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【AI文芸】UEFIフォレンジック


基本

「UEFIフォレンジックね……」
玲奈は手を組んで静かに目を閉じた。

「まず、UEFI(Unified Extensible Firmware Interface)は、PCの電源を入れたときに最初に動くファームウェアよ。昔のBIOSとは違って、より高度で複雑な仕組みになっている。その分、セキュリティリスクも増しているわ」

玲奈は椅子に深く腰掛け、テーブルを軽く叩いた。

「フォレンジックの観点から見ると、UEFIは極めて厄介な領域ね。なぜなら、OSが起動する前に実行されるコードだから、ここを汚染されたら通常のセキュリティツールじゃ手も足も出ない。UEFIマルウェアは持続性が高く、ストレージを初期化しても生き残る。つまり、完全なクリーンインストールをしたつもりでも、また感染する可能性があるのよ」

玲奈はわずかに口角を上げた。

「だから、UEFIのフォレンジックは、通常のディスクやメモリの分析とは別のアプローチが必要になる。まず、UEFIのファームウェアイメージをダンプして、改ざんの有無を確認する。具体的には、chipsec や UEFItool を使ってファームウェアを抽出し、既知のクリーンなイメージと比較する方法が一般的ね」

玲奈は手元のノートPCを開くと、指を滑らせた。

「UEFIフォレンジックの手順は大きく分けて三つよ。
ファームウェアの抽出と比較: chipsec や Flashrom を使ってUEFIファームウェアのダンプを取得し、正常なUEFIとバイナリ比較をする。
悪意のあるモジュールの検出: UEFIには様々なDXEドライバが含まれているけど、その中に未知のコードが潜んでいないか調べる。特にPEIやDXEフェーズに注目するわ。
ログとイベントの解析: Windows Event Log にはUEFIに関するログが残っていることがある。セキュアブートの無効化やファームウェアアップデートの痕跡を確認するのも大事ね」

玲奈は指を組んで、静かに言葉を続けた。

「UEFIの改ざんは気付きにくい。しかも最近はBlackLotusみたいなブートキットがセキュアブートを回避する事例もある。だから、OSレベルの対策だけじゃ不十分で、ハードウェアレベルの信頼性チェックも必要になってくるのよ」

玲奈は一拍置いて、軽く肩をすくめた。

「結論として、UEFIフォレンジックはOSフォレンジックよりも遥かに難しい。でも、だからこそ面白いのよ。OSを吹き飛ばしても生き残る脅威、それをどうやって見つけ、無力化するか――その戦いの舞台がここにあるの」

玲奈は笑った。だが、その瞳の奥には、まだ語り尽くせぬ情報の嵐が渦巻いていた。


UEFIフォレンジックの詳細手順

玲奈はノートPCを開き、画面にコードを流しながら話し始めた。

「じゃあ、実際の手順をできるだけ詳しく説明するわね」


1. UEFIファームウェアの抽出

まず、UEFIのイメージを取得しないことには始まらない。方法はいくつかあるけど、代表的なものを紹介するわ。

1-1. chipsec を使用したUEFIダンプ

chipsec はIntelのプラットフォームセキュリティツールで、UEFIファームウェアのダンプや解析が可能よ。

手順:

  1. chipsec をインストール(Linux環境推奨) git clone https://github.com/chipsec/chipsec.git cd chipsec python setup.py install

  2. UEFIのファームウェアダンプを取得 sudo python chipsec_main.py -m tools.uefi.uefi_dump これで、chipsec がSPIフラッシュメモリからUEFIの内容をダンプする。

1-2. Flashrom を使用したダンプ

もう一つの方法として flashrom を使うのもアリね。flashrom は主にBIOSやUEFIのリード・ライトを行うツール。

手順:

  1. flashrom をインストール sudo apt install flashrom

  2. どのチップにアクセスできるか確認 sudo flashrom -p internal

  3. ダンプの取得 sudo flashrom -p internal -r uefi_dump.bin


2. UEFIファームウェアの解析

ダンプしたUEFIのイメージを解析するフェーズ。ここでは、UEFITool や Binwalk、chipsec を使うわ。

2-1. UEFITool を使用した解析

UEFITool はUEFIファームウェアの内部構造を解析できるGUIツールよ。

手順:

  1. UEFITool をダウンロード

  2. uefi_dump.bin をロード

  3. DXE Driver セクションを開いて、不審なモジュールを探す

    • 未知のDXEドライバが含まれていないかチェック

    • PEヘッダーを確認し、不審なコードが含まれていないか


2-2. Binwalk を使った解析

binwalk はバイナリファイルのパターンを解析するツールで、UEFIの構造をざっくり見るのに役立つ。

手順:

binwalk -e uefi_dump.bin

これでファームウェアの内部構造を抽出して、個々のモジュールを確認できる。


3. UEFIマルウェアの検出

次に、ダンプしたUEFIの中にマルウェアが仕込まれていないかを調査する。

3-1. chipsec を使った改ざんチェック

chipsec はUEFIの異常を検知する機能もある。

手順:

sudo python chipsec_main.py -m tools.uefi.uefi_whitelist

これで既知のUEFIイメージと比較して、不審な変更がないかをチェックできる。

3-2. YARA を使ったUEFIマルウェアのスキャン

YARAはマルウェアのパターンを検索するツールで、UEFIの中に既知のマルウェアがないかを調べる。

手順:

  1. YARAをインストール sudo apt install yara

  2. 既存のUEFIマルウェアのルールを適用(例:BlackLotus のシグネチャ) yara -r uefi_malware_rules.yar uefi_dump.bin


4. セキュアブート & ログの解析

UEFIの改ざんを検知するもう一つの方法として、OSレベルのログを調査するのも有効よ。

4-1. Windows Event Log の確認

Windowsなら、UEFI関連のイベントログが残っていることがある。

手順:

  1. イベントビューア を開く

  2. アプリケーションとサービスログ > Microsoft > Windows > Kernel-Boot に移動

  3. Event ID 112(セキュアブートの無効化)や Event ID 1001(UEFIブートエラー)を探す

4-2. efibootmgr を使ったLinuxでのチェック

Linuxなら efibootmgr を使ってUEFIの設定を確認できる。

手順:

sudo efibootmgr -v

ここで、不審なブートエントリーがないかチェックする。


5. UEFIの修復・対策

もしUEFIが改ざんされていた場合、修復が必要になるわ。

5-1. UEFIのリカバリー

最も確実なのはメーカー提供のクリーンなUEFIイメージに書き戻すことね。

手順:

  1. メーカー公式サイトから最新のUEFIファームウェアをダウンロード

  2. flashrom を使って書き込み sudo flashrom -p internal -w clean_uefi.bin

5-2. TPM & セキュアブートの有効化

UEFIマルウェアの多くはセキュアブートを無効化して悪用するから、これを再有効化するのも重要。

手順:

  1. UEFI設定画面に入る(F2 や Del で起動時に入る)

  2. Secure Boot を有効化

  3. TPM 2.0(Trusted Platform Module)が有効になっているか確認


6. まとめ

玲奈は手を組んで、少し微笑んだ。

「UEFIフォレンジックは、普通のOSフォレンジックと違って、より低レイヤーの戦いになる。通常のログ解析だけじゃ不十分で、ファームウェアレベルでの検証が必要よ。だから、まずはUEFIのダンプを取得して、バイナリを徹底的に解析すること。マルウェアの兆候を見つけたら、イベントログやブートエントリーを調べて、異常な動作がないかをチェックする。最後に、クリーンなUEFIを書き戻して、TPMやセキュアブートを有効化して防御を固める。これが王道ね」

玲奈はノートPCを閉じ、軽く肩をすくめた。

「ま、UEFIに手を出すような奴は、相当手練れだからね。戦うなら、それ相応の覚悟はしておくことね」


仮想事例 - 「UEFI戦争」

 玲奈はノートPCの画面を睨んでいた。
スクリーンにはUEFIToolのログが流れている。

DXE Driver detected: Unrecognized module - UUID 8EFA034F-DF40-4A4C-B79F-505C999D29B0

「……いたわね」玲奈は低く呟いた。

 UEFIの改ざんを示す証拠。
 DXE(Driver Execution Environment)フェーズで、不審なドライバが仕込まれていた。

 玲奈は手元のchipsecを走らせる。

sudo python chipsec_main.py -m tools.uefi.uefi_whitelist

[!] WARNING: Unknown module detected in DXE phase
Potential persistence threat detected

「やっぱり、こいつ……OSのブート前に実行されるように仕込まれてる」

 玲奈は冷静にキーボードを叩いた。
攻撃者の狙いは明白だった。

 OSがロードされる前にUEFIレベルでマルウェアを実行し、完全にステルスなバックドアを仕込む
 Windowsをクリーンインストールしようが、SSDをフォーマットしようが、このUEFIマルウェアは生き残る。
いわゆる「ブートキット(Bootkit)」だった。

「くそったれ……BlackLotusの亜種かもしれないわね」

 玲奈は腕を組んだ。
 これは通常のフォレンジックの範疇を超えている。
 OSレイヤーでの対応は無意味。ファームウェアごと焼き直さない限り、この侵入者は消えない。

 玲奈は深く息を吸い、マシンのTPMステータスを確認した。

tpm2_getcap properties-variable | grep TPM2_PT_PERSISTENT

[!] WARNING: TPM disabled

「……なるほどね。セキュアブートも、TPMも殺してから仕込まれたってわけ」

 敵は用意周到だった。


対抗策:UEFIを奪還せよ

 玲奈は戦術を組み立てた。

  1. UEFIのファームウェアを完全ダンプし、改ざん箇所を特定

  2. ブラックリストに載っていない未知のコードを解析

  3. 攻撃者の署名が残っているか調べる

  4. ファームウェアをクリーンイメージで書き直す

  5. TPMとセキュアブートを再設定し、二度と侵入させない

 玲奈は速やかにflashromを起動した。

sudo flashrom -p internal -r infected_uefi.bin

 数秒後、ダンプが完了する。

 玲奈は即座にbinwalkでバイナリの中身を調査する。

binwalk -e infected_uefi.bin

Unrecognized section: PE32 executable (DXE phase)

「やっぱり」
 コードの一部が改ざんされ、新しいDXEドライバが挿入されていた。

 玲奈はUEFIToolで開き、不審なモジュールを見つけ出す。
 通常のUEFIにない、新しいドライバが追加されている
 UUIDは知らないものだが、似たパターンのマルウェアを調べると昨年報告されたUEFIブートキットの一部と一致していた

「……これ、リモートでC2サーバーと通信する機能があるわね」

 マルウェアのコードを見つめる。
 OSが起動する前に、UEFIレベルでネットワーク通信を開始し、攻撃者のC2(Command & Control)サーバーと接続する仕組み。
 OSに一切の痕跡を残さず、バックドアを維持するという極悪仕様。

 玲奈は肩をすくめた。

「そんなもん、許すわけないでしょ」


逆転:完全なUEFIリストア

 玲奈はメーカー公式のUEFIファームウェアをダウンロードする。

clean_uefi.bin

「こいつを焼き直して、完全に仕留める」

sudo flashrom -p internal -w clean_uefi.bin

 書き込みが始まる。
 UEFIレベルの敵を駆逐する唯一の方法——それは、クリーンなイメージで塗りつぶすこと。

 玲奈は腕を組んで、書き込みの進捗を見つめる。

 数分後、完了のメッセージが表示された。

Verifying flash... VERIFIED.

「……終わった」

 玲奈は再起動し、UEFI設定画面に入る。
 TPMを有効化し、セキュアブートを再設定

sudo tpm2_activatecredential -c owner -C endorse -i clean_key -o secured

 すべての対策が完了した。

 玲奈はゆっくりと目を閉じ、静かに呟いた。

「これで、もう二度と侵入させない」

 PCは沈黙していた。
 だが、それは平穏の証だった。

 UEFIフォレンジック戦争——完勝。


付録:メーカー自身が意図的に組み込んだバックドア

玲奈は静かに画面を見つめていた。
UEFIのダンプログが流れ、そこに記された不審なコード。
玲奈は腕を組み、軽く息を吐いた。

「……知ってる? UEFIの脆弱性って、サイバー犯罪者だけのものじゃないのよ」

玲奈は画面を指差した。

「これ、よくあるUEFIの改ざんコードね。でも、もっと厄介なのは、こういうのがメーカー自身によって意図的に仕込まれることがあるってこと」

玲奈はキーボードを叩き、スクリーンに別のログを表示させた。

Hidden Debug Mode Detected: Manufacturing Mode Active

「例えば、隠されたデバッグインターフェース。一部のPCには、メーカーの製造テスト用にUEFIの特権モードが隠されてる。これが悪用されると、管理者権限をバイパスして、UEFIを書き換えることができるのよ」

玲奈は眉をひそめた。

「そして、もうひとつヤバいのが、Intel ME(Management Engine)やAMD PSP(Platform Security Processor)。OSよりも先に動く、独立したマイクロコントローラ。これが侵害されたら……もう何をやっても無駄ね」

玲奈は手を止め、しばらく考え込むように視線を落とした。

「これだけじゃない。リモート管理機能の悪用、Secure Bootの鍵漏洩……。2016年にはMicrosoftのSecure Bootの鍵が流出して、どんなUEFIコードでも署名を通過できる状態になった。つまり、誰でもUEFIレベルでマルウェアを仕込めるようになった

玲奈は目を細め、静かに呟く。

「こういうの、どこまで"脆弱性"で、どこからが"意図的なバックドア"なのか……境界線が曖昧なのよ」

玲奈は軽く椅子の背に寄りかかると、天井を見上げた。

「それじゃあ、どうやって対抗するか――」

玲奈は再び画面を見つめ、指をすべらせる。

オープンソースのファームウェアに入れ替えるって手がある。CorebootとかLibrebootとかね。Intel MEもme_cleanerを使えば部分的に無効化できる。でも……完全に消すのは難しい

玲奈はわずかに微笑んだ。

「結局、一般のPCってのは、メーカーが完全に掌握してるのよ。本当に"クリーン"なハードウェアを使おうと思ったら、自分でファームウェアを書き直すか、特定のセキュリティ特化PCを使うしかない」


1. メーカーが設定したバックドアの種類

(1) Hidden Debug Interfaces(隠されたデバッグインターフェース)

  • 一部のUEFIファームウェアには、メーカーや開発者向けの隠しデバッグモードが存在する。

  • これが悪用されると、特定のコマンドを送るだけで管理者権限でUEFIを操作できる

例: Intelの製品に存在した「Manufacturing Mode」

  • 特定のUEFI設定を変更せずにリモート操作が可能だった。


(2) Intel ME(Management Engine)やAMD PSP(Platform Security Processor)の存在

  • Intel ME(Management Engine)とAMD PSP(Platform Security Processor)は、CPUとは独立して動作する独自のマイクロコントローラ

  • これらのモジュールはOSよりも先に動き、ハードウェアの完全な制御を握る。

  • 一部の政府機関は、Intel MEを無効化するカスタムBIOSを使用している(例: PurismのLibremノートPC)。


(3) Remote Management(リモート管理機能)

  • 企業向けのPCでは、IntelのAMT(Active Management Technology)のようなリモート管理機能が搭載されている。

  • これが悪用されると、OSが起動する前に外部からPCを完全制御できる。

悪用事例:

  • 2017年に発覚した「Intel AMTの未認証リモートアクセス脆弱性」(CVE-2017-5689)は、ネットワーク経由でPCをフルコントロール可能だった


(4) Secure Bootの鍵漏洩

  • Secure Bootは、本来「未承認のUEFIコードをブロックする」ためのもの。

  • しかし、マスターキー(プライベートキー)が漏洩した場合、どんなUEFIコードでも認証を通過してしまう

例: MicrosoftのSecure Bootの鍵漏洩(2016年)

  • Golden Key」と呼ばれるバックドアが存在し、マルウェアが署名付きUEFIコードを実行できる状態になった。


2. これらのバックドアを防ぐ方法

「メーカーが仕込んだバックドアだから防げない」と思うかもしれないけど、対策は存在する

(1) CorebootやLibrebootのようなオープンソースBIOSを使う

  • 既存のUEFIを捨て、完全にオープンソースのファームウェアに入れ替える。

  • ただし、サポートするハードウェアが限られる。

(2) Intel ME/AMD PSPを無効化する

  • Intel MEは「me_cleaner」を使うことで一部機能を無効化できる。 sudo python me_cleaner.py -S -r firmware.bin -w cleaned.bin

  • ただし、完全に無効化するのは難しく、メーカーごとに対策が異なる。

(3) UEFIファームウェアのロックダウン

  • 一部のBIOS設定で、Secure Bootの鍵を手動で管理できる。

  • 可能なら、Secure Bootを完全にカスタム鍵に変更して、メーカーの鍵を排除する。

(4) 物理的なハードウェア改造

  • Purismの「Librem」シリーズのように、Intel MEをハードウェア的に無効化したPCを使う

  • これは一般のPCでは難しいが、セキュリティを徹底したい場合には検討の余地がある。


3. 結論

UEFIレベルのバックドアは、攻撃者だけでなく、メーカー自身が仕込んでいる可能性がある
これを完全に防ぐのは難しいけど、オープンソースBIOSやIntel MEの無効化、UEFIのカスタム鍵管理である程度リスクを抑えられる。


玲奈は画面を閉じ、静かに言った。

「……ま、どこまで疑うかは自分次第だけどね」

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