じゃんくあーまー
人生何もかもうまくいかない。
誰にだってそんな時期あるんだろうけど。
まさか自分がつまずくことになるなんて思ってもみなかった。
道端に転がる小石みたいに、どこにでもあってどれもよく似ていてありふれている、
叶わない恋、報われない恋、不倫なんていう悲しい恋のお話に。
「結局人って、恋愛から1番多くを学ぶのよ。」
職場で尊敬してた先輩から言われた言葉。
スタイルよくて美人で仕事も出来て。ステキな旦那さんがいて。
この世の全てを手に入れてるような、完璧な人だった。
恋愛経験豊富で、色んな恋の話を聞かせてもらったっけ。
あれから10年は経っただろうか。
今私は、目の前にいる後輩に全く同じ言葉を掛けようとしていた。
あの頃の私は何故だか自分だけが辛い目にあっているような暗い気分で毎日を過ごしていた。
キラキラした爽やかな緑の季節とは、真逆な私。
そんな私を見かねた職場の仲間に誘われキャンプ場にBBQをしに行くことになった。
たまにはぱーっと楽しもうよ、って感じで。
休日だったので人がたくさんいた。
近くで同じくBBQをしていたグループと仲良くなって、
いつの間にか1つのグループみたいになってBBQをしていた。
みんなの賑やかな声や、大音量の音楽。
楽しかったけど少し疲れちゃって、ビール片手に川の方へ歩いた。
川の音や葉っぱがザワザワする音を静かに聞きながら1人で川を見つめていた。
すると後ろから〝大丈夫?〟と声をかけられた。
隣のグループの男性。彼は私より11コ上だった。
爽やかで優しくて、何かと私を気遣ってくれ、しばらくそばにいてくれた。
初対面だというのに仕事のことやら愚痴やら話を聞いてくれて、少し気持ちが楽になった。
結構長い間2人で話し込んでいたと思う。
みんながなんとなく片付けをし始めた頃連絡先を交換して、
数日経ってから少しずつ連絡を取り合うようになって、ゴハン行ったり、ドライブしたり、
会う回数も増えていって、当然そういう関係にもなった。
今までで1番好きになった人かもしれない、と思った。
私としては、ちゃんと恋人として付き合いたいって真剣に考えていた。
しばらく仕事の事ばっかり考えて、恋愛からは遠ざかっていたし。
だから余計にのめり込んでしまったのかもしれない。後から思えば。
自分の気持ちを伝えると、
〝俺、結婚してないけど、この先もするつもりはないんだ。
深い関係を望むのなら、俺じゃないほうがいいよ。
理解してくれるならこれからも良い関係でいられるかもしれないけど〟
と言われた。
価値観はそれぞれだし、私も別に結婚願望がすごく有る訳ではない。
まぁ、しばらくはそんな関係でもいいか、なんて軽く考えていた。
だけど、それからどれだけ一緒に過ごしてもなぜか2人の関係に幸せを感じないのだ。
今までで1番好きになった人だというのに。なんだか虚しさを感じていた。
いくらカラダを重ねても、この人の子ども絶対に妊娠しないな、なんていう意味不明な自信すらある。
カラダが拒否している。心も満たされない。何かが壊れそうだった。
人に話すと〝別れたら?〟なんて簡単に言う。
私だって他人事なら同じ事言うと思うけど。
どう考えたってハッピーエンドにはならない。
そんなこと頭では分かっているし、心の底ではちゃんと気づいている。
もはや恋でも愛でもない。
この人の事、もう全然好きじゃない。けれど認めたくなかった。
〝好き〟なんだってウソついてる。自分に。
そうやって自分で自分を縛り付けてしまっている。
自分でも自分がよく分からないけど。
私の気持ちは間違ってない。この人を好きになった自分の気持ちをただ信じたかった。
いつの間にか、初雪が降りそうな季節になっていた。
全てを理解して、受け入れたいと思って努力してきたつもりだった。
でも彼にとって私はただの遊び 。
もう限界だった。
意を決して彼と話し合いをした。私の気持ち全て。そしてこれからのこと。
案の定、平行線。
私のことなんてなんとも思っていない。声から、
目線から、全てが伝わってくる。
それでもなお、私は馬鹿みたいに彼に歩み寄ろうとしていた。
ほんの少しでも可能性があるなら、なんとかしたかった。なんとかしたいと思ってる時点で、
終わってるというのに。
私は何を手に入れようとしていたのだろう。
本当に欲しかったものは、なんだったんだろう。
数日経って
〝もう会うのやめる。〟
メッセージでそう切り出した時彼は
〝俺は最初から深い関係は望んでないといったよね。もし今君が傷ついたり悲しんだりしていてもそれは俺の責任じゃない。君が分かっていて選んだことだ。
むしろ最初から伝えていたんだから優しいくらいだろ?〟
なんて言ってきた。
私の中で何かの糸がプツリと切れた。
一言言い返してやろうと返信したときにはすでにブロックされていた。
思い出すうちに怒りがこみ上げてきた。
何が優しさだ。自分が傷つきたくないが為の逃げでしかない、未熟な言い訳。
そんな薄っぺらいプライド粉々にして
立ち直れないくらいズタズタに傷つけてやりたかった。
なんならいっそ事故でも病気でも何でもいいから死んでしまってて欲しい。
思い出す程にどうしようもなくどす黒い感情が溢れだしてくる。
〝捨ててしまいたい、何もかも全部…〟
泣き崩れる後輩の声に、はっと我に返った。
凄まじい雷鳴が鳴り響く。外はどしゃ降りの雨、春の嵐だった。
〝ただ救われたかった…気づいて欲しかった…〟
窓の外から視線を戻すと、目の前にはあの頃の私がいた。
優しいパンクお姉さん
〝じゃんくあーまー〟より
優しいパンクお姉さんについてはこちらから
2021/6/27 やさぐれパンクスvol.8
ライブの様子はこちらからhttps://twitcasting.tv/yasapank/movie/689612449