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【AI文学】踏切不停止

それは11月の夕方だった。時計の針は5時それは11月の夕方だった。時計の針は5時を少し過ぎていたが、外はもう夜中のように暗かった。冷たい空気がガラスを曇らせ、車内はわずかに湿気を帯びている。ヘッドライトが照らす道はひっそりとしていて、人影もほとんど見当たらない。

ぼんやりと前の車を追いながら、踏切に差し掛かった。遮断機は上がっていて、遠くには電車の気配すらない。いつもならここで一旦停止するのに、そのときの僕は何故かそのまま進んでしまった。

しばらく走っていると、突然バックミラーに赤い光が映った。パトカーだ。次の瞬間、マイクを通した警察官の声が響いてくる。

「前方の車両、路肩に停車してください」

その声が冷たい夜の空気に混じり、胸にじわりと重くのしかかった。すぐにウインカーを出し、路肩に車を寄せる。エンジンを切ると、外の寒さがじわりと車内に侵入してくるような感覚がした。

警察官がパトカーから降りて、ゆっくりとこちらに近づいてくる。その足音が妙に大きく聞こえる。

「こんばんは。運転手さん、一旦停止しませんでしたね」

窓を開けると、警察官が覗き込むようにして話しかけてきた。その声は落ち着いていたが、どこか威圧感があった。僕は何も言わず、小さく頷く。

「免許証をお預かりします」

淡々とした言葉に従い、免許証を手渡す。しばらくの間、警察官は車の中で手続きを進めている様子だった。僕は運転席に座ったまま、冷え切った空気が肺の中に入るのを感じていた。視線は自然とフロントガラス越しの暗い道に向けられていたが、何も見えない。ただ、時間が過ぎるのを待つしかなかった。

やがて、警察官が戻ってくる。書類を手に持ち、窓の外で説明を始めた。

「こちらが違反切符です。内容をご確認ください。反則金は〇〇円、支払い期限は〇〇日です」

僕は反射的に頷いたが、説明が続く間、自分の中で小さな苛立ちが募っていた。こんな田舎で、電車なんて滅多に来ないのに。少しぐらい見逃してくれてもいいじゃないか。けれど、そんな考えが顔に出ないように努めた。

「押印をお願いします。拇印でも印鑑でも構いません」

書類を渡され、僕は無言でポケットから三文判を取り出した。軽く朱肉をつけて押すと、警察官は一瞬だけ書類を見つめ、何も言わずにそれを受け取った。

「これで手続きは完了です。安全運転を心がけてください」

その一言は、事務的でありながらどこか響くものがあった。胸に残るのは、納得できない気持ちと、どこかで諦めた自分自身への苦笑だけだ。

エンジンをかけ直し、再び車を走らせる。バックミラーに映る赤い光が徐々に小さくなり、やがて暗闇に消えていった。

踏切を越えた道は、ますます深い静寂に包まれていた。

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