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【AI小説断章】海辺のテラス - その2

 店内は夕陽に染まり、海の見える窓際の席には暖かな光が差し込んでいた。
波の音が遠く微かに聞こえ、観光客や常連客がコーヒーを楽しんでいる。
風が穏やかで、陽の光を受けた海面が柔らかく揺れている。

──俺は席を移動した。

 もともとは、奥の席にいた。
 寒く、光も届かず、海も見えない場所。
 ただスマホの充電のために座ったが、不自然なほどに入れ替わる客たちが気にかかっていた。

 だから、今日は違う席を選んだ。
太陽がよく当たり、海が見える席。
普通なら、誰もが最初に選ぶような場所。

──にもかかわらず、だ。

 俺が移動した直後、奴も席を移動してきた。
 さっきまで別の場所にいたはずの男が、今、俺の隣に座っている。

 ハンチング帽に色付き眼鏡。
 街中で見かけても気に留めないかもしれないが、この状況では話が違う。

 俺の手は、自然な動作でスマホを取り出し、画面をスクロールする。
だが、意識は完全に隣の男へと向いている。

──これは、偶然か?

 ありえないとは言わない。
 たまたま、奴も席を変えたかっただけかもしれない。
だが、「たまたま」と言うには、状況が出来すぎている。

「おかしい」と思わせるには、十分すぎる流れだ。

 俺の目の端で、男は淡々と飲み物に口をつける。
 何もなかったかのように、時間を潰す。

 いや、違うな。
 これは「何かをしている」のではなく、「何かをしないようにしている」動きだ。

 男は、自然を装うことに意識を割いている。
 俺の隣に座ることが目的なら、それ以上の動きは必要ない。

──さて、どうする。

 俺は深く息を吸い、ゆっくりと吐く。
動揺を抑えるためではない。
 この状況を、完全に掌握するために。

 ここで何かを仕掛けるのは得策ではない。
 だが、流れを読むことはできる。

 次に俺が動いたとき、奴はどうするのか。

 それが、答えだ。

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