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【AIショートストーリー】責任
海辺の別荘のソファに深く沈み込みながら、彼はウイスキーのグラスを手にしていた。氷が静かにカランと音を立てる。窓の外には、静かな夜の海が広がっている。
テレビのニュースは、彼の辞任を淡々と報じていた。
「今回の件について、すべての責任は私にあります」
画面の中の彼は、まるで英雄のように振る舞っている。視聴者が求める“誠意”を完璧に演じ切った顔だった。
秘書が部屋の片隅に控えていた。「大臣、世論の反応は概ね好意的です。『潔い』『責任感がある』という意見が大半を占めています」
彼は淡々と頷いた。「そうか。わかりやすい“答え”を出してやれば、満足するもんだ」
「しかし……法的責任について問われる可能性は?」
彼は鼻で笑った。「問われるわけがない。ちゃんと手は打ってある」
秘書は少し不安げに言った。「それでも……一部のジャーナリストが執拗に追及してくるかもしれません」
彼はグラスの中の氷を揺らしながら、ゆっくりと口を開く。「そんな連中は、別のスキャンダルを投げてやればすぐに飛びつくさ。政治家が責任を取るなんてのは、ただのパフォーマンスだってことを、奴らはよく知ってる」
秘書は口をつぐんだ。彼がどこまで計算して動いているのか、すべてを知る必要はないということを理解していた。
「それに……」彼はグラスを傾けながら、静かに続ける。「この国の奴らは、“誰かが責任を取った”っていう事実が欲しいだけなんだよ。中身なんか、誰も見ちゃいない」
「……確かに」秘書は小さく頷いた。
彼は満足そうに微笑んだ。「“責任”なんてものは、見せるもんだ。本当に取る必要はない。そうだろ?」
秘書は答えなかった。ただ、次に進むべき道を指示されるのを待つだけだった。
彼は立ち上がり、窓の外の静かな海を見つめた。どこまでも続く闇が、彼の心の奥底とよく似ていた。
「さて……次のステージへ行くか」
氷がカランと鳴った。彼はグラスを置き、静かに微笑んだ。