素晴らしい天才フラメンコ・ダンサーと人工知能の競演

YCAMで、「Israel & イスラエル」を観てきた。大脇 理智 (Richi Owaki)さんがディレクションをし、徳井 直生 (Nao Tokui)さんが人工知能のテクニカル・ディレクションをする、芸術と技術が観客を巻き込んでぶつかり合うパフォーマンスである。

スペインの誇る天才フラメンコ・ダンサーが、日本は山口市のYCAM(山口情報芸術センター)で、人工知能と出会う。ディープラーニングによって学習されたイスラエルと、本物のイスラエルが舞台で競演している。お互いが場を制しようとする。そこには、時代を背負うもの同士の激しい衝突がある。競争ではなく、競演であり共創である。事前にイスラエルのダンスをディープラーニングをしたニューラルネットワークの人工知能にはそのマインドに厚みがある。ディープニューラルネットワークの中にイスラエルのデータをトレーニングの成果が色濃く残されているからである。

フラメンコは12拍子が戦場である。人工知能は12拍子の過去の履歴から次のステップを予測する。会場自体がセンサーであり、人工知能である。人工知能はイスラエルの動作の痕跡をトレースし、予測し、またその通りに演じてみせる。会場はイスラエルを包むが、イスラエルは内側から会場を揺らし、打ち破る。少し遅れて、人工知能はそれに応答する。

人工知能とイスラエルは互いが主と従になりながら融合し、不調和のギリギリのところから、調和の方へ引き戻す。その際に、イスラエルのアーティストとしての本能が現れる。人工知能を巻き込んで一つの見事なアートにしてしまう。人工知能は学習モデルに従って予測し出力し続けるが、イスラエルはそれを自分のリズムに取り入れて巻き込んで行く。イスラエルは人工知能を予測し、その予測が外されても先回りして場の振動とリズムを支配する。そこに調和が復活する。ポリリズムの綱渡りを曲芸のように渡って行く。

現代のコンピューティングパワーは、リアルタイムに人間とインタラクションすることを可能にしたが、先の読み合いで、イスラエルに分がある。いや、天賦の才と、厳しい訓練をしたイスラエルだからこそ、人工知能の予想を裏切りつつ、からかいつつ、取り込むのである。他の人間なら人工知能は勝ち得ただろう。そのペースに巻き込めただろう。しかし、イスラエルは何度もそれを打ち破る。そして、誰が主人かをはっきりとさせる。迂回しながらも。

イスラエルの足音は、アコースティックな音であると同時に、規則正しいデジタルな12拍を刻む。アナログとデジタルの境界にある足音は、その場と人工知能を支配し、観客はリズムの奇跡と軌跡に魅了される。

AI自体が永遠に踊り続ける赤い靴かもしれない、とイスラエルは言う。イスラエルのリズムを学んだ深層学習の靴は確かにそこにあり続け、踊り続ける。イスラエルはそれが残ることを喜び、当時に自分がコピーされることを恐れる。そして、自分がいったいパフォーマンスの中で何と対峙したかを問い始める。

模倣する技術と、模倣から逃れようとする芸術の全く新しい協奏曲を見ることができた。

https://www.ycam.jp/events/2019/israel-and-israel/

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