【AIショートストーリー】彼は責任が取れるのか？

閣議が終わったばかりの官邸の廊下。彼はスーツの袖口を整えながら、記者会見の前に少しだけ息をついた。スマートフォンには批判のコメントが溢れかえっている。見慣れた光景だ。

「大臣、お時間です」

秘書官が控えめに声をかける。彼は微笑を浮かべ、歩き出す。「責任を取れ、か……今日はどんな質問がくる？」

秘書官は手元のメモを確認しながら答えた。「やはり、国民は辞任を求める声が強いです。それに加えて、SNSでは“責任の形を示せ”という意見も多く……」

彼は苦笑した。「責任の形、ね。相変わらず、みんな“答え”が欲しいんだな」

会見場に入る直前、彼はふと立ち止まった。「なあ、お前は責任を取るってどういうことだと思う？」

秘書官は少し考えてから答える。「問題が起きたら、その結果を受け止めること、でしょうか」

彼は少し首を傾げる。「結果を受け止める……それだけか？」

「はい、そして必要なら、謝罪して、辞任して――」

彼は小さく笑った。「つまり、自分が消えれば済む話ってことか？」

秘書官は言葉に詰まる。「それは……世論が求めることですし」

「違うな。責任を取るっていうのは、問題の責任を押し付けられる“役”を演じることだよ。誰かが悪者になれば、みんな安心する。だから、俺が辞めれば、しばらくはみんな満足するだろう。でもな……」

彼はスマホの画面を開き、炎上しているコメントを見せた。「この騒ぎも、数カ月後には次のターゲットに移るんだ」

秘書官は少し目を逸らした。「……では、大臣は何をされるおつもりですか？」

彼はポケットから飴玉を取り出し、口に放り込んだ。「責任を取るってのは、適切なタイミングで“舞台を降りること”さ。問題が収束した頃に、潔く消える。そうすれば、俺の名前は『責任を取った政治家』として残る。これが、一番スマートなやり方だ」

秘書官は驚いたように彼を見た。「……それで、本当にいいんですか？」

彼は飴を舐めながら答えた。「何を言ってるんだ。俺はちゃんと責任を取るよ。“彼ら”の望む形で、な」

会見場のドアが開く。彼は微笑を浮かべながら、フラッシュの光の中へと足を踏み入れた。

数分後、彼の辞任表明がニュース速報として流れ、国民は一斉に歓声を上げた。翌週には、SNSのトレンドはすっかり別の話題に移り変わっていた。

彼は海沿いの別荘で、テレビを眺めながら小さく笑った。「責任、取ったよな？」

グラスの氷がカランと鳴った。