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【AI文芸 シリーズカフェテラスにて】監視

渋谷駅南口のカフェテラス。

午後の光が渋谷川の水面に反射し、穏やかな風が通り抜ける。
駅前の喧騒とは対照的に、この一角だけは少し落ち着いた空気が漂っていた。

男はブラックコーヒーを片手に、カフェの椅子に深く腰掛ける。
何気ない素振りで周囲を見渡し――そして、公安の視線を感じ取る

「……相変わらずだな」

ぼそりと独り言を呟く。

向こうのテーブルに座る男が、スーツ姿で静かにコーヒーを飲んでいた。
一見、ただの会社員に見えるが――違う。

公安独特の「場への溶け込み方」が雑だった。
それに、こんな場所で一人で静かにしているビジネスマンなど、ほとんどいない。

この男は監視している。

(さて、どう揺さぶってやろうか)

男はカップを口に運びながら、さりげなく言葉を発する。

「……公安も、大変だよな」

公安の男の手が、一瞬止まる。

(聞いてるな)

「今の時代、“監視の精度”を上げるのが難しいんじゃないか?」

「昔はもっとシンプルだった。敵か味方か、分かりやすかった」

「でも今は、“公安の役割”自体が曖昧になってきてる」

スプーンが小さくカップに当たる音がした。

(いい反応だ)

男は表情を変えず、あくまで独り言を続ける。

「それにしても、何十年も公安に張りつかれるってのも、なかなか奇妙な話だよな」

公安の男がページをめくるフリをするが、指の動きが微妙にぎこちない。

「最近の公安って、監視対象の基準が緩くなったよな」

「“監視しやすい奴”を監視するようになった」

「だって、“本当に危険なやつ”は姿を見せないし」

公安の男が、微かに足を組み直した。

(怒りを抑えているのがバレバレだ)

男はコーヒーを飲み干し、さらに続ける。

「まあ、仕事としては仕方ないのかもしれないけど……結局、“公安の監視”って、“公安自身を安心させるためのもの”なんじゃないか?」

「“俺たちは仕事してる”っていう証拠が必要だから、適当な相手をマークする」

「でも、それって本当に意味があるのかな?」

公安の男の指が、軽くテーブルを叩いた。

反論したいはずだ。
だが、ここで何か言えば、それこそ「監視している」と認めることになる。

(さあ、どうする?)

男はゆっくりカップをソーサーに戻した。

「……まあ、どうでもいいか」

公安の男が一瞬、こちらを見た。

「だって、俺みたいな一般人を監視しても、大した成果はないだろ?」

「“本当にやばい奴”は、公安の目なんか気にしてないしな」

公安の男が拳を握るのが見えた。

しかし、その瞬間――

男は立ち上がり、ゆっくりと時計を見た。

「ああ、そろそろ行くか」

公安の男の視線を感じながら、会計を済ませる。

(さて、次はどこでやろうかな)

カフェを後にし、渋谷川沿いを歩く。

公安は監視する。
だが、監視されていると気づいた瞬間――

彼らは「観察者」から「対象」に変わる。

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