【AI小説断章】フェーズ4
秘密工作班「オブリビオン」。存在しないとされるこの組織は、国家のために法を超えて任務を遂行する。だが、どんな違法行為も許される彼らに、一つだけ破れない鉄則があった。
「感染症法規制だけは、絶対に守れ」
その理由を知る者は少なく、誰もそれを口にしない。
とある住宅街で、ターゲットの男性を尾行していた班の一員、神田美咲は、無線越しに報告を続けていた。
「霧島さん、ターゲットが路地を曲がりました。紙袋を手に持ってます」
「追い続けろ。妙な動きをしたら報告しろ」霧島隼人が冷静に指示を出す。
美咲は慎重に距離を取りながら後を追った。ターゲットはふと立ち止まり、辺りを見回す。
「何かしようとしてる……?」美咲がそう思った瞬間、ターゲットが唐突に顔を上げ、派手なくしゃみをした。
「……」
「……霧島さん、くしゃみしました。結構派手に」
無線の向こうから溜息が聞こえる。「距離を取れ。それ以上近付くな」
美咲は思わず声を上げた。「でも、書類っぽいのを袋から出してポストに――」
「構うな!感染症法規制だ」
美咲は少し苛立ちながらも、指示に従うしかなかった。
後日、処理班がポストから回収した封筒を持ち帰り、封筒の宛先を確認したとき、美咲は思わず息を呑んだ。
「……宛先が、製薬会社じゃない。これ、政府の保健機関宛になってます」
霧島が資料を手に取り、黙ったまま封筒を眺める。その中には、製薬会社の研究資料が含まれており、「フェーズ4試験中止」の文字が目立つ形で記されていた。
美咲が尋ねる。「どういうことですか?研究資料を保健機関に送るなんて普通じゃありませんよね?」
霧島は視線を封筒から外さずに答えた。「……これが奴の目的かもしれない。だが、俺たちが深掘りすることは許されていない」
その夜、班全体での報告会が終わった後、美咲は霧島に言った。
「霧島さん、宛先まで確認したのに、これ以上調べないのはおかしいですよ。私たち、感染症法規制を守るって理由を知る権利くらいあると思います」
霧島は少し間を置いてから答えた。
「美咲、お前がそう思うのも無理はない。だが、俺たちは命令通り動く歯車だ。それ以上でも、それ以下でもない」
美咲は肩を落としつつも、心の中で小さな違和感を覚え続けていた。宛先に込められた意図。それは本当に合法的なものだったのだろうか?