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【AIショートストーリー】駐輪場

ショッピングモール開発部の会議室——そこはいつも、時代の先を行くはずの議論が交わされていた。はずだった。

「今、世の中はエコですよ、エコ!」
営業担当の田中が、どこかのマーケティング記事を片手に熱弁をふるっている。「若者の間では自転車通勤が急増してるんです!未来のモールは『歩いて・こいで・楽しむ』がトレンドなんです!」

「それ、都心の話じゃないの?」と、設計チームの鈴木が冷静なツッコミを入れる。
しかし、プロジェクトリーダーの課長はすでに心ここにあらず。スライドに映し出された「自転車ブーム到来!」の文字にすっかり魅了されていた。

「これはイケるな……!」課長は決断した。「敷地の3割を駐輪場にしよう!」

「3割!? ちょ、課長、それちょっと広すぎませんか?」
「いやいや、時代の波に乗り遅れたくないだろ?車の時代は終わるんだよ、鈴木くん」

こうして、誰もがうっすら不安を抱きつつも、プロジェクトは推進されていった。モールの広大な駐車場の片隅に、まるで小規模な空港の滑走路のような駐輪スペースが誕生した。


そして、オープン初日。
モールの関係者は固唾をのんで、駐輪場を見つめていた。期待に胸を膨らませる田中、冷めた目で見る鈴木、どっしり構える課長。

結果——来場者は車で続々と押し寄せ、駐輪場には3台の自転車
しかもそのうち1台は警備員のものだった。

「え……?」
課長の目が泳ぐ。「今日はまだ初日だからな。これからだ、これから」
だが、その「これから」は永遠に訪れることはなかった。


数ヶ月後——会議室では責任のなすりつけ合いが繰り広げられていた。

「田中くん、君が自転車ブームって言ったよな?」
「い、いや、それはネットのデータが……」
「鈴木くん、君は反対しなかったよな?」
「いや、僕、すごいツッコんだんですけどね?」

誰もが目を逸らす中、課長はただ一点を見つめていた。そう、モールの端に広がるガランとした駐輪場を。

「……なあ、ここ、屋台とか置いたらどうかな?」

こうして、無駄に広かった駐輪場は、フードフェスの会場として再利用されることとなった。皮肉なことに、そこには毎週大勢の人が集まり、自転車は一向に増えなかった。

「これが時代を先取りするってことだ……!」
課長はビール片手にそう呟いた——満面の笑みで。

(終)

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