【AI文学】年賀状
文学の原始的な衝動は納得が行かない現実だということです。
ChatGPTはこんなしょうもないネタも何とか読めるぐらいにはしてくれるので大したものです。まぁ読まされる方はエラい迷惑だとは思いますが。
新年の静けさに包まれた朝、一郎のもとに一通の年賀状が届いた。差出人は大学時代の先輩、山岸昭一。卒業後、彼が遠隔地の研究施設に移ったことは聞いていたが、それ以来一度も会うことはなかった。
年賀状には印刷された文面。平凡で無味乾燥な挨拶が並んでいたが、その下には、手書きでこう記されていた。
その文字を見つめた瞬間、一郎の胸に奇妙な感覚が広がった。大学時代、山岸とはそれほど親しい間柄ではなかった。講義や研究室で挨拶を交わした程度。思い返しても、何か特別な会話をした記憶はない。
「どうして急に…」
それまでにも、ここ数年、彼からの年賀状は欠かさず届いていた。しかし、そこに特別な意図を感じたことはなかった。ただの形式的な挨拶だと思っていたのだ。それが急に「東京近郊」という具体的な情報を伴うようになった。
「わざわざ知らせてくる理由があるのか…?」
疑問が浮かんだが、それを確かめる手段は一つしかない。一郎はその場で訪問を決意した。
4月、一郎は東京近郊の研究施設を訪れた。施設の外観は近代的で冷たく、どこか威圧的だった。受付で山岸昭一の名を告げると、職員は即座に案内してくれた。
案内された部屋のドアを開けると、中には一人の男性がいた。背中を向け、何かに集中している様子。その姿を見た瞬間、一郎の中で時間がわずかに軋んだような感覚がした。
振り返った顔は間違いなく山岸昭一だった。だが、その目の奥に宿る光は、大学時代の記憶の中にある彼のものと微妙に違っていた。
「ああ、庄司君か。久しぶりだね」
柔らかい笑みを浮かべながら山岸はそう言った。その声には懐かしさが込められているようだった。しかし、一郎の胸に広がるのは、懐かしさではなく、説明のつかない違和感だった。
「先輩、お久しぶりです。東京近郊に異動されたと年賀状に書いてあったので、挨拶に伺いました」
一郎が言葉を紡ぐと、山岸は静かに頷いた。
「わざわざ来てくれて嬉しいよ。こうして会うのは本当に久しぶりだね」
その声は穏やかだったが、どこか「用意された」もののようにも感じられた。まるで、何度も反復練習された言葉を口にしているかのように。
「そういえば、毎年年賀状をいただいてましたけど、どうして急に送るようになったんですか?」
一郎が問いかけると、山岸は一瞬だけ目を伏せた。
「君のことをふと思い出したんだ。それで、何か繋がりを持ちたいと思ってね」
その答えに一郎は首をかしげた。記憶をたどっても、自分たちに特別な関係があった覚えはない。それなのに、この先輩は確かに自分の名前を記憶している。
「でも、どうやって俺の住所を調べたんですか?」
山岸は微かに笑みを浮かべた。
「過去の記録をたどったんだろうね。正直、詳しいことは覚えていない。ただ、君に送るのは自然なことだと思ったんだ」
「大学時代、先輩と話した記憶がほとんどないんですが…」
一郎が口にすると、山岸は少しだけ眉をひそめた。
「そうかもしれないね。でも、僕には君のことがよく印象に残っている」
「どんなところが、ですか?」
山岸はしばらく考える素振りを見せた後、静かに答えた。
「図書館での君の姿が忘れられない。君はいつも何かを探していた。その姿が、なぜか目に焼き付いているんだ」
その言葉を聞いた瞬間、一郎の頭に記憶の断片が蘇った。確かに、自分は図書館で多くの時間を過ごした。しかし、そこに山岸がいた記憶はない。彼の言葉が真実だとすれば、自分の記憶が欠けていることになる。
「俺が何かを探していた…?」
一郎の問いかけに、山岸は静かに頷いた。その表情は、何かを達観しているようでもあり、同時に深い哀しみを湛えているようにも見えた。
山岸は言葉を続けた。
「記憶というのは曖昧だ。僕が見た君の姿と、君が覚えている自分の姿が一致しないのは当然だよ。それでも、どちらも真実なんだ」
「真実…」
一郎はその言葉を噛み締めた。
「じゃあ、俺の記憶が間違っているってことですか?」
「いや、君の記憶も僕の記憶も、それぞれが正しい。ただ、記憶というのは断片的なものだから、全てが繋がっているわけではない。それはむしろ、人間が持つ限界だと思うよ」
その言葉は、一郎の胸に深い影を落とした。自分が確かだと信じていた記憶が、実は不確かであり、それでもなお自分を形作る基盤であるという矛盾。それは、現実という地面が足元から揺さぶられる感覚に似ていた。
「先輩の記憶が正しいのか、俺の記憶が正しいのか、どうやって確かめればいいんですか?」
山岸は小さく首を振った。
「確かめる必要なんてない。記憶は証明するものではなく、感じるものだから」
その言葉は、一郎にさらなる混乱を与えた。だが、同時に何かを解放されたような感覚もあった。
施設を後にした一郎は、駅に向かう夜道を歩いていた。冬の冷たい風が頬を撫でる中、ふと立ち止まって夜空を見上げた。
星がいくつか瞬いている。その光は確かにそこにあるはずだ。だが、それが本当に自分が見ている光なのか、それとも記憶の中のイメージなのか、一郎には分からなくなってきた。
「俺は…本当に先輩に会ったのか?」
その疑問は、一郎の胸に小さな漣を立てた。そしてその漣が波紋を広げるように、彼の中で現実と記憶の境界が滲んでいった。
足元に視線を落とすと、自分の影が妙に薄く感じられた。その影が自分自身のものなのか、それとも誰かの記憶が投影されたものなのか――その答えも曖昧だった。
振り返ると、背後の道は暗く、誰もいない。それでも、一郎はそこに何かの気配を感じていた。
「記憶とは何だろう…」
一郎は呟いた。その声は夜風に乗ってかき消された。彼が見ている現実は確かだと信じたかったが、その信念すら自分の記憶によるものだと気づいた瞬間、全てが曖昧に揺らぎ始めていた。
星空が、風が、そして道端に落ちる影が――それらすべてが確かでありながら、同時にどこか現実感を欠いていた。
「俺の記憶が形作る現実と、先輩の記憶が形作る現実。そのどちらが本物なんだろう」
その問いは答えを求めるものではなかった。ただ、静かに夜の闇へと溶け込んでいった。
終