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未開の山の、龍の願い
人間という生き物は、この地球上のありとあらゆる物を所有したがる。
土地に境を設けて国をつくっては、ここは自分の土地だ、ここは自分の海だ、ここは自分の山だ、
などということを遥か昔から繰り返している。
傷つけ合い、奪い合い、どれほど醜い争いを重ねてきたことか。
人間が誕生して以来ずっと見守ってきたが、ようやく所有の時代が終焉を迎え、分かち合いの時代が始まろうとしている。
私は古くから、ある山に居着いている龍だ。
人間に私の姿は見えまい。時折私のエネルギーを感じ取れる人間はいるようだが。
何故この山に居着くようになったのかは定かではないが、海も近く美しい場所でありながら、あまり人間も寄ってこない。
この場所に居心地の良さを感じ、ここを守りたいと思うようになったのだ。
当然この山にも持ち主の人間が存在している。
何代もの間、私がその人間を選んできた。なるべく山に興味も縁もない人物を。
できる限り人間に出入りさせず、この山をそのままの姿で守りたかったのだ。
所有という人間の欲望から遠ざける為に。
この国が令和という時代を名乗り3年になろうとしている。
そろそろまた次の持ち主を探す時が来ていた。現在の持ち主に寿命が近づいているのだ。
自分がいつこの世を去るのかなどという事は人間には分からぬはずなのに、この男は薄々感じ取っているようだ。
近頃、この山を誰に託すべきなのかと考えを巡らせている時間が増えた。
さて、私も動くとしよう。
この男の頭に浮かぶ人物たちを偵察にいく。私としてもこの山を託すのにふさわしい人間を選ばなくてはならない。
高く空に昇り男の頭に浮かんだ人物たちのエネルギーを感じ取る。
1人面白そうな男がいるではないか。
私はその男のそばへと向かった。
男は黄金のオーラを発していた。ただ者ではない。長いこと人間を見てきたがこのようなオーラを発する人間はそうそういない。
私はこの男に興味を持ちしばらく男のそばで様子を見ることにした。
男は人間としては、かなりの器を持っているようだ。
周囲の人間からの大きな信頼がある。暖かさと強さを男の心から感じ取れる。
どうやら自然に対して、地球に対して、敬意を持って接することも出来ているようだ。
私はこの男が気に入った。
この男と山の縁を結ぶことにしよう。
程なくして、山の持ち主が入れ代わった。
先代が旅立ったのだ。
新たな持ち主になってからは人間の出入りが増えた。
これまで人間の出入りを遠ざけてきたというのに、不思議に思うだろう。
所有の時代が終焉を迎え、分かち合いの時代が来たのだ。
私がこの男を選んだ理由がここにある。
この男なら、この山をそのままの姿で活かしてくれるに違いない。
自然の豊かさ、人間も自然の一部だということ、
地球そのものが彼らの家であること。
そういったことを、この男ならこの山に訪れる人間たちに伝えていってくれるだろう。
そう考えたのだ。
さぁ、今日もまた人間たちがやって来た。
山への、そして先代の持ち主への祈りの声が木霊する。
焚き火を見つめ、何を思うだろう。
さらに山を登り瞑想し、何を感じ取るだろう。
緑に癒され、鳥や虫の声を感じ、水の清らかさに浸り、今この瞬間自らの命が光輝いていることを存分に味わってほしい。
分かち合おうではないか。
姿は見えずとも、
この山に、この地球に縁がある者同士。
この地球の美しさを、
それぞれの命の耀きを。
私は絶えず守り続ける。
この山を、地球を、
そしてここに訪れる人間たちを。
2021/7/24~2021/7/25 和田浦にて
おへそリトリートより