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【AI文学】風の食堂


【1】移住と夢の始まり

最初に田舎の物件を見つけたとき、心が踊った。
築80年の古民家。
太い木の梁が天井に走り、土間には懐かしい匂いが残っている。
庭には柿の木が立ち、裏には小さな畑があった。

「ここでレストランをやるんだ。」

都会での仕事に疲れ、人生を変えたかった。
オーガニックの野菜、地元の米、無添加の食材。
「本物の食を提供する店を作りたい」
その思いだけで、この土地に移住した。

改装は地元の大工に頼んだ。

「いやあ、こんな古い家、よく買ったねぇ」
大工の山崎さんが笑った。

「ここ、昔は雑貨屋だったんだよ。おばあちゃんが一人でやっててさ。懐かしいなあ」

壁を塗り直し、梁を活かしながらカウンターを作る。
厨房には薪ストーブを設置し、鉄鍋を使うスタイルにした。

店の名前は「風の食堂」。

開店前から地元紙に取材され、「都会から来たシェフの挑戦」として取り上げられた。
SNSでも「素敵な場所ですね」「絶対行きます!」とコメントが並び、確信した。

「成功する。」

【2】英雄扱いの日々

オープン前、商工会の集まりに呼ばれた。
地元の有力者たちが、俺を歓迎してくれた。

「いやあ、こんな店ができるなんて、町の誇りだよ!」
「田舎の良さを活かしたレストラン、素晴らしい!」

地元紙のインタビューでは、俺のことを 「地域活性化の旗手」 みたいに書いてくれた。
「都会の料理人が田舎に新たな風を吹き込む!」
SNSでは「地元食材を活かしたオシャレな店ができるらしい!」と話題になった。

町の人たちも「今度絶対行くよ!」と言ってくれたし、
役場の職員も「町のために頑張ってください!」と声をかけてくれた。

このときは、本当に「成功する」と思っていた。

【3】田舎の現実

オープン初日、店は満席だった。
町の人々が興味津々でやってきて、東京からも「話題の店」として客が訪れた。

「ここの野菜、本当に美味しいですね!」
「この雰囲気、最高です!」

だが、日が経つにつれ、客足は減っていった。

田舎では「一度行けば十分」という人が多かった。
都会の客も、最初は来るもののリピートは少なかった。

【4】英雄から「よそ者」へ

開店から2ヶ月が過ぎると、店の話題は次第に地元の人々の間で薄れていった。

ある日、商工会の集まりに顔を出したとき、前とは雰囲気が違った。

「いやぁ、行ってみたけど、ちょっと高いよな」
「オシャレすぎて、俺らには合わないかもな」

俺に直接言うのではなく、酒を飲みながら笑って話している。
その場にいた地元の有力者も、「まあ、都会の人の感覚だからね」と苦笑していた。

かつて歓迎してくれた人たちは、もう「町の誇り」とは言わなくなっていた。
俺はただの「都会から来た人」になったのだ。

冬が来ると、さらに厳しくなった。
雪で道が閉ざされ、客は激減。
仕入れた食材が余り、廃棄せざるを得ない日が増えた。

ある日、常連の農家の爺さんが店に来た。

「お兄さん、冬は大変だろう?」

「ええ…想像以上です。」

爺さんは、渋茶をすすりながら言った。

「昔からな、この町じゃ飲食店は長続きしねぇ。冬はみんな家にこもるしな。」

「それ、もっと早く聞きたかったですね…」

爺さんは笑った。

「言ってもやるだろ? みんなそうさ。」

俺は、その通りだと苦笑した。

【5】終わりの日

ある日、気づいた。
通帳の残高が、危険なレベルにまで減っていた。

「半年以内に売上が回復しなければ、もう持たない。」

そして、俺は決断した。
レストランを畳むことにした。

地元の人は「そうかぁ、寂しくなるな」と言ったが、
本当に寂しいと思ってくれていたのかどうかは、分からない。

家具も調理器具も、すべて売り払った。

「この土地に、俺の未来はなかったんだ。」

【6】都会の夜、居酒屋にて

東京に戻った俺は、居酒屋のカウンターで一人、酒を飲んでいた。
ネオンがにじみ、隣のテーブルからは会社員の笑い声が聞こえてくる。

スマホを取り出し、「風の食堂」のInstagramを開いた。
最後の投稿には、いくつかのコメントがついていた。

「残念です… またどこかで再開してくださいね!」
「あの味が忘れられません。また行きたかったな。」

スクロールすると、一番最初の投稿が出てきた。
開店準備の写真。
改装中の古民家の写真。
期待に満ちた自分の笑顔。

「俺、何やってたんだろうな…」

一口、酒を飲む。
舌に広がるのは、懐かしい味。

田舎の風の匂いは、もう思い出せない。
けれど、俺の作ったあの店は、確かにそこにあったのだ。

「もう一度、やれるだろうか…?」

そう思いながら、俺は静かにスマホの画面を閉じた。

(エンド)

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