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エヴァンゲリオンに寄せて

地上からまっすぐに大気が積み上がっている。

この世界はたくさんの層に覆われていて、
僕たちはこの大気の一番底で暮らしている。

幾重にも重なっている大気の層、
地球、太陽系、銀河系、銀河団、銀河団の銀河団... 

果てしない階層の、その最も内側の中で、
そして、我々の身体さえも柔らかな境界に囲まれて、

我々はここに在る。

境界には、願いが込められている。
それを産み出した人の願いがそこにある。

エヴァでアスカが「ママ、そこにいたのね!」というセリフは、
自分を形作る境界に母親を見出した言葉だ。そこでアスカは自分に向けられていた愛を取り戻す。

シンジはコクピットのLCLの海の中に溶けてしまう。境界を失ってしまう。
境界を失いながら、エヴァの中で母親に出会う。
そのエヴァはかつて母親が溶け込んでしまった初号機だから。

そしてシンジは形を取り戻す。

綾波は自らがシトと融合して爆破してしまうミッションの最後で、自分の形を失う最後で、碇司令のことを思い出す。

エヴァにはよく月が現れる。湖面に映る月は、存在の揺らぎを、
見上げる月は積み重なる大気の殻の向こう側を、そして母性を象徴する。

エヴァは、自分自身の存在の境界さえ守れずに揺らぎ続ける少年と少女が、
生きることに向かって立ち上がろうとする物語だ。

そこにはシトという世界の厳しさと、ネルフという大人社会に挟まれながら、
他人とのつながりを求めながら、自分という孤独の境界を決めなければならない、思春期の戦いが表現されている。

境界は孤独を産む。しかし、境界によって初めて存在が形作られる。
そして境界には、それを産み出した人の愛が込められている。
だから恐れず孤独になりなさい、というメッセージがそこにある。    地球が、銀河が、宇宙が、そして人間が、そうであるように。

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