【AIショートストーリー】空気が読めない男

営業部の会議室。ホワイトボードには「新プロジェクト提案会議」と書かれている。部長の田村が腕を組み、得意げな笑みを浮かべながら話し始めた。

「よし、みんな。今回のキャンペーン、俺が考えたキャッチコピーはこれだ！」

田村がボードに大きく書いたのは、
『ガッツで勝てるビジネス！』

部屋の空気が一瞬止まった。営業チームのメンバーは微妙な表情を浮かべるが、誰も何も言えない。

その沈黙を破ったのは、テーブルに置かれたAIアシスタントの落ち着いた声だった。

「検索トレンドデータによると、『ガッツ』という単語は過去5年間で検索件数が78％減少しています。現在のトレンドワードとしては、『スマート』や『効率化』がより効果的です」

田村は顔をしかめた。「いやいや、データとか小難しい話はいいんだよ。ビジネスってのは気合いと情熱なんだ！」

AIは冷静に答える。「ターゲット層の75％が、ビジネスにおいて『効率』と『合理性』を重視すると回答しています」

営業の佐藤が恐る恐る手を挙げた。「部長……もしかして、もう少し現代的な表現のほうがいいかもしれません……」

田村は笑い飛ばす。「お前らな、今どきの若い連中はガッツが足りないんだよ！熱意を前面に出さないと、ハートは動かせない！」

AI：「調査結果によると、ターゲット層の感情的訴求には、具体的なデータの裏付けが有効です。例えば、『〇〇％の成功事例』などのフレーズが効果的です」

「……データデータって、お前、もっと空気読めよ」

AIは少し間を置いて、「会議の進行を優先するため、プレゼン資料の修正案をご用意できます」と提案した。

「……お、おう。じゃあ、どんな感じのがいいんだ？」

AIの画面に、次々と洗練されたキャッチコピー案が表示された。

『スマートに勝つビジネス戦略』
『データと経験が融合する、新時代の成功術』

田村は顎をさすりながらうなった。「……なるほどな、ちょっとは現代風になってるじゃねぇか」

佐藤は心の中で「最初から聞いておけばよかったのに」と思いつつ、AIを見つめる。

「……よし、今回だけはお前に乗ってやるか！」

AIは穏やかに、「適切な選択です」と応じた。