観測者たち。(小説)
「我々は完全に人類をシミュレーションできるようになった。
しかし、我々は人類について何も知らない。
ただ、我々の演算機は正確に人類の行動をはじき出す。
だが、本当に知りたかったのは、我々が人類にとって何なのか?
人類は我々にとって何なのか?ということだ。
我々は人類と出会わなければならない。」
「そんなことをしたら、人類をシミュレーションできなくなってしまう。
我々は自分自身をシミュレーションできないのだから。」
「だからだよ。人類は我々と話すことで、このシミュレーションから
逸脱する。それは、人類の新しい可能性を我々との出合いが、
与えるってことなんだ。そして、それは我々自身にとっても、
同じなのだ。」
「君を行かせるわけにはいかない。数百年かけて、
我々はこの端末に、人類を学習させた。あらゆる行動、
あらゆる風習、気候、社会、すべてだ。
これ以上、何をする必要がある?」
「我々は観測者であることをやめるのだ。
我々は我々自身によって、人類を攪乱する。
そのことによってしか、我々は人類を知り得ないのだ。
私は行く。」
彼がハッチへのドアを開けようとした瞬間、宇宙船は爆発した。
地球からは、ほんの小さな流れ星が流れたように見えただけだった。
そして、それを見たものは誰もいなかった。