・削除されている可能性が高い。

  2. 暗号化投稿:暗号化することで一部を回避できたが、謎のアクセスが増えた。

  3. 第三者の存在:Sや、アクセス数を操作して謎のメッセージを送ってくる相手がいる。どちらも正体不明。

  4. 監視とストレス:リアルでも動向を探られているような気配があったが、ネットから距離を置いたら落ち着いた。

 こう整理してみると、私がすべきことは二つあるように思えた。
 第一に、自分自身がどうしたいのかをはっきりさせること。 もし平穏な日常を最優先にするなら、このまま黙って引き下がるのがいいだろう。だが、それでは納得できない。私は自分の思いや文章を世に問うためにブログを書いてきた。そして、検閲が当たり前に行われる世界に対して、違和感や恐怖を感じるからこそ声を上げたいと思った。
 第二に、より確実で安全な方法で発信する術を見つけること。 暗号化は一つの手段だが、それだけで全てを解決できるわけではない。リアルの場との連携や、検閲が及びにくいサーバー環境の確保など、複合的に対策を進める必要がある。

 私は再びSに連絡を取り、状況を説明し「もう一度、何かできないか」と相談を持ちかけた。するとSは、面白い提案をしてきた。
「ネット上には、一般の検索エンジンでは到達できない“ダークウェブ”がある。そこには特殊なブラウザを使ってアクセスする。表の検閲システムから隠れた空間だ。君の言葉をそこに載せるのも一つの手だ。ただし、ダークウェブにも様々なリスクがある。違法な情報が行き交うことも多く、安全かどうかは保証できない」
 確かにダークウェブという言葉は聞いたことがあるが、そこには違法な取引や犯罪まがいの情報が溢れていると聞く。正直、そんなところに足を踏み入れるのは気が進まなかった。
 しかし、Sの話では、ダークウェブの中にも一部のコミュニティや技術者が集まる空間があり、そこならば表のネットより自由に情報を扱うことが可能だという。もちろん私が望む“公正な場”かどうかはわからないが、少なくとも自由度が高いのは確かだ。
 私は悩んだ末、一度は保留にした。ダークウェブというだけで危険性が高すぎると感じたのだ。

第十七章:知らせと誘い

 そんな折、私のもとに一通のメールが届いた。差出人は先輩の会社の名を名乗っているが、先輩本人ではなく、一般的には無名の社員のようだ。内容は簡潔で、「当社の新プロジェクトに関するインタビュー協力をお願いしたい」と書かれていた。
 先輩に連絡してみると、「その件、ちょっとややこしい話なんだ。詳しくは口頭で説明したい」と言う。私は先輩と会う約束をし、数日後にオフィス街の喫茶店で落ち合った。
 先輩は会うなり深刻な表情で口を開く。
「実は、うちの会社が政府関連の仕事で、“ネットの治安維持”に関わる研究プロジェクトに参加していることが分かったんだ。俺も詳細は知らないんだけど、やたらと機密扱いが多くて、気味が悪い。そこで何かを掴んで、君に接触しようとしている可能性がある」
 私は一瞬理解が追いつかなかった。「つまり、先輩の会社が“検閲システム”に関わっている可能性があるということですか?」
「そこまで直接的かはわからないが、情報統制や監視技術に近いプロジェクトだという話はちらっと耳にした。俺自身、そのプロジェクトには関与していないが、社内の空気が妙にピリついていてね」
 先輩は声を潜めて続ける。
「とにかく、そのメールの差出人が本当に会社の人間なのか、君の情報を引き出すための罠なのかはわからない。くれぐれも注意してほしい」
 私は改めて恐怖を感じつつも、同時に好奇心を押さえきれなかった。もしかしたら、そのプロジェクトこそが私が突き当たっている“検閲システム”の一端かもしれないのだ。そこにアクセスできれば、真実に近づけるのではないか。

第十八章:誘導の先に

 メールに書かれていたリンク先を、一応ブラウザの検証ツールを使いながら確認したところ、どうやら先輩の会社のサブドメインで間違いないように思えた。見た目は簡素な企業サイトのフォームで、そこから“インタビュー協力”への申し込みができるようになっている。
 私は意を決して、そのフォームに偽名で申し込んでみた。個人情報を渡すのは危険だと感じたからだ。しかし連絡先としてメールアドレスは必要だったため、新規作成の捨てアドレスを使った。
 数日後、返信があった。インタビュー希望者が多いため選考を行う、と書かれていたが、驚くことに翌日には「ぜひ協力いただきたい」との連絡が再度届いた。まるで最初から私を待ち受けていたかのような速さだ。
 指定された場所は都心のオフィスビルで、面接形式で話をするらしい。私は用心のため、先輩にそのビルの所有者や監視カメラの有無などを調べてもらった。特に違法な施設ではないようだ。
「行くなら、必ず誰かに同行してもらいなよ。最悪の場合、行方不明になるなんて冗談じゃないからね」
 先輩は半ば本気の表情で言う。私自身も同行者が欲しかったが、なかなか適任者が見つからない。会社員の友人を巻き込むわけにもいかないし、Sは海外在住で物理的に無理だ。どうしたものか…。
 結局、私は完全に単独で行くことになった。生まれて初めて防犯ブザーまで準備し、スマホのGPSが常にオンになっていることを確認してビルへ向かう。

第十九章:面会

 ビルの受付で“インタビュー協力”の旨を伝えると、静かな応接室に案内された。そこにいたのは、30代くらいのスーツ姿の男性一人だけ。名刺を受け取ると、確かに先輩の会社の所属名が書かれている。
「どうぞ、おかけください」
 男性の声は穏やかで、威圧感はない。しかし目の奥に鋭い光が宿っているように感じる。私は警戒しつつ椅子に腰掛け、相手の出方を待った。
 男性は軽く自己紹介をし、「本日は弊社が関わるプロジェクトの一環として、インターネット利用者の生の声を伺いたい」と切り出した。
「今日お越しいただいたのは、ブログを運営している方の中でも、特に深い洞察や考察をお持ちの方だと伺ったからです。差し支えなければ、日頃どのようなテーマを発信されているかお聞かせいただけますか?」
 私は偽名で申し込んだ手前、自分のブログ名や細かなテーマは誤魔化すしかない。曖昧に「日常や趣味の話です」と答えると、男性は静かに笑った。
「結構ですよ。プライバシーは尊重します。ただ、ネット上の言論空間についてどう思われているか、率直なご意見を伺いたいのです。例えば、デマや誹謗中傷が蔓延する状況をどう考えますか?」
 その質問自体は、さほど怪しくはない。私は当たり障りのない範囲で答える。すると、男性は更に踏み込んだ質問を投げかけてきた。
「表現の自由と、社会の安定を秤にかけたとき、どのようにバランスをとるべきでしょうか? 極端な話、皆が不安になる情報や根拠の薄い批判を排除することは、社会全体の利益になると思いますか?」
 私は胸の内で、「これこそが検閲システムを正当化する論理だ」と思った。相手の意図を探りつつ、「一概に排除すればいいというものでもない。議論によってこそ真実に近づく」といったように応じる。
 すると男性の表情がわずかに変化した。まるで私の内心を見透かしているかのような、得体の知れない笑みを浮かべる。
「なるほど。あなたは“自由”を重視するタイプなんですね」
 そのひと言に、私の背筋は嫌な汗で濡れた。

第二十章:探る声

 その後、男性はしばらく一般的な質問を続け、パソコンのキーボードを打ち込みながらメモを取っていた。私が答えた内容が、そのままプロジェクトのデータとして蓄積されていくのだろう。
 ある程度のやり取りが続いた後、男性はふと口調を変える。
「実は、私がインターネットの監視技術に詳しいこともあって、個人的に興味深い情報を耳にしているんです。最近、特定の個人ブログが意図的に検索結果から消されているという噂をご存知ありませんか?」
 私は心臓が跳ね上がるのを感じた。まさに自分が体験してきたことだ。しかし、ここで正直に“それは私だ”と名乗り出るのは愚の骨頂だろう。私はあえてとぼけた表情を装い、「いや、具体的には知りませんが、都市伝説のような話は聞いたことがありますね」と答える。
「そうですか。もしそういう体験を実際にされた方がいらっしゃるなら、弊社としても真相を知りたいところです。インターネットが皆にとって安全で快適な場であるためには、不要な混乱は避けなくてはなりませんからね」
 その言葉は一見もっともらしいが、裏を返せば「混乱の原因となる情報は排除する」という姿勢にも取れる。
 私が曖昧に頷いていると、男性は更に畳みかけるように尋ねてきた。
「もし、そういった検閲めいた現象が起きているとしたら、あなたはどう対処したいと思いますか? 例えば、それを回避しようと暗号化して発信し続けるとか、あるいはリアルの場で広めるとか…そういう可能性は考えますか?」
 まるで私の過去の行動を知っているかのようだ。私は恐怖感を噛み殺しながら、「特に考えたことはありません。検閲が実在するなら問題でしょうけどね」と言葉少なに答える。
 すると男性は、何やら満足げに微笑んでから、名刺を差し出す。
「もし、あなたの周囲でそういう被害に遭っている方がいらっしゃったら、いつでも私にご連絡ください。助けになるかもしれませんよ」
 その表情は、どこか底知れないものをはらんでいた。

第二十一章:出口の見えない迷宮

 インタビューを終えた私は、何事もなく帰宅できた。誰かに尾行されている様子もなかった。ただし、気持ちはまったく晴れない。あの男性が発する言葉の端々には、私を試すような意図が確かに感じ取れた。
 先輩に報告すると、「やはり君の動向に興味があるんじゃないか」と言う。あのプロジェクトがどのように情報を収集し、何を目的としているかは不明だが、少なくとも検閲に類する技術を扱っているのは間違いない。
 私の存在は既に相手の視界に入っている。今後も同じような“誘い”があるかもしれない。
 一方、Sもこの件について警戒感を示した。下手に関わると、技術情報や個人情報を握られ、逆に脅迫されるリスクがあるという。
「もし本当に検閲システムに近い人間が動いているなら、君の行動を操作して“協力者”に仕立て上げようとするかもしれない。絶対に気をつけて」

第二十二章:影の背後に

 それから数日、私は不意にあのアクセス数を操作する“相手”を思い出した。彼らは今どうしているのだろう。暗号的な交信は私がブログを閉じて以来、途絶えていた。
 久々にVPNを使って管理画面にアクセスしてみると、私はあっと息を飲んだ。ブログのデータが一部消えている。過去に書いた暗号化記事がごっそりと消滅していたのだ。
 しかも、その痕跡を示すログは何も残っていない。まるで最初からそんな記事など存在しなかったかのように扱われている。
「彼らの仕業か…」
 もしや、私がネットから離れている間に、検閲システムは着々と“後処理”を行っていたのではないか。私がまだ利用していたVPNサービスのアカウントも勝手に停止されており、問い合わせても回答が得られなかった。
 完全に自由なネット空間など、もはや存在しないのではないか。そう思うと、ひどい虚無感が私を襲う。ここまで徹底的にブロックされ、削除される中、私一人に何ができるというのか。

第二十三章:決断

 あまりの無力感に沈みそうになる私だったが、同時に一つだけ確信できることがある。
 “彼ら”は、本当に情報を操作し、私を沈黙させようとしている。
 それが政府か企業か、はたまた謎の組織かはわからない。だが、事態が現実に起きている以上、黙っているわけにはいかない。
 私は決意を固めた。もう一度、表舞台で声を上げよう。たとえ一瞬で削除されたとしても、記録を残し、可能な限り周囲に伝えるのだ。ダークウェブの利用も検討しよう。Sの力も借りよう。リアルの知人にももう少し声をかけてみよう。
 この戦いが報われるかはわからない。私はただの一個人にすぎない。しかし、一度でも“真実”を垣間見てしまったからには、もう目をそらして生きることはできなかった。

第二十四章:再起動の投稿

 私は久しぶりにメインのブログの公開設定をオンに戻した。アクセス数は相変わらず「0」のままだが、そんなことは関係ない。自分が書きたい文章を書くだけだ。
 記事のタイトルは、「見えない壁の向こうに」。私はそこにこれまでの経緯を、固有名詞や直接的な表現を避けつつ、できるだけ詳細に書き留めた。自分が経験した不可解な削除の事実、暗号化の試み、正体不明のアクセスとの交信…。
 当然ながら、投稿して数分後には自動的に削除されるだろう。だが、それまでの数分間に表示される可能性があるのなら、SNSや他のユーザーがスクリーンショットを撮って拡散してくれるかもしれない。わずかなチャンスに賭ける。
 案の定、記事は数分後に消えた。アクセス数は「1」か「2」程度しか増えていない。しかし、その瞬間に誰が見たのかわからないが、SNSに私の記事の一部を貼り付ける投稿が現れたという噂を後で耳にした。
 少しずつ、ほんの少しずつ、情報は漏れ伝わっていくかもしれない。完全なブロックなど、所詮は不可能だ。どこかにほつれがある。そこを突き続ければ、いつかは流れを変えられるかもしれない。

第二十五章:未来への祈り

 夜、私はパソコンの前で思考を巡らせる。
 やがて、ブログに再アクセスすると、予想通り記事は削除されていた。だが、その消えた記事の下に、新たなコメント欄が一瞬だけ表示されていたのだ。普段はコメントすらつかないのに——そのコメントには、こう書かれていた。

We are here. Never give up.

 それを見た瞬間、胸に熱いものが込み上げてきた。誰かが、たとえ一瞬だけでも私の言葉を拾い上げ、応答してくれたのだ。
 消されても、遮断されても、なお伝わるものがある。完全な闇の中に沈められることなどない。
 私は目を閉じ、深呼吸する。思考は巡るが、答えなどないかもしれない。
 それでも、ここから先は私が自分で切り開くしかない。Sの協力を仰ぎ、時には暗号化し、リアルな場での交流も拡大していこう。いつかこの“見えない壁”が崩れ落ち、誰もが自由に発信できる世界が再び訪れると信じて。
 もはや、この小さな光を手放すわけにはいかない。たとえ私の声が再び“0”にかき消されようとも、その先で誰かが受け取ってくれると信じている。
 そう、インターネットは完全には死んでいない。どれほど強固な検閲があろうと、“人々の意志”という炎が尽きない限り、情報という風はどこかから吹き込んでくるのだ。

エピローグ

 それから幾度となく私は投稿を試みては消され、時にVPNを駆使し、暗号化を施し、あるいはリアルのイベントで人々に語りかける日々を続けている。
 投稿の多くはすぐに削除され、アクセス数はほぼ増えない。検索エンジンも私のサイトを完全に無視し続けている。
 それでも、たまに誰かがコメントを残してくれたり、SNSで一瞬だけ私の言葉を共有してくれたりする。全てが一瞬の幻影のように消えてしまうこともあるが、私の中では確かな痕跡として刻まれる。
 Sとの連絡も細々と続いている。Sはダークウェブに記事を投稿する方法を教えてくれたが、私はまだそれを実行していない。いずれはそちらにも踏み込むかもしれないが、今は“表”の世界で少しでも多くの人と接触したいと思っている。
 不意に、最初の頃に抱いた違和感が思い出される。投稿数日後も視聴数が「0」のままという、ただの“静寂”だったはずが、いつしか巨大な陰謀と対峙するまでに至った。それは私が自ら好んで選んだ道ではない。しかし、いまの私は、その闘いから離れるつもりはない。
 この先、私の投稿がいつまでたっても「0」である可能性は高い。それでも、私は再び投稿ボタンを押す。その「0」の先に、かすかな希望が息づいていると信じているから。
 いつか、何者にも制限されない情報の海が取り戻される日を願って。私は今日も、見えない壁に向かって、静かに拳を突き出すのだ。

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