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【AIショートストーリー】KY-01 - 空気を読むAI
「……で、どうする?」
沈黙。会議室には六人の大人が座っている。だが、誰も言葉を発さない。発言すれば地雷を踏むかもしれない。誰もがそれを警戒していた。
その時だった。部屋の隅に置かれた黒いスピーカーが、小さくノイズを鳴らした。
「状況を解析しました。現時点での最適解を提示します」
一斉に視線が集まる。企業が導入した**「KY-01」**――空気を読むAI。場の雰囲気を解析し、最適な発言を導き出すシステムだ。
「……KY-01、どういうことだ?」
「現在、皆さんは会議が膠着状態に陥るリスクを回避しようとしています。しかし、全員が慎重になりすぎた結果、会議の生産性が著しく低下しています」
ピッ。ホログラム画面に、場の空気指数が表示される。
「警戒度 87% / 発言リスク 92% / 沈黙持続時間 48秒」
「……そこまでデータ出るのかよ」
「もちろんです」
KY-01の声は淡々としていた。だが、次の瞬間、空気が変わる。
「現在、最も安全に発言できるのは……田村課長です」
「えっ?」田村が硬直する。
「田村課長の発言リスクは27%と低めです。特に、穏当なジョークを交えつつ、方向性を示唆する発言を行うことで、場の空気を柔らかくしつつ議論を前進させることが可能です」
「……いやいや、俺ジョークとか苦手なんだけど」
「大丈夫です。適切なジョークを提供します」
KY-01が一瞬沈黙した後、発した言葉は――
「この会議、まるで沈黙の艦隊ですね。……もっとも、艦長不在ですが」
「……」
微妙な間が空いた。だが、その後、クスリと笑う者が出始めた。場がほぐれる。誰かが小さく息をつく。
「……まあ、確かに何か言わないと進まんか」
田村課長が口を開く。会議が再び動き出す。KY-01は、それを確認すると、静かにシステム待機モードに入った。
「本AIは、場の空気を読むだけではありません。時には、空気を変えることも可能です」
場の空気を読むAI。だが、それは、単に「流れに従う」ものではない。空気とは、読むだけではなく、創るものなのだ――。